推し活ぐー!

明日葉

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・写真と私

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「ただいまーーー、はい、これ、フリーズドライフルーツ!」
「わー、お父さん、ありがとう!!」
出版社に行ってから3日後、お父さんが沖縄から帰ってきた。
今回のお父さんのお土産は瓶に入ったフリーズドライフルーツだ。
イチゴ、マンゴー、パイン、パッションフルーツなど本物の果物をカラカラに乾燥させたおやつ。
口の水分がもっていかれるのはちんすこうと変わらないんだけど、本物の果物のみが原料だから甘酸っぱくてとっても美味しい。
「完売なんだって??すごいじゃないか!お父さんの写真集だって完売なんてしたことないのに!」
「えへへー。すごいよねーーー」
毎日SNSのダイレクトメール機能で会話するけど、やっぱり会って直接褒められるのは嬉しいものだ。
「しかも重版がかかるかもしれないんだろう?」
「うん、会議の結果次第みたい。だけど、もう夏休み中には間に合わないだろうし、もっと出版しよう!ってならないかもよ。期待しないで待っとく」
「そっかー。まあ、なんにせよ凄いことだ!」
お父さんは、荷解きをして、洗濯物を洗濯機にいれながら話している。
いつでもキビキビ動いていてすごいな。お父さんがだらっとしている所って見たことあまりないかも。
「あとねー、はい、これが誘われた中学校のパンフレット」
「おおー、スカウトされたってやつな。総合エンタメ科ねー。時代だねー。
あっ、昼ご飯沖縄そばでいいか?麺と角煮、買ってきた!」
「うん、なんでもいいよー。手伝う。何すればいい??」
「うーん、じゃ、ネギ切ってー。包丁危ないから、はい、これ、キッチンハサミで」
「もう小学6年だよー!ネギ位包丁で切れるよ!調理実習だってあるんだから!」
「いいのいいの、お父さんが家にいるんだから、危ないことはお父さんに任せなさい!」
お父さんは、大きな鍋に水を入れて、お湯を沸かしだす。
「……で、穂香はその中学校、行ってみたいって思わないの?」
小さな鍋にも水を入れてお湯を沸かしながらお父さんが私を見てる。
その小さな鍋は、スープ用なのかな?
「総合エンタメ科っていうの自体は楽しそうだと思う。
パンフレットを見たら、ダンスとかボーカルレッスンとか、ゲーム、VR、作詞作曲、CM撮影方法を教えてもらえたりとか選べるみたいだし、何より設備がすごいよね。
おまけに乗馬やらヨットやらピアノやら声優やらロックバンドやらいろんな部活もあったし。
でも……私、お父さんとできるだけ一緒にいたいから、寮、嫌かなー。
あ、でも、お父さんは私が寮にいた方がいい?」

お父さんは動物を撮るのに、今回みたいに北は北海道、南は沖縄まで日本各地を飛び回っている。
お母さんの生きていた時は、しょっちゅう海外にも行っていて、ほどんど家にいた記憶がない。
お母さんが亡くなってからは、私を長い間一人にしないために日本の動物しか撮りに行かなくなった。
そんなんだから刺激がない毎日になって、物足りなく思っているんじゃないかなって不安だったんだ。

「うーーん、そりゃあ、1日、2日、留守番させてるのは不安だから、その間は寮っていうのもありなのかなーって思うんだけど、全寮制って、あんまり帰ってこれないんだろう?
学校、ここからみえるくらい近くにあるのに寂しいじゃない。
お父さんは穂香がお父さん、ウザイって言い出すまで、一緒に住んでたいんだけどねーー」
お父さんは真空パックになった角煮をカバンから取り出して、小さい鍋にそのままドボンといれた。
なるほど、角煮をあたためる用のお湯だったんだ、これ。
「じゃあずっとお父さんと一緒に住むことになるよーー!いいのー??」
「おうおう、可愛いこと言ってくれるじゃないの」
ぐりぐりと私の頭をなでて、髪の毛をぐちゃぐちゃにされる。
「お父さん、それはあぶない、私はさみ持っているんだからね!!」
「わりわり!!」
プンスコしながら、私は残りの小口ネギをハサミで切った。
「じゃあ、この話は断るねーー。だってお父さんと一緒にいたいもん!!」
ちょっと照れるから、私は早口で自分の希望を伝えた。
「そうだなっ、こうやって、毎回ちがう沖縄そば買ってきて食べ比べもできなくなるしなっ!!」
お父さんは、にぱっと大きな口をあけて笑っていた。

「今回の沖縄そばはーー?お父さんは1番いいと思う!この角煮、美味しすぎない!?」
「私も、これ一番いいと思う!!このスープ、油が少な目でくどすぎない!夏にぴったり!!」
「おおー、じゃあ、ついに1位決定か!?今度もこれにする?」
「ううんー!!もっとおいしいのあるかもよ!今度は同じやつと他にあともう別の1個買ってきて食べ比べようよ」
「おお!いいね、その1位決定戦!!」
お父さんとお土産をきゃいきゃいいいながら作って食べるこの時間が大好きだ。

お父さんの夢は世界中の動物の姿を写真に収めること。
それは、小さなころからの夢だったらしい。
特に一番行きたいのは南極で、その夢が叶うのなら死んでもいいってお母さんに言って怒られてたっけ。
だから、お父さんが世界を飛び回るのはうちでは普通の事。
今、私の前にこんなに長い時間いてくれることの方が特別なことだ。
だから、お父さんが私に離れてほしいと思う日まで、私は傍にいたいと思うんだ。
私はリビングに飾られている、いろんな国のいろんな動物を、複雑な気持ちで眺めていた。

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