推し活ぐー!

明日葉

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・君を奪う理由《SIDE シオン》

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最近何だかついていない。
そう、これはプリンセスのせい。

FIZZERは人気投票が多い。
事務所の人間は、わかってない。
それが、どれだけ、ボクらを苦しめているか。
結成当時は、まあまあ仲が悪くはなかったボクたちなのに、人気投票が始まってからギクシャクしだした。
コンサートに行けば、ペンライトの色で嫌でも自分の人気がどれくらいかわかってしまうものなのに、それだけでは飽き足らず、人気投票が始まってから、順位という形で、はっきりメンバーに差がつけられた。
人気投票をすれば、順位が下のヤツは、俺らが歌ったり踊ったりを頑張れるだろう。
発破をかけられるからやっているんだと言っていたけど、本当の理由は違う。
わかりやすく、投票のための商品が売れるから。
そしたら、事務所が儲かるから。
それだけだって、バカなボクでもわかる。

でも、俺はやさぐれないでいられた。
だって、最初の1回目の投票を除いたら、圧倒的、ダントツに不人気なメンバーがいるから。
それは、FIZZERの黄色。
不思議担当、樹林棋王。
我らが省エネ大臣だ。
何でも本当はできる癖に、ある時からいきなり出し惜しみはじめた。
赤色担当の熱い男のリーダーは、何度もやる気を出せと注意をやめないけれど、棋王が変わることはなかった。
そして、ずーーーーっと最下位を維持してくれてた。
正直、最下位じゃないと、気分的には楽でいられる。
ボクは3位、4位争いをすれば良くなった。

ところがどうだ。
夏のコンサートの少し前から、棋王はもとの棋王に戻り出した。
もともと何でもできるやつだったんだ。
本気をだしたらほら、ボクなんか足元にも及ばない。
そして、迎えたコンサート。

会場は、はっきり言って、棋王の独壇場だった。
あれだけ嫌がっていた、ファンサなんかしだしちゃってーーーって、なんか関係者席にばっかりしていない?
ボクは関係者席近くに行った時に、棋王のファンでもいるのかと思ってよーっく目を凝らした。
あ、舞台の上からでも、客席って意外とよく見えるからね?
そしたら、一人棋王の団扇を持っている子がいる。
別に取り立てて特徴のない普通の女の子。
まあ、キラキラした目で、ボクらを見てくれている所は合格かな?
隣の透真のファンか、その横のおねーさん達の方が可愛いんじゃない?
まあ、ボク以上に可愛い女の子なんて早々いないから、ボクが結局1番なんだけどねー。
他には、棋王のファンは特になしっと。
関係ないかもしれないけど、一応覚えておこうーっと。

それから、棋王は何事にも手を抜かない。
歌番組も、バラエティー番組も、Ttubeの番組だって。
そうしたら、どうだ。
棋王の人気が段々と上がってきた。
最下位争いをしなくてはいけなくなったのはーーーボク。

「ねえねえ、棋王、どうしていきなりそんなにやる気になったのーーー?」
「……プリンセスのため」
ーーだれだよ、プリンセスって。人じゃなく暗号か何か?
ボクらは、すっごく忙しい。
睡眠時間も削って芸能活動しているから、いつでもどこでも寝ようとするやつは寝ようとする。
中でも棋王は、特別に寝る。
そして、棋王ってば、寝ぼけている時だけ、口が軽くなるんだよね。
長い付き合いだから、これくらい知っている。
これで、嫌いな食べ物とか、苦手な虫とか聞きだして、Ttubeのクイズ番組で、棋王を最下位に陥れたこともあったし!
「ねえねえ、プリンセスってだれーー」
「……俺の女神」
ーーープリンセスなのか女神なのかどっちなんだよ。
「ねえ、プリンセスってどんな人ーー」
「……一生懸命で器用」
ーーーふーん。
「ねえ、プリンセスとはいつ会うのーー?」
「もうすぐ会える」
ーーーへーー。
「プリンセスとどこで会うのーー?」
「……学校」
ーーーってことは、小学生から高校生か。いや、教師の可能性も?
ボクは、まあまあ長い日数をかけて、情報収集していった。
結果。
どうやらプリンセスは生身の人間の女の子で、自分を応援してくれているファンの子で。
一生懸命で器用で、マメで、棋王を応援していて、黒髪で、中学校でもうすぐ会える。
そんなヤツのことらしかった。
学校で会える……女の子ねえ?じゃあ学生ってことだ。

「棋王はまだかーーー?」
「最近遅刻とかしなくなったのにな」
「俺もう1回電話かけるわ」
「いや、もう呼びに行かないと間に合わなくね?」
「じゃあー、ボクが行ってくるねー」
そんなある日、集合時間にやってこない棋王を、寮の部屋に迎えに行く機会が訪れた。
管理人さんにお願いしてカードキーで部屋を開けてもらう。
棋王の弱みになるようなものでも見つけられたら万々歳なんだけど。
ま、どーせ、また、なんにも置いてない部屋なんだろうけ……って、ナニコレ。
なんで、こんなものが大量にあるの??
その物に囲まれて、棋王はパソコンでTtubeを開いたまま、机に突っ伏して寝ていた。
画面を除くと、全部同じ人物の動画。
「って、こんなことしている場合じゃない、棋王、遅刻だって!今でなきゃ、マジヤバいって!」
「遅刻……って、やばっ!」
棋王は、鞄だけ持って慌てて飛び出した。
「ちょ、すみませんー、鍵かけといてくださいーーっ!!」
ボクは管理人さんにお願いして走る。
「棋王ーーーー!!遅刻はいかんとあれほどっ!!」
集合場所で車に乗りこんだ。
リーダーにお説教をくらっている棋王を尻目に、俺は息を整え、携帯電話でさっきのTtubeを検索する。
「推し活ぐー!」
アホみたいなタイトルに、関連動画がずらりと並ぶ。
へーー、見事に棋王の手作りグッズだらけ。
うわ、更新1週間に1回とか、マメだな。
って、これ。
チャンネル名の下の、登録名にpurin1sentenceの文字。
プリン1センテンス……
えっ、もしかして、これでプリンセスって呼んでんの??

うっわーーー、恥ずかしい奴!!
でも、謎が解けた、これがプリンセスの正体ね。

棋王の希望がプリンセスなら、そんなの俺が貰っちゃえばいいんじゃない?
そうしたら、もとの棋王に戻って、最下位でいてくれるでしょ?
ほらさ、ボクはファンの子達から王子様って呼ばれているよ?
王子の隣にはプリンセス。
これが常識ってもんじゃない?


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