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永遠に消え去った輝きは2度と戻らないが、

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 本当に不思議だ。何であんなに早く大人になりたがっていたのか。
 正直、今すぐにでも子どもに戻りたい。10歳以下だった頃に戻りたい。

 本当に不思議だ。何であんなに大人になりたかったのか。
 今だって、映えない学生生活を送っている青二才。お年寄りからみたら「子ども」だけど、正直このまま年を取っていくことにウンザリしている。――季節柄だろうか? 年の終わりが近づく秋はどうしたって焦っちまう――。
 ウンザリしている理由はシンプル。来年には大学3年になる、就職活動が始まる。なのに金の無さ・時間の無さにかこつけて大した資格もとらず、ぼんやりと大学に通い続けている。就職出来てしばらく経ったら婚活。今のままだとこのまま就職出来たとしても、俺の婚活市場での価値は低いだろうな。家の明菜の方が市場価値高そうだ、語学オタクで「何カ国語操んだよ!」ってレベル。

 それに比べて小さい頃は良かった。
 マンガの代わりに小説読んでりゃ褒められる。ちょっと漢字が読めると褒められる。小さい頃は頭良かったもんな、俺。
 外に出れば真っ先に公園へ向かった。真っ先にキャシーを探した。当時公園の近くに住んでいた……多分イギリス人の女の子。拙い英語をコミュニケーション手段とし、キャシーと遊んだ。キャシーがイギリスに戻ると聞いた時にはキャシーを連れ出して、2人で冒険に出た。――今見りゃ、電車に乗ってコロッケ食べただけの規模の小さな冒険――。 ――あの頃の記憶はぼんやりしているが、感情だけは鮮明に脳裏に蘇る。何でか知らないけど、あの時期の記憶は全てが煌めいて見える。親に怒られて泣いた記憶ですらも――。
 あの時はまだ8歳で、いつか10歳になるのが楽しみだった。10歳になった時は中学生になるのが楽しみだった。中学生になった時は……少しだけ高校生活に期待した。高校生になった時は彼女作りたかった(出来なかった)

 今気が付いた。0歳から10歳までの10年間と、11歳から19歳(感謝祭には20歳になる)までの10年間じゃ全然密度が違う。ほとんど記憶のないはずである10歳までの方が長かった気がする。
 いつか老ける前兆なのか? それはないと願いたいが、ありえるかも。前どっかで聞いたけど「体感だと19歳で人生の半分が終わっている」らしい。ヤバいぞ。まだ何もしていないのに。仮に平均寿命まで生きるとしよう。体感での人生くらいは長くしたい。頭の隅に何かが引っかかっている。何かの拍子に思い出しそうだ。前見たテレビだと「1日が早く感じるのはトキメキが薄れたかららしい」、心当たりはある。恋でもすればいいのか?

 気持ちを収めようと本棚を漁り始めた。
 
 パニックになりそうだ。心拍数も爆上がり。これを期に恋が始まらないだろうか? 相手がエッフェル塔でも東京タワーでもいいから。そうなりゃ俺の人生もまた輝く、恋をすりゃ輝くんだろ?

 本棚を漁っているとワーズワースの詩集を見つけた。キャシーのお父さんからのプレゼントだった。
 そう言えば、昔を懐かしむ内容の詩が会ったような…………。昔読んだ時は意味が分からなかったけど、なぜか印象に残っている。そうそう全部英語だったんだ。目次を見て見当をつけてからページを捲った。そう、これだ。
「Ode: Intimations of Immortality」
 あの頃よりは進歩した英語力を持って、所々でつっかえながらも読み進めた。
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