推し活ぐー！

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再び会場の照明が落とされる。
一瞬音もなく、静かになる会場に、ピアノの一音が響く。
もの悲しいメロディーは、胸を締め付けられるほど切ない。
まだ、誰も歌い出していないのに、なんだか、涙が出そうになった。

スポットライトを浴びて、歌い出したのは、キリン君。
樹林君って、こんなにも儚い声が出せるんだ。
それから、次々に歌うメンバーにスポットライトが当たっていく。
あんなにキャーキャー騒いでいたファン達も、ペンライトを振るのも忘れて見入ってしまっている。

ーーーこの曲、すごくモリノミリオネラさんが作る曲に似てる。

私は、違う意味で驚いていた。
そして、歌う人が違うと、こんなに感じがかわることにも。
モリノミリオネラさんが歌うと切ないけれど、なぜか頑張ろうって気持ちになる。
だけど、樹林君が歌うとーーーー、こんなに、どうしようもないほど悲しいんだ。
どうしてか、目が離せない。
ずっと、聞いていたくなる。

今までの曲と違って、バックモニターには雪みたいに、白い光の粒が降り注ぐような映像だけ。
レーザー光線や、火柱のような派手な演出もなく、歌う人それぞれにスポットライトが当たるだけ。
踊りだって、他の曲より簡単なステップで、ほとんど手だけの振り付けだ。
それなのに、今までよりもずっとずっと、樹林君から目が離せない。

何かにすがるみたいに伸びたその手は、こちらに向かってやってきて、大切なものを逃さぬようにギュッと固く握られた。
その声で、その仕草で、その視線だけで。
堕ちるのは一瞬だった。
私の押しは樹林君になったんだ。