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紗美

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 ――ねえ、教えてよ。何で離婚するの?――。

 無意識にノートに書いた疑問を私は慌てて消した。友達ん家が離婚するらしいから、無意識に考えてたのかな? 幸いなことに筆圧が弱かったから、すぐに消えた。筆圧が強かったら、くっきり残った挙げ句、明日先生の失笑を買う所だった。

 何で私って筆圧が弱いんだろう? 一応しっかり書けるタイプの鉛筆なのに。ママは「スマホばっかり見てるから筆圧が弱い。もしくはパパの遺伝」って鼻で笑ってた。その横でパパがコーヒーを煎っていてもお構いなしだ。
 5年前、パパとママが離婚しようとしたことがあった。
「パパが仕事を辞めたから、紗美さあみを育てるのに必要なお金が工面できなくなった」
 そうママは言ってた。離婚すればシングルマザー向けの手当が入る。パパからの養育費も入る、財源は生活保護らしい。今思うと、パパの生活保護を毟り取るのは結構鬼畜かも。



 *

 廊下の隅でそっとスマホをパスワードを打ち込む。動画サイトを開く。オススメに出た動画を適当に見る。こっそり借りたイヤホンを耳にさしたら、もう何も聞こえなくなる。ダンダンという音も、怒鳴り合う声も聞こえない。だから目を瞑った。
 頭に広がるは綿菓子とウサギさんがたくさんいる幸せな世界。なぜだか涙が零れそうになる。「人間って幸せな時にも涙が出る」って本当なんだなぁ。

 涙が出ないように上を向きながらそう思った。
 そうだ、楽しいことと好きなものを思い出してみよう。
 ウサギさん。てるてる坊主。バアバからのはがき。あとは、電車。雨。飛行機雲。縄跳びは嫌い。ソーダーはシュワシュワしてるから嫌い。クレヨンは大好きだけど、子どもっぽい。色鉛筆は刺したら痛い。観覧車は楽しいけど、何も見えない。

 ドスドス、という音がかすかに聞こえた。パパが廊下に来る。私は慌てて2階に行った。ママも2階に来る気配がある。私はベランダに出た。ママ、また家出するのかな。

 星が綺麗だった。
 神様へ。私に兄弟をください。兄弟って両親が仲良しだったら出来るんでしょ? だから紗美に兄弟をください。もし出来たら、私は7、8歳上のお姉ちゃんになる。ちゃんと面倒を見るから、弟か妹をください。赤ちゃんが寂しかったら私がハグするし、赤ちゃんがお腹空いたらミルク買う。ちゃんと面倒を見るから、紗美に弟か妹、もしくは両方をください。
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