推し活ぐー!

明日葉

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・イントロダクション

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指先が冷たくなるくらいの緊張感。
こちらまで届くほど、張りつめた空気。
そんな極限状態の中、響く第一音。
ピアノで始まるその曲は、悲しく、ドラマチックで
歌声が響く前から、胸が締め付けられるほど切ない。
そして、その声で紡がれる歌は儚げで。

ーーーーー私は初めて、誰かを本当に好きになった。
誰かを強烈に応援したいって、本気で思ったんだ。
これが私の本気の推し活のきっかけ。
そして、恋のはじまり。


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まだ午前中だというのに、すでに茹だるような暑さの夏休み初日。
ラジオ体操を終えて、私、文月穂香ふづきほのかは、友達の瀬口李衣菜せぐちりいなちゃんと、コンビニの前に立っていた。

「よし、発売してたら3つは買う!そのためにお手伝い頑張ってきた!」
李衣菜ちゃんはカゴバックをぐっと掴んで意気込んでいる。
朝も早かったというのに、凄く凝った髪型だ。
肩までのふわふわの茶色い髪を片側だけ編み込んでいる。
花柄のワンピースにカゴバックに茶色のサンダルの姿は、まるでインフルエンサーみたい。
今日も目を見張るほどの美少女ぶりだ。

「朝早いけど、売ってるといいね」
一方、私はめんどくさくて、顎までの黒髪はセットせずぱさぱさのまま。
誤魔化すために黒のキャップをかぶっている。
肩に黒いライン入りの紫色のTシャツと、黒い裾がふわりと広がるショーパンに、スポーツサンダル。
スポーツブランドの黒の斜め掛けバッグにお財布を入れてきた。
「入ろっかーー」
私はあくびを噛み殺しながら、コンビニのドアを開けた。

今日は、FIZZERフィザーという5人組ボーイズダンスボーカルグループがコラボしたお菓子(グミ)の発売日だ。
この、FIZZERフィザー水流透真みなるとうま君を李衣菜ちゃんが推している。
色んな事で人気を競うというのがこのグループのテーマらしく、ダンスや歌、バラエティ番組でファン参加型の投票をしょっちゅうやっている。
そして、今回買ってきたグミの売り上げもその一つ。
ファンが買ってきたお菓子とレシートをVitterでハッシュタグをつけてアップして、推し個人の名前をつぶやくと、それが集計される仕組みだそうだ。
グミには5人それぞれに割り当てられたキャラクターのシールがついてきて、それを集めるのもファンの楽しみの一つ。
そして、それを加工して持ち歩くものファンの楽しみのひとつだ。





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