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「お父さん、飲みすぎっ!!森乃のおじさんが運んでくれたんだよっ!!覚えてる??」
次の日の昼過ぎに、ボヤボヤのぐてぐて状態のお父さんがやっと起きてきた。
まだ、ちょっぴりお酒臭い。
「ううーー、家に着いたところまでは、覚えてる。」
「お父さん寝ちゃってて、森乃のおじさんが運んでくれたの!でも、その後、森乃のおじさんが寝ちゃって、おばさんとひー君が迎えにきて、おじさんを連れて帰ったの」
私はお水をコップに注いでお父さんに手渡した。
「えーーー、それは悪いことした……って、メール来てるわ」
水を飲んで、ポケットから携帯電話を取り出したお父さんは、メールを読みだした。
「わーー。森乃から。」
「お礼、言っておいてね。てか、お父さん、お風呂入ったほうがいいよ。ヨレヨレだよ」
「……うん、そうするわ」
朝ごはんは、お父さん特製のお茶漬けだった。
鮭フレークとお茶と乾燥野菜が入っていて、なかなかに美味しい。
「ひー君、久々に会っただろ?えと……、大丈夫だったかい?」
「え、なにが??あ、おじさんを運べたかってこと??
それがねー、ひー君もうすっごい大きくなってたの!おじさんより!
だから、おばさんと二人で上手に運んでたよー。びっくりしちゃった。」
「いや、そうじゃないんだけど……いや、大丈夫ならよかった」
お父さんはお茶漬けにフーフーと息を吹きかけて冷ましだした。
食欲があまりないのか、いつもより食べるのが遅い。
「ね、それより、お父さん、森乃のおじさんに聞いたんだけど、南極行けるの?」
「……うん、そうなんだ。でも、お父さん断ろ…」
「ううん、南極行けるチャンスって全然ないって言ってたじゃない。お父さん、行った方がいいよ」
「でも、穂香をひとりにするわけには……」
「お父さん、あのね、私、白黒星学園に行きたくなっちゃったんだよね。」
私は、お茶漬けを完食して、お水を飲んで一息ついた。
そして、向かいに座るお父さんをじっと見つめる。
「よくよく考えたら、寮生活って楽しそうじゃない?
設備は最新だし、授業料タダなんて、行かなきゃもったいないじゃない!
それに、私が入学するなら李衣菜ちゃんも入るって言ってたし、一人じゃないから楽しいよ。」
私は自分に言い聞かせるように話をする。
そう、これは、悪くない話だ。
私にとってもそうだし、なによりお父さんにとって。
子供を一人にする心配をせずに、仕事を存分にできるのだから。
「穂香……」
「それにね、昨日ライブを見て、本当にキリン君のファンになったんだ!
樹林君、白黒星学園の小等部に通ってるんだよ。
このまま中等部に進むだろうし、そしたら、推し、見放題じゃん!こんなチャンスってないよ!」
私はあえて李衣菜ちゃんが透真君に向けるような熱量で話す。
半分は本音、半分は嘘だ。
お父さんとずっと暮らしたいから本当は行きたくない。
樹林君のファンになったけど、李衣菜ちゃんみたいに、近くで見て、推しに認知されたいとなんて思わない。
その活躍を応援して、グッズを作るくらいで十分だ。
たまに、コンサートとか、生で遠くから見れる機会があったら嬉しいなって思う程度だ。
だけど、それがお父さんに伝わったら、私を置いて、南極に行くことに罪悪感を感じちゃうかもしれない。
だから私は、樹林君の熱狂的なファンになったかのように装うんだ。
せめて、お父さんが夢を叶えるまでは。
「だってすごいんだよ!昨日の樹林君ね……」
私はコンサートで樹林君がいかに素晴らしかったかを語る。
これは、本当に凄いと思ったことだから、淀みなく言える。
近くにいたいとは思わない。だけど、人によっては、近くにいれることがどれだけ重要なことかはよくわかる。
クラスのファンの子達だって、「もし、同じクラスに推しがいたら」というたられば話をよくしているから。
その子達の真似をしたらいいんだ。
「穂香……。そっか。……ごめんな、父さん本当はすごく行きたい」
「いいよいいよ、行こうよ南極!私は憧れのアイドルの近くで、楽しい寮生活を送るしさ!!
