推し活ぐー!

明日葉

文字の大きさ
上 下
20 / 59

・魅惑の君

しおりを挟む
「やっと、会えたね!!すっごい嬉しい!!」
樹林君は、とろけるような甘い笑顔で頬を染めながら誰かに向かって話している。
えと、野々原さん、知り合い……?
李衣菜ちゃんの隣に座っている野々原さんを伺みたんだけど、李衣菜ちゃんに負けない位あわあわしている。
李衣菜ちゃんも私ももちろん知り合いじゃないし、あ、じゃあ、事務員さんか。
学校の用事かな?
私は、自分には関係のないことだと思って、李衣菜ちゃんの口の周りのケーキをふき取ることにした。
あんなオーラのある人の近くにいるのに、ケーキをつけたままじゃ、李衣菜ちゃんもいたたまれないだろう。
「ねえね、せっかく会えたんだから、照れてないでこっち向いて?」
大人の男の人相手に、随分な物言いだなぁと思いながら、ティッシュを鞄にしまう。
使ったティッシュはポリ袋に。
あっ、小さいポリ袋はゴミを捨てるのに一枚持っておくと便利だよ!

「ほら、こっち!!」
鞄の上に置いた手に、骨ばった私よりも一回り大きな手がのせられる。
思いのほか熱いその感触に驚いて顔をあげると、間近にはビックリするほどきれいなーーー樹林君??
「……!!!」
あまりにも驚くと人間、声なんてでないものだ。
えっと、今、私、FIZZERの樹林棋王君に話しかけられて、手、にぎられてる!!!?????
「こんなちっちゃな手で、色々頑張って作ってくれてるんだね?すごく嬉しい!!」
「ーーーー!!!!????」
私はびっくりしすぎて、助けを求めて李衣菜ちゃんの方を見た。
李衣菜ちゃんと野々原さんは手を取り合って、小さい声でキャーキャー言っている。
だめだ、助けてくれる気配はゼロ。
低いテーブルをはさんで向かい側に座る東園寺さんはニヤニヤしながらこっちを見ているし、事務員さんは我関せずという風に、紅茶を優雅に飲んでいる。
こちらも助けは期待できない。
「ふふっ。照れちゃってるの?かーーーーわいーーーー!!」
握られた手は樹林君の頬へと挙げられる。
そしたら、一瞬樹林君の頬に一瞬手の甲があてられた。
「ーーーーーー!!!!!」
私は驚きすぎて、手を思いっきり引っ込める。
あまりの出来事に、全く理解が追い付かない。
その行動をどうとったのかは知らないけれど、樹林君は、さっきよりももっともっととろけるような笑顔を見せた。
「ふふっ。恥ずかしがり屋なんだね。ねえ、明日のライブ、来てくれるでしょ??
でも、こっちの最前とかじゃない限り、こっちの方がもっとずっといい席だから、明日はここから僕を見てて?」
そう言って、どこからか取り出したのは「関係者」と書かれた紙。
今度は私の両手を手に取り、胸のあたりまで持ち上げ、その紙を優しく握らせた。
「約束……だよ??」
バチンとウィンクを決められ、私は混乱する。
「あーー、もっと話してたいんだけど、これからリハなの。もーー、もっと早く連絡くれたらよかったのにー!!」
そういいながら、樹林君が見ているのは……東園寺さん!?
「わりわり!でも、会わせてやったんだからよ、ほら、行かねえとまた怒られんぞ!!」
「もーー!!わかってるし!!!じゃ、ライブでねー!!」
樹林君はフリフリと私達に手を振って、元気に玄関の外へ向かい、黒い車に乗り込んでいった。

「せ、先輩、FIZZERの樹林棋王君と知り合い……なんですかっ!?」
「おう、俺、顔広いからさ。で、どうよ?推しに会えた気分ってのは?声にもできないってか??」
……は……、犯人はこの人かーーーーーっっ!!!!
私は今日一番ぽかんとした顔をしていたと思う。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪魔さまの言うとおり~わたし、執事になります⁉︎~

橘花やよい
児童書・童話
女子中学生・リリイが、入学することになったのは、お嬢さま学校。でもそこは「悪魔」の学校で、「執事として入学してちょうだい」……って、どういうことなの⁉待ち構えるのは、きれいでいじわるな悪魔たち! 友情と魔法と、胸キュンもありの学園ファンタジー。 第2回きずな児童書大賞参加作です。

守護霊のお仕事なんて出来ません!

柚月しずく
児童書・童話
事故に遭ってしまった未蘭が目が覚めると……そこは死後の世界だった。 死後の世界には「死亡予定者リスト」が存在するらしい。未蘭はリストに名前がなく「不法侵入者」と責められてしまう。 そんな未蘭を救ってくれたのは、白いスーツを着た少年。柊だった。 助けてもらいホッとしていた未蘭だったが、ある選択を迫られる。 ・守護霊代行の仕事を手伝うか。 ・死亡手続きを進められるか。 究極の選択を迫られた未蘭。 守護霊代行の仕事を引き受けることに。 人には視えない存在「守護霊代行」の任務を、なんとかこなしていたが……。 「視えないはずなのに、どうして私のことがわかるの?」 話しかけてくる男の子が現れて――⁉︎ ちょっと不思議で、信じられないような。だけど心温まるお話。

【完結】知られてはいけない

ひなこ
児童書・童話
中学一年の女子・遠野莉々亜(とおの・りりあ)は、黒い封筒を開けたせいで仮想空間の学校へ閉じ込められる。 他にも中一から中三の男女十五人が同じように誘拐されて、現実世界に帰る一人になるために戦わなければならない。 登録させられた「あなたの大切なものは?」を、互いにバトルで当てあって相手の票を集めるデスゲーム。 勝ち残りと友情を天秤にかけて、ゲームは進んでいく。 一つ年上の男子・加川準(かがわ・じゅん)は敵か味方か?莉々亜は果たして、元の世界へ帰ることができるのか? 心理戦が飛び交う、四日間の戦いの物語。 <第2回きずな児童書大賞にて奨励賞を受賞しました>

こちら御神楽学園心霊部!

