推し活ぐー！

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「おう、怪しくてすまんすまんっ。じゃ、ここ座るな」
全然すまなさそうに、椅子を引いて、空いていた席に座る。
李衣菜ちゃんの席の真ん前だ。
さすがに目の前のおじさんに向かっておじさんだのヤバイだの言わないと信じたい。
私はゆっくりと李衣菜ちゃんの口から手を離した。

「さっき、言ったように嬢ちゃんなら、タダ。何故ならほれここ」
私が見ていたパンフレットをペランとめくって、あるページを指さす。
「総合エンタメ科、これ、新しくできんだわ。」
「何々、Ｌｔｕｂｅ、ＭｉｋＭｏｋ、Ｋｉｎｓｔａ、Ｖｉｔｔｅｒ等、ネットで活躍する学生たちのための学科！？えっ、すごーーーい！！楽しそうーーー！！！いいなー、私も入りたーーーい！！」
「お、良い反応！！そうだよなー！楽しそうだよなー！！君がこのＭｉｋＭｏｋer、リィリィなんだろ？
始めたばかりにしてはまあまあいい再生数じゃないの、しかもかわいいからこれから伸びるよーー。
ってことで、文月さんが入学するなら、君の入学金はタダ。
で、授業料は半額の特待生にできるけど？？まあ、文月さんが入学したらだけどねーー。」
「えーー、私も入れるの！！すっごい！！ねえねえ、穂香ちゃん入ろうよーー！穂香ちゃんはタダなんでしょっ！私、パパとママに頼むからーーっ！！」
「先輩、謎の圧をかけないでください！文月さんちょっと引いてるじゃないですかっ！！」
私が内心引いているのがバレバレだったみたい。
気前のめりに聞いていたさっきまでと違って、気づくと椅子の背もたれ側に思いっきり身体を付けてできるだけ、怪しいおじさんから距離を取ろうとしてしまっていた。
「人気Ltuberが入学してたら、ほら、実績と箔がつくじゃない？ちょーーっとだけでいいから、学校宣伝とかしてくれたらいいからさ」
「でも……私、顔出しできません！それが、父とLtubeを始める時の約束事なのでっ！！」
顔バレ身バレして、大変な思いをしているLtuberがつらい思いをしているのはよく聞く話だ。
だから、Ltubeをはじめるにあたって、お父さんといくつか約束をした。
顔出しをしないのは、その約束事の一つだ。
「うーん、じゃ、学校の紹介とか撮るときは顔モザイクでさー、本名はわかんないようにする。
それで、Ltube更新の時にちょーっと紹介してくれたらいいから！」
「えっと……それに、全寮制じゃないですか、私、父と二人暮らしで……、父が一人になったら寂しいと思うので……」
「そっか、穂香パパ一人は寂しいよね。寮楽しそうだけど、穂香が行かないなら私も行かない―」
さっきまでは乗り気だったのに、李衣菜ちゃんはコロッと意見を変える。
こんな風に、いつでも素直で優しいのが李衣菜ちゃんのいいところだと思う。
「おうおうおうおう、ちょっと待て待て。まあ、今答えを出せないなら、まだ時間はあるから。
その父ちゃんとよく相談してな」
「ごめんね、このおじさん、怪しく見えるかもだけど、ちゃんとした人だから！
私の大学の先輩で、ちゃんと身元もしっかりしているから。
この話、ちゃんと本当のことだから！
これ、ちゃんとした黒白星学園の推薦入学伺いだから！！」
　説明されればされるほど怪しいんだけど、野々原さんの紹介じゃなかったら、この話自体を信じなかっただろう。
分厚いパンフレットと色々書かれた書類をもらって、私達は出版社を後にした。