推し活ぐー!

明日葉

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携帯の液晶には『マルバツ出版社 編集部 野々原さん』の文字。
私の本を出してくれた出版社さんと、担当さんの名前だ。
私は、すいかでべたべたになった手をティッシュで拭いて、慌てて電話に出る。

「おっ、お世話になっています!野々原さん!」
「こちらこそ、お世話になっています、文月さん!今大丈夫ですかー?」
「はい!大丈夫です!!」
べたべたの手で触ったせいで、携帯電話は大丈夫じゃないかもしれないけど、時間という意味では大丈夫だ。
「『小学生の考える、小学生のための押し活グッズ!』夏休みの自由研究目的もあってか、すごく好調なんですよー!」
「えっ!!そうなんですか!!売れなかったらどうしようと思ってたので、すごく嬉しいです!」
「売れないってことはないですよー。予約も入ってましたしね。
それで、本のことなども含めてちょっと会ってお話できたらいいなーってことがあって、夏休み、予定入っちゃってます?」
「いいえ!ラジオ体操以外特に予定はないです!」
「ラジオ体操っ!懐かしい――!!じゃあ、お父さんも来れる日とかあればありがたいんですけど……」
「あっ、すみません、父はちょっと忙しそうで……一人で……はダメですか?」
お父さんは動物カメラマンだから、いい写真がとれるかは動物次第な所がある。
そんなお父さんの予定はなかなか不確定だ。
だから、一人でできることは全部して、最終判断をお父さんにしてもらっていた。
「うーん、ちょっと待ってくださいねー…………はい、えっ?そうなんですか?……あっ、ごめんなさいね、保留押せてなかった!一人で来れそうなら、大丈夫ですけど、気を付けてきてくださいね」
「大丈夫です!打合せも何回か一人で伺っていますので!」
「ねえねえ、穂香、りいなも行ってみたいなーー……」
李衣菜ちゃんは私の裾をちょんとつまんで首をかしげながら、きゅるきゅるお目目でおねだりしてくる。
テレビもつけてないリビングは静かだから、電話の内容が丸聞こえだ。
出版社に行ったって話をした時から、ずーーっと行ってみたいなーって言ってたんだよね、李衣菜ちゃん。
「あの、すみません、Ltubeを手伝ってもらっている友人も一人、一緒に行っても大丈夫でしょうか」
「うーーん、ちょっと待っててね?………え、インフルエンサーならいい?そんなそうそういませんよ。……わかった、聞きます!……ごめんなさいね、そのお友達、インフルエンサーだったりする?」
「えと、インフルエンサーとかではないんですけど、少し前からMikMokをはじめたばかりで……その、美少女です!!」
李衣菜ちゃんは6年生になってすぐMikMokデビューをしている。
流行の曲で踊ってみたり、買ったものを紹介したりと色んな投稿をしているけど、人気大爆発!なわけではない。
私はなんとか、必死に李衣菜ちゃんを売り込む。
李衣菜ちゃんのMikMokのアカウントを知らせたら、一度検討したいと言われたんだけど、すぐに折り返しの電話が来て、一緒に出版社に行けることになった。
「えー、すっごい楽しみ!!ありがとう!!穂香っ!!!!」

2日後の13時、マルバツ出版。
私たちの今年の夏休みの計画表に、ラジオ体操以外の予定がはじめて書き記された。


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