緒方あきら
児童書・童話
取りつかれ体質の主人公、月城灯里が霊に憑かれた事を切っ掛けに心霊部に入部する。そこに数々の心霊体験が舞い込んでくる。事件を解決するごとに部員との絆は深まっていく。けれど、彼らにやってくる心霊事件は身の毛がよだつ恐ろしいものばかりで――。 灯里は取りつかれ体質で、事あるごとに幽霊に取りつかれる。 それがきっかけで学校の心霊部に入部する事になったが、いくつもの事件がやってきて――。 。 部屋に異音がなり、主人公を怯えさせる【トッテさん】。 前世から続く呪いにより死に導かれる生徒を救うが、彼にあげたお札は一週間でボロボロになってしまう【前世の名前】。 通ってはいけない道を通り、自分の影を失い、荒れた祠を修復し祈りを捧げて解決を試みる【竹林の道】。 どこまでもついて来る影が、家まで辿り着いたと安心した主人公の耳元に突然囁きかけてさっていく【楽しかった?】。 封印されていたものを解き放つと、それは江戸時代に封じられた幽霊。彼は門吉と名乗り主人公たちは土地神にするべく扱う【首無し地蔵】。 決して話してはいけない怪談を話してしまい、クラスメイトの背中に危険な影が現れ、咄嗟にこの話は嘘だったと弁明し霊を払う【嘘つき先生】。 事故死してさ迷う亡霊と出くわしてしまう。気付かぬふりをしてやり過ごすがすれ違い様に「見えてるくせに」と囁かれ襲われる【交差点】。 ひたすら振返らせようとする霊、駅まで着いたがトンネルを走る窓が鏡のようになり憑りついた霊の禍々しい姿を見る事になる【うしろ】。 都市伝説の噂を元に、エレベーターで消えてしまった生徒。記憶からさえもその存在を消す神隠し。心霊部は総出で生徒の救出を行った【異世界エレベーター】。 延々と名前を問う不気味な声【名前】。 10の怪異譚からなる心霊ホラー。心霊部の活躍は続いていく。 

【奨励賞】おとぎの店の白雪姫

ゆちば
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 奨励賞】 母親を亡くした小学生、白雪ましろは、おとぎ商店街でレストランを経営する叔父、白雪凛悟(りんごおじさん)に引き取られる。 ぎこちない二人の生活が始まるが、ひょんなことからりんごおじさんのお店――ファミリーレストラン《りんごの木》のお手伝いをすることになったましろ。パティシエ高校生、最速のパート主婦、そしてイケメンだけど料理脳のりんごおじさんと共に、一癖も二癖もあるお客さんをおもてなし! そしてめくるめく日常の中で、ましろはりんごおじさんとの『家族』の形を見出していく――。 小さな白雪姫が『家族』のために奔走する、おいしいほっこり物語。はじまりはじまり! 他のサイトにも掲載しています。 表紙イラストは今市阿寒様です。 絵本児童書大賞で奨励賞をいただきました。

王女様は美しくわらいました

トネリコ
児童書・童話
   無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。  それはそれは美しい笑みでした。  「お前程の悪女はおるまいよ」  王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。  きたいの悪女は処刑されました 解説版

お姫様の願い事

月詠世理
児童書・童話
赤子が生まれた時に母親は亡くなってしまった。赤子は実の父親から嫌われてしまう。そのため、赤子は血の繋がらない女に育てられた。 決められた期限は十年。十歳になった女の子は母親代わりに連れられて城に行くことになった。女の子の実の父親のもとへ——。女の子はさいごに何を願うのだろうか。

【完結】アシュリンと魔法の絵本

秋月一花
児童書・童話
 田舎でくらしていたアシュリンは、家の掃除の手伝いをしている最中、なにかに呼ばれた気がして、使い魔の黒猫ノワールと一緒に地下へ向かう。  地下にはいろいろなものが置いてあり、アシュリンのもとにビュンっとなにかが飛んできた。  ぶつかることはなく、おそるおそる目を開けるとそこには本がぷかぷかと浮いていた。 「ほ、本がかってにうごいてるー!」 『ああ、やっと私のご主人さまにあえた! さぁあぁ、私とともに旅立とうではありませんか!』  と、アシュリンを旅に誘う。  どういうこと? とノワールに聞くと「説明するから、家族のもとにいこうか」と彼女をリビングにつれていった。  魔法の絵本を手に入れたアシュリンは、フォーサイス家の掟で旅立つことに。  アシュリンの夢と希望の冒険が、いま始まる! ※ほのぼの~ほんわかしたファンタジーです。 ※この小説は7万字完結予定の中編です。 ※表紙はあさぎ かな先生にいただいたファンアートです。

処理中です...