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・君を守りたい理由《SIDE久臣》
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ほのちゃんは大事な幼馴染だった。
甘ったれの俺が付きまとっても文句も言わず、世話を焼いてくれる。
生粋の弟属性の俺は、ほのちゃんの迷惑も考えず、金魚のフンみたいについて回っていた。
それが変わったのは、小学3年生の時。
あいつのせいで、ほのちゃんのお母さんが死んでしまったから。
俺を見ると、ほのちゃんはお母さんがどうして死んでしまったかを思い出してしまう。
無理もない、あいつと俺はそっくりだったから。
だから、森乃家とほのちゃんは離れた方が良い。
そう大人たちは話し合って決めた。
ほのちゃんのお母さんの思い出がつまった家を、ほのちゃんが出て行かなきゃいけなくなるのが悲しかった。
あいつのせいで、ほのちゃんと離れ離れにならなきゃいけないのが悔しかった。
だけど、俺を見たら、ほのちゃんが泣くから、仕方がなかった。
ほのちゃんが俺を忘れるか、あいつを忘れるか、ほのちゃんのお母さんが死んでしまった理由を忘れるか。
そんな奇跡でも起きない限り、金輪際ほのちゃんに会えないってことが小さい俺にも理解できた。
俺は寂しさを埋めるために、ただひたすらに勉強することにした。
そうしている間は、ほのちゃんのことを考えないで済む。あいつがやらかしたことを恨まないで済む。
それに、成績が上がれば上がるほど、両親は喜んだ。
まさにウィンウィンってやつだ。
あいつに似たくないという俺の執念なのか、それとも元々小さいころだけ似る遺伝子だったのか、俺はとは全然似ても似つかない育ち方をした。
母親似だったのが父親似に。
小さくてよくて中性的、悪くて女みたいと言われる容姿から、どこからどうみても男になった。
そして、良いことか悪いことかはわからないけど、ほのちゃんは、お母さんがどうして死んでしまったかを忘れた。
何かの拍子に思い出してはいけないと、ずっとずっと会わないでいたのに、父さんがやらかした。
ほのちゃんの家で、酔っぱらって爆睡しやがった。
よりによって次の日……といっても2時間後に、仕事を家でしなきゃいけない日に。
どうしても、家に連れ帰らなきゃいけない。
俺と母さんは、父さんを回収しに向かった。
もし、俺を見て、ほのちゃんが泣きだしたら、これまでの苦労が水の泡だ。
でも、俺はあいつとは欠片も似ていない。
一か八かのかけだった。
「あ、これ、久臣!ちょっとあんた挨拶位しなさいよ!」
母さんが、俺に言う。
知らない人を装って家に入ることを母さんに提案したけど、そちらの方が怪しいから、自然に振る舞うように言われていたけど、いざとなると言葉が出ない。
俯きながら、玄関に入るけど、ほのちゃんの事も見れない。
俺を見てまた泣きだされたら、俺は……。
「あ、久しぶり。ひー君。おじさんの言った通りだ。ほんとすっごい大きいね!」
今まで話さなかったブランクを感じさせない位、自然に話しかけられた。
まるで、クラス替えで遠く離れてしまった同級生みたいに。
まるで、久しぶりに会った幼馴染に向けるみたいに。
驚いて顔を上げると、そこには知らない女の子がいた。
サラサラのロングヘアだったのに、今は肩までのまっすぐな髪。
あんなに小さかったのに、母さんくらい大きくなっている。
ぺちゃっとしていた鼻は高くなって、くりくりだった目は涼やかな目元に。
かわいかったほのちゃんは、凄く凄く綺麗になっていた。
小さいころはどちらかと言えばほのちゃんのお母さんに似ていたのに、今はどちらかといえばほのちゃんのお父さんに似ているかも。
俺が大変貌を遂げたのと同じくらい、ほのちゃんも変わっていた。
もう、ほのちゃんって呼ぶのは全然似合わない位に。
だから、なんと呼んだらいいかわからなくて、よけいに話せない。
「はいっ!!おばさん本当にありがとうございました。おじさんにもよろしくお伝えください!あっ、ひー君も、本当にありがとう!」
「おーー」
あのことをすっかり忘れているほのちゃんは、もう俺をみていきなり泣き出したりしない。
普通に俺をみて、普通に俺に話しかけてくれる。
そのことがただただ嬉しかった。
父さんを車の後部座席に寝転がせて、助手席に乗り込む。
母さんの運転は、ブレーキの掛け方が上手で優しい運転だ。
「ほのちゃん……良かったね」
母さんは涙声で呟く。
「うん……」
俺の声も涙声だと思う。
