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9.お別れ会なんてやらないで(後編)
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「ミキ、転校するんだって?」
突然先生が言った。
最初は何のことか分からなくてきょとんと先生を見上げていただけだったけど、すぐに気がついた。
「先生、何で知ってるんですか」
「昨日、ミキのお母さんから電話をもらったんだよ。春休み中に引越しだってな」
先生はどこか寂しそうに言った。心なしか声が小さい。
わたしはうつむいた。
学校でこの話をしたくなかった。
うちの中だけでの話しなら、まだ、家以外の場所では本当のことじゃない気がしたから。
でも、先生に言われて、本当に転校するんだって、何かを突きつけられたような気がして胸が苦しくなった。
「あと一年なのに……寂しいな」
わたしは頷いた。
そう、あと一年。
どうして今なんだろう。
昨日の夜もママとそのことで喧嘩になった。
わたしがうつむいたからか、先生は急に明るい声で、「それで相談なんだけど」と、言い出した。
「お別れ会、やろうかと思うんだけど、どう?」
「お別れ会?」
誰かが転校していくたびにやっていたお別れ会を思い出した。
お別れ会って言うよりも、お楽しみ会みたいな感じだった気がする。実際、楽しかった。
グループをいくつか作って、色んな出し物をする。劇をやったり、歌を歌ったり、全員が何かやる。人形劇とか、紙芝居とかやったこともあったなあ。
うん、楽しかった。
でも、それは送り出す側、それをやるほうだったから、楽しかったのかもしれない。
準備のために授業が何時間かつぶしたりするから、それも嬉しかったりした。
転校して行く子には当日まで内容を知られないように気をつけながら用意する。
出し物は何にしようか、その準備はどうしよう、誰の家に集まるか、などなど、当日までワクワクが止まらない。
だから、楽しかった思い出しかない。
でも、実際に自分が送り出される側になったらどうなんだろう。
みんなが楽しそうに準備している間、わたしは一人ぼっちだ。
それで気がついた。
今まで、送る会って何度もやったことがあったけど、転校していく子のためにって思ってやったことってなかったかもしれない。わたし以外は違うかもしれないけど、でも、少なくともわたしは、自分が楽しい方が優先だった気がする。
みんなが楽しそうに準備している間、わたしは何をしていたらいいんだろう。
今まで、転校して行った子達は、わたし達が出し物の準備をしていた間、どうしていたのか思い出そうとしたけど、ちっとも思い出せなかった。
そう思うと、悲しくなった。
「いいです」
「送る会、いらないってことか?」
「はい。それから……」
わたしは真剣に先生を見上げた。
先生の大きな目がわたしを見下ろしている。
「わたしが転校するってことは、秘密にしてください」
先生はちょっとびっくりしてから頷いた。
「いいよ」
それから先生は、転校するまでにわたしがしておかないといけないこととか、駅前の色んな事をしてくれた。どういうお店があって、どれだけ便利か、自分もよく行くとかそんな話だった。
駅前の話をするときはいい事ばっかり言うんだなって、うなずきながら別のところで思った。
ママといっしょだ。
いい事、楽しいことを見せて、わたしの気持ちをごまかそうとしているようにしか思えなかった。
「教頭先生のお花ってこれですか?」
「うん、そうだよ。きれいだろ」
先生はもっと話していたそうにしていたけど、一クラスあたりに決められた五本だけバケツから引き抜いて早足で教室に向かった。
どうしてだろう。大好きな先生なのに、今は顔を見ているのが嫌だった。
突然先生が言った。
最初は何のことか分からなくてきょとんと先生を見上げていただけだったけど、すぐに気がついた。
「先生、何で知ってるんですか」
「昨日、ミキのお母さんから電話をもらったんだよ。春休み中に引越しだってな」
先生はどこか寂しそうに言った。心なしか声が小さい。
わたしはうつむいた。
学校でこの話をしたくなかった。
うちの中だけでの話しなら、まだ、家以外の場所では本当のことじゃない気がしたから。
でも、先生に言われて、本当に転校するんだって、何かを突きつけられたような気がして胸が苦しくなった。
「あと一年なのに……寂しいな」
わたしは頷いた。
そう、あと一年。
どうして今なんだろう。
昨日の夜もママとそのことで喧嘩になった。
わたしがうつむいたからか、先生は急に明るい声で、「それで相談なんだけど」と、言い出した。
「お別れ会、やろうかと思うんだけど、どう?」
「お別れ会?」
誰かが転校していくたびにやっていたお別れ会を思い出した。
お別れ会って言うよりも、お楽しみ会みたいな感じだった気がする。実際、楽しかった。
グループをいくつか作って、色んな出し物をする。劇をやったり、歌を歌ったり、全員が何かやる。人形劇とか、紙芝居とかやったこともあったなあ。
うん、楽しかった。
でも、それは送り出す側、それをやるほうだったから、楽しかったのかもしれない。
準備のために授業が何時間かつぶしたりするから、それも嬉しかったりした。
転校して行く子には当日まで内容を知られないように気をつけながら用意する。
出し物は何にしようか、その準備はどうしよう、誰の家に集まるか、などなど、当日までワクワクが止まらない。
だから、楽しかった思い出しかない。
でも、実際に自分が送り出される側になったらどうなんだろう。
みんなが楽しそうに準備している間、わたしは一人ぼっちだ。
それで気がついた。
今まで、送る会って何度もやったことがあったけど、転校していく子のためにって思ってやったことってなかったかもしれない。わたし以外は違うかもしれないけど、でも、少なくともわたしは、自分が楽しい方が優先だった気がする。
みんなが楽しそうに準備している間、わたしは何をしていたらいいんだろう。
今まで、転校して行った子達は、わたし達が出し物の準備をしていた間、どうしていたのか思い出そうとしたけど、ちっとも思い出せなかった。
そう思うと、悲しくなった。
「いいです」
「送る会、いらないってことか?」
「はい。それから……」
わたしは真剣に先生を見上げた。
先生の大きな目がわたしを見下ろしている。
「わたしが転校するってことは、秘密にしてください」
先生はちょっとびっくりしてから頷いた。
「いいよ」
それから先生は、転校するまでにわたしがしておかないといけないこととか、駅前の色んな事をしてくれた。どういうお店があって、どれだけ便利か、自分もよく行くとかそんな話だった。
駅前の話をするときはいい事ばっかり言うんだなって、うなずきながら別のところで思った。
ママといっしょだ。
いい事、楽しいことを見せて、わたしの気持ちをごまかそうとしているようにしか思えなかった。
「教頭先生のお花ってこれですか?」
「うん、そうだよ。きれいだろ」
先生はもっと話していたそうにしていたけど、一クラスあたりに決められた五本だけバケツから引き抜いて早足で教室に向かった。
どうしてだろう。大好きな先生なのに、今は顔を見ているのが嫌だった。
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