推し活ぐー!

明日葉

文字の大きさ
上 下
6 / 59

・いざ編集部!

しおりを挟む
いつ来ても、マルバツ出版の編集部はちょびっと散らかっている。
廊下まで積みあがる本に、机の上に山のようになった書類。
これで、必要な紙が見つかるのかなって、最初は思っていたけど、皆何がどこにあるかをしっかり把握しているらしく、ささっと必要な物を取り出しているのに驚いた。
たまに、紙の雪崩がおきることはあったけれど。

「す、すごい!!本当に紙だらけ!!」
私が初めて来たときと全く同じ感想を李衣菜ちゃんが言うものだから、思わず笑ってしまう。
「ね、すごいよね。私も最初びっくりした。」
聞くのと見るのではやっぱり違うから、驚くのも無理はない。
私たちは、一階の受付でもらったVISITOR(訪問者)と書かれたネームプレートを首から下げて、編集部を通り抜け、奥にある打合せスペースへ向かった。

「ここで、いっつも待ってるの。遅れることもあるから座って待っててって言われてるんだ。座っていようか」
打合せスペースは、パーテーションで仕切られていて、3か所設けられている。
空いているところに座るシステムらしいんだけど、今日は3つ全部あいていたから、一番奥のスペースに座る。
食卓テーブル位の机と椅子が4つ置いてある。
ちょうど学校の給食の班にしたみたいな形みたいだなー、と夏休みなのにしみじみ思ってしまった。
「ごめんなさいね!ちょっと遅れちゃった!!」
野々原さんがたくさん紙のはみ出したファイルを両手にもって走りながらやってきた。

「いいえ大丈夫です!今日もよろしくお願いします。こちら、友人の瀬口李衣菜せぐちりいなちゃんです。」
「はじめまして、瀬口李衣菜です、今日はよろしくお願いいたします!こちら母からです。よかったら皆さんで召し上がってください!」
「あと、こちらは父からです。本日うかがえなくて申し訳ありません。こちら、父から北海道銘菓です。」
「あらあら、ご丁寧にどうも。こちらこそよろしくね。瀬口さんのマカロンこれ人気の美味しいやつね!ありがとう!お父さん今度は北海道に行っていたのね。」
「はい、昨日一回帰ってきて、今日からは沖縄だそうです」
「あら、端から端。この時期沖縄は暑いでしょうねー。あっ、これ、もしよかったら飲んでー」
ペットボトルのお茶を2本差し出されて、私達はありがたく受け取った。

「えっ、全部売れたんですか!?この間発売したばかりなのに??」
「そうなのよ。ありがたいことに嬉しい悲鳴。でもここ2日間の売り上げがあまりに凄くて、調べたわけ。そしたら、これ。二人は知ってた??」
差し出されたタブレットには、FIZZERの樹林棋王きりんきおう君のVitterのつぶやき。
机の上に置かれた「小学生の考える、小学生のための押し活グッズ!」の本の写真。
それに添えられた『すごく嬉しい』のつぶやき。

私は目が点になった。
「えっ、凄!!穂香、推しに認知されてる!!」
いやいやいやいや、待って!李衣菜ちゃん、びっくりしすぎて間違ってる!!
私、別に樹林君のファンじゃないんだよーーっ!!
「ね、凄いわよね!!その反応ってことは、知らなかったのね!推しに認知される瞬間!!初めて見たーー!!」
李衣菜ちゃんと野々原さんはきゃっきゃと大盛り上がりだ。
もう、こんな雰囲気で言えやしない。
私、樹林棋王きりんきおう君のファンじゃないうえにFIZZERのファンでもないなんてっ!!
「すごい、こんなことってあるんですね」
私の小さなつぶやきは、まるで、感極まったファンの声かのように聞こえたんだと思う。
しまいには、李衣菜ちゃんと野々原さんは涙ぐみだした。
「凄い、よかったねー、穂香!」
「ファン冥利に尽きるわね、わかるわ、私も推しに認知されたら……想像しただけでっ!!」
野々原さんは15年来のとあるロックグループのファンらしい。
給料のほとんどを、ファングッズを買ったり、各地のコンサートに足を運んでいると最初の顔合わせで聞いた。
その時に、FIZZERのファンでないと伝えておけばよかったのに、私は緊張と野々原さんのオタ活ぶりに圧倒されて、訂正の機会を失ったのだ。
ーーーーーーーーーもう、野々原さんには、樹林君のファンで通そう。
私は軽く天を仰いだ。目に映る間接照明がいつもよりもまぶしい。
ところで、李衣菜ちゃんは興奮しすぎて、私が樹林君のファンじゃないことすっっぽり抜け落ちているでしょう?
後からほんっとーーーーに怒るからね!!!
私は二人とは別の意味で涙ぐんだ。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました

杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」 王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。 第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。 確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。 唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。 もう味方はいない。 誰への義理もない。 ならば、もうどうにでもなればいい。 アレクシアはスッと背筋を伸ばした。 そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺! ◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。 ◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。 ◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。 ◆全8話、最終話だけ少し長めです。 恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。 ◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03) ◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます! 9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

[恥辱]りみの強制おむつ生活

rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。 保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。

令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました

フルーツパフェ
大衆娯楽
 とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。  曰く、全校生徒はパンツを履くこと。  生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?  史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。

処理中です...