誤魔化すように、助手席の窓から外を眺める。
車のテールランプと街灯が、いつもよりも大きく、淡く光っていた。
甘ったれの俺が付きまとっても文句も言わず、世話を焼いてくれる。
生粋の弟属性の俺は、ほのちゃんの迷惑も考えず、金魚のフンみたいについて回っていた。
それが変わったのは、小学3年生の時。
あいつのせいで、ほのちゃんのお母さんが死んでしまったから。
俺を見ると、ほのちゃんはお母さんがどうして死んでしまったかを思い出してしまう。
無理もない、あいつと俺はそっくりだったから。
だから、森乃家とほのちゃんは離れた方が良い。
そう大人たちは話し合って決めた。
ほのちゃんのお母さんの思い出がつまった家を、ほのちゃんが出て行かなきゃいけなくなるのが悲しかった。
あいつのせいで、ほのちゃんと離れ離れにならなきゃいけないのが悔しかった。
だけど、俺を見たら、ほのちゃんが泣くから、仕方がなかった。
ほのちゃんが俺を忘れるか、あいつを忘れるか、ほのちゃんのお母さんが死んでしまった理由を忘れるか。
そんな奇跡でも起きない限り、金輪際ほのちゃんに会えないってことが小さい俺にも理解できた。
俺は寂しさを埋めるために、ただひたすらに勉強することにした。
そうしている間は、ほのちゃんのことを考えないで済む。あいつがやらかしたことを恨まないで済む。
それに、成績が上がれば上がるほど、両親は喜んだ。
まさにウィンウィンってやつだ。
あいつに似たくないという俺の執念なのか、それとも元々小さいころだけ似る遺伝子だったのか、俺はとは全然似ても似つかない育ち方をした。
母親似だったのが父親似に。
小さくてよくて中性的、悪くて女みたいと言われる容姿から、どこからどうみても男になった。
そして、良いことか悪いことかはわからないけど、ほのちゃんは、お母さんがどうして死んでしまったかを忘れた。
何かの拍子に思い出してはいけないと、ずっとずっと会わないでいたのに、父さんがやらかした。
ほのちゃんの家で、酔っぱらって爆睡しやがった。
よりによって次の日……といっても2時間後に、仕事を家でしなきゃいけない日に。
どうしても、家に連れ帰らなきゃいけない。
俺と母さんは、父さんを回収しに向かった。
もし、俺を見て、ほのちゃんが泣きだしたら、これまでの苦労が水の泡だ。
でも、俺はあいつとは欠片も似ていない。
一か八かのかけだった。
「あ、これ、久臣!ちょっとあんた挨拶位しなさいよ!」
母さんが、俺に言う。
知らない人を装って家に入ることを母さんに提案したけど、そちらの方が怪しいから、自然に振る舞うように言われていたけど、いざとなると言葉が出ない。
俯きながら、玄関に入るけど、ほのちゃんの事も見れない。
俺を見てまた泣きだされたら、俺は……。
「あ、久しぶり。ひー君。おじさんの言った通りだ。ほんとすっごい大きいね!」
今まで話さなかったブランクを感じさせない位、自然に話しかけられた。
まるで、クラス替えで遠く離れてしまった同級生みたいに。
まるで、久しぶりに会った幼馴染に向けるみたいに。
驚いて顔を上げると、そこには知らない女の子がいた。
サラサラのロングヘアだったのに、今は肩までのまっすぐな髪。
あんなに小さかったのに、母さんくらい大きくなっている。
ぺちゃっとしていた鼻は高くなって、くりくりだった目は涼やかな目元に。
かわいかったほのちゃんは、凄く凄く綺麗になっていた。
小さいころはどちらかと言えばほのちゃんのお母さんに似ていたのに、今はどちらかといえばほのちゃんのお父さんに似ているかも。
俺が大変貌を遂げたのと同じくらい、ほのちゃんも変わっていた。
もう、ほのちゃんって呼ぶのは全然似合わない位に。
だから、なんと呼んだらいいかわからなくて、よけいに話せない。
「はいっ!!おばさん本当にありがとうございました。おじさんにもよろしくお伝えください!あっ、ひー君も、本当にありがとう!」
「おーー」
あのことをすっかり忘れているほのちゃんは、もう俺をみていきなり泣き出したりしない。
普通に俺をみて、普通に俺に話しかけてくれる。
そのことがただただ嬉しかった。
父さんを車の後部座席に寝転がせて、助手席に乗り込む。
母さんの運転は、ブレーキの掛け方が上手で優しい運転だ。
「ほのちゃん……良かったね」
母さんは涙声で呟く。
「うん……」
俺の声も涙声だと思う。
誤魔化すように、助手席の窓から外を眺める。
車のテールランプと街灯が、いつもよりも大きく、淡く光っていた。
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