空とボクとの間だけが知る、

神永 遙麦

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宗次郎

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 心温が再婚する。
 そのことを妻から聞いた時、安堵と残念な気持ちが交錯した。



 心温さんはあの成司せいじが、 ――己の感情に人一倍疎く、その感情を上手く表せない— 成司が駆け落ちしてまで結婚した娘だった。成司はいかに金銭的に欠乏しようとも、見つかるまで一切こちらと連絡を取ろうとしなかった。
 跡取りの駆け落ちに妻は怒り狂っていたが、私は心配しながらも安堵していた。
 結局見つかり、成司は心温さんを連れ家に戻って来たがな。—それにしても成司が養護施設から結人を連れ戻した時の、妻の顔はたいした見物だったな。幸か不幸か男の子だから面倒な事にならずに済んだが—


 家に戻ってから心温さんと離婚するまでの数年は今思い出しても胃が痛む、キリキリと。哀れな心温さんはそれ以上に胃が痛んだことだろう。
 家に入ってから子を流してばかりだった心温さんが結愛が生むと、妻の態度も一時は緩和した。あの時期の心温さんは妻の前ではオドオドしつつも、成司と結人•結愛と笑えるようになっていた。あの息子なりに心温さんを守ろうと努力はしていた、それは知っているし、庇おうとしていたのも見た。だが、成司は心温さんを守ってやれなかった。
 末に心温は家を出て行った。養育権をめぐり訴訟を起こそうとはしていたが金がなく断念していた。
 …………辛い目にあったのだから、今度は幸せな結婚となればいい。

 あれからの成司は抜け殻でボンヤリとしていることが多くなった。心温さんが家に残した結人と結愛と目を合わせることすら避けている。
 だから妻は結人に跡取りを託している。—このことに関して私は何も言えない、所詮婿養子だから— 結人の嫁の件も敦子とその夫雪乃の両親と決めてしまった。2人が高校を卒業後話すことになっている。雪乃は心優しく溌剌としたいい娘になったが、孫同士の結婚と言うのが引っ掛かっている。


 宗次郎は机に置いたワインを手に取った。見事な満月をバルコニーから眺めながら、グラスを傾けた。中秋の名月と満月が重なるといかに輝くことか。

 結人の部屋の方を見ると、結人はバルコニーに手すりに肘を預けていた。つまらなさそうとも不満げとも言える表情で、ぼんやりと満月を眺めている。母親のことを聞いたのだろうか。
 宗次郎は微笑みを結人に向けた。
「月に話したいことでもあるのかい? 結人」
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