二人とも楽しいんだから、ウィンウィンだよ!あー、なんか、本当に楽しみだね!」
私は心から嬉しそうに笑えているかな。
お父さんがごめんって言っちゃっているからバレているのかな。
でもいいや。お父さん、南極に行くって言ってくれたし。
せめて、私が、皆みたいに寝ても覚めても推しに夢中な女の子だったら、本当に喜べたのにな。
泣き笑いみたいなお父さんの顔を見て、私も同じ顔をしているのかもしれないって思った。
次の日の昼過ぎに、ボヤボヤのぐてぐて状態のお父さんがやっと起きてきた。
まだ、ちょっぴりお酒臭い。
「ううーー、家に着いたところまでは、覚えてる。」
「お父さん寝ちゃってて、森乃のおじさんが運んでくれたの!でも、その後、森乃のおじさんが寝ちゃって、おばさんとひー君が迎えにきて、おじさんを連れて帰ったの」
私はお水をコップに注いでお父さんに手渡した。
「えーーー、それは悪いことした……って、メール来てるわ」
水を飲んで、ポケットから携帯電話を取り出したお父さんは、メールを読みだした。
「わーー。森乃から。」
「お礼、言っておいてね。てか、お父さん、お風呂入ったほうがいいよ。ヨレヨレだよ」
「……うん、そうするわ」
朝ごはんは、お父さん特製のお茶漬けだった。
鮭フレークとお茶と乾燥野菜が入っていて、なかなかに美味しい。
「ひー君、久々に会っただろ?えと……、大丈夫だったかい?」
「え、なにが??あ、おじさんを運べたかってこと??
それがねー、ひー君もうすっごい大きくなってたの!おじさんより!
だから、おばさんと二人で上手に運んでたよー。びっくりしちゃった。」
「いや、そうじゃないんだけど……いや、大丈夫ならよかった」
お父さんはお茶漬けにフーフーと息を吹きかけて冷ましだした。
食欲があまりないのか、いつもより食べるのが遅い。
「ね、それより、お父さん、森乃のおじさんに聞いたんだけど、南極行けるの?」
「……うん、そうなんだ。でも、お父さん断ろ…」
「ううん、南極行けるチャンスって全然ないって言ってたじゃない。お父さん、行った方がいいよ」
「でも、穂香をひとりにするわけには……」
「お父さん、あのね、私、白黒星学園に行きたくなっちゃったんだよね。」
私は、お茶漬けを完食して、お水を飲んで一息ついた。
そして、向かいに座るお父さんをじっと見つめる。
「よくよく考えたら、寮生活って楽しそうじゃない?
設備は最新だし、授業料タダなんて、行かなきゃもったいないじゃない!
それに、私が入学するなら李衣菜ちゃんも入るって言ってたし、一人じゃないから楽しいよ。」
私は自分に言い聞かせるように話をする。
そう、これは、悪くない話だ。
私にとってもそうだし、なによりお父さんにとって。
子供を一人にする心配をせずに、仕事を存分にできるのだから。
「穂香……」
「それにね、昨日ライブを見て、本当にキリン君のファンになったんだ!
樹林君、白黒星学園の小等部に通ってるんだよ。
このまま中等部に進むだろうし、そしたら、推し、見放題じゃん!こんなチャンスってないよ!」
私はあえて李衣菜ちゃんが透真君に向けるような熱量で話す。
半分は本音、半分は嘘だ。
お父さんとずっと暮らしたいから本当は行きたくない。
樹林君のファンになったけど、李衣菜ちゃんみたいに、近くで見て、推しに認知されたいとなんて思わない。
その活躍を応援して、グッズを作るくらいで十分だ。
たまに、コンサートとか、生で遠くから見れる機会があったら嬉しいなって思う程度だ。
だけど、それがお父さんに伝わったら、私を置いて、南極に行くことに罪悪感を感じちゃうかもしれない。
だから私は、樹林君の熱狂的なファンになったかのように装うんだ。
せめて、お父さんが夢を叶えるまでは。
「だってすごいんだよ!昨日の樹林君ね……」
私はコンサートで樹林君がいかに素晴らしかったかを語る。
これは、本当に凄いと思ったことだから、淀みなく言える。
近くにいたいとは思わない。だけど、人によっては、近くにいれることがどれだけ重要なことかはよくわかる。
クラスのファンの子達だって、「もし、同じクラスに推しがいたら」というたられば話をよくしているから。
その子達の真似をしたらいいんだ。
「穂香……。そっか。……ごめんな、父さん本当はすごく行きたい」
「いいよいいよ、行こうよ南極!私は憧れのアイドルの近くで、楽しい寮生活を送るしさ!!
二人とも楽しいんだから、ウィンウィンだよ!あー、なんか、本当に楽しみだね!」
私は心から嬉しそうに笑えているかな。
お父さんがごめんって言っちゃっているからバレているのかな。
でもいいや。お父さん、南極に行くって言ってくれたし。
せめて、私が、皆みたいに寝ても覚めても推しに夢中な女の子だったら、本当に喜べたのにな。
泣き笑いみたいなお父さんの顔を見て、私も同じ顔をしているのかもしれないって思った。
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◆◆◆第1回きずな児童書大賞エントリー作品です◆◆◆
表紙絵は「イラストAC」様からお借りしました。
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