推し活ぐー!

明日葉

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・いざ芸能科学生寮!

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58階の表示が点滅して、エレベーターが開いた。
私は降りたくないから綱引きみたいに思いっきり後ろに体重をかけたんだけど、
樹林君は心底楽しそうに私をひょいと軽々ひっぱり、エレベーターから降ろした。
どこに連れていかれるのかわからないけど、流石に嫌な予感がする。
もう、他の生徒や先生や管理人さんに見つかって、今おこられるの方がましだ。
私は大声で叫ぶことにした。
「もう、樹林君、止めてください!!私をもとの場所に戻してくださいっ!!」
「しーー。ダメだよ、大きな声出したら、夜だし、ね??」
私の口をポンと片手で塞いだ上で、手も放していないものだから、樹林君は完全に人攫いみたいな体勢になっている。
抵抗むなしく、ひとつの部屋の前でに連れてこられた。
樹林君が学生証をかざすと、ピーっと扉が開いた。

部屋の中は薄暗く、リビングに電子時計の明かりだけが光輝いている。
私をリビングに連れてきたら満足したのか、口をふさいだ手と、繋いでいた手を離した。
そして無造作に、ぽんと床に座らされた。

パチンと電気がつけられた。
あまりのまぶしさに、目を見開くことができない。
目が慣れて、徐々に目を開いてみたら、そこには。
「小学生の小学生による小学生のための推し活グッズ!」
リビング丸々一部屋を埋め尽くすほど大量に、私の本があった。

「ーーーーなにこれ。どうして、こんなに沢山……」
「ふふっ、すごいでしょー!一杯買ったんだー!ほら、俺の推しは君だからさ??」
「えっ??推し??」
それは、おかしい。私が樹林君の推しのはず。
その逆ってどういうこと?
「そ、俺を応援してくれている君が俺の推し。
君がグッズを作ってくれたから頑張ってみようって思ったんだ。
君が俺にファンサしてっていうからファンサする。
君が応援してくれるから、力になる。
去年の夏からずっと、君に見てもらいたくて頑張ってきたんだ。
ほら、東園寺さん、あの人が4月になったら君が来るって!
そしたら、学校で、話をしても、触っても大丈夫になるって言ってたから。
俺、今日までずっとずっと、頑張ったんだよ?」
それは知ってる。
あのコンサートから人が変わったように歌にもダンスにも一生懸命になっている樹林君をテレビやTtubeで、見てきたから。
樹林君が色々頑張っているから、私もTtubeの更新をマメにしたり、勉強を頑張ろうって思えていたから。
頑張ってて偉いなってずっと思っていた。
微力ながら応援してきた。
樹林君の良さを知ってほしいって、そう思いながら、ハンドメイドだってしてきた。
一杯FIZZERのグッズが売っていて、もっと買いたいなって思っても我慢してきた。
だって、私一人がいっぱい持っているより、他にもいるFIZZERのファンが持ってくれた方が嬉しさはずっとひろがるじゃない。
それに、新しくファンになった子が買えるかもしれないじゃない。
だけど、だけど、この本は一体何のつもりなんだろう。
「あの、どうして本、こんなに買ってるんですか。こんなに沢山、いりませんよね?」
「えっ?どうして??君らが俺にしてくれているのと一緒じゃない?
愛があるから、推しに貢ぐってやつでしょう??
ほら、よく言うじゃない??
推しへの課金は愛だって??
課金すれば課金するほど愛してるって意味だって」
樹林君は私の只ならぬ雰囲気を察知したのか流石に慌てだしている。
確かに、大人のファン達や子供でもお金を持っている人の中にはそういう人もいるってこと知っている。
だけど、だけどね?
「ーーー樹林君はこの本、全部読みました?」
「えっ?読んでないよ??当り前じゃない、こんなによめないよー」
「それじゃあ、この本に価値はないです。」
「え?何言ってーーー??」
「本は読まれて、私の本だったら、作られてそれで初めて価値があるんです。
観賞用と保存用と布教用って3つくらいまでなら買う人もいるのかなって思います。
だけど、それぞれ用途がありますよね?
樹林君、この本に用途はありますか?」
「え、用途って使い道??ないけど??」
「ほら、そこが違うって言っているんですよっ!!!」
私は思わず声を荒げてしまう。
思い出すのは、初めて自分の本が並んだ本屋さん。
そして、私の本を買えなかった小さなちいちゃんのこと。
こんなに一人の人が買い占めなかったら、私の本はもしかしたら、あのちいちゃんに読んでもらえたのかもしれなかったのに。
「私が買ってほしかったのは、読みもしない、使いもしない、だけど沢山買ってくれる樹林君じゃない。
読んで、作ってみようって思ってくれる人たちにこそ買ってほしいんです!
そういう人が一冊を大事にしてくれるほうが、私にはずっとずっと嬉しいんです!」
重版がかかる度に喜んでくれた編集部の人たちを思い出す。
あんなに喜んでいたのに。
ごめんなさい、この本はずるでいっぱい売れていたみたいです。
本当に私の本をほしいと思って買ってくれた人がいたわけじゃなかったみたいです。
ここにある本が私の本の全ての売り上げじゃないって、数をみたらわかる。
だけど、だけど。
こんなのってあんまりじゃないか。
私は情けないやら悔しいやらで涙が出てきた。
「えっ、どうして泣いてっ!!って、うれし涙!!」
私はブンブン首を振って否定する。
この大量の本を見てうれし涙を流すような情緒は持ち合わせていない。
「……じゃ、ないよね……」
そうだよ、悲しいし悔しいんだよ。
たくさん売れたって喜んでいた自分が愚かに思えるんだよ。
流石にこの状況で、どう声をかけたらいいのかわからないんだろう。
ぺたりと座って泣きじゃくる私の前に、困った顔で、樹林君はしゃがんでいた。





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