1 / 5
結人
しおりを挟む
7年前までは養護施設で育った。今は実の両親と住んでいる、住んでいた。両親は昨日、離婚届を提出した。今日、お母さんは1人で家を出る。
バンに荷物を詰め込んでいくお母さんを見ていた。3階の、ボクの部屋の窓から。
――これだから庶民の娘は――。
さっき、お祖母様が言っていた言葉が耳にこびりつく。
――玉の輿を狙った女――。
偶然だと思うけど。
――学費のためにバイトせざるを得ないような家庭出身だった――。それが普通じゃないのか?
――そこでうちの子を誘惑して……――。
お母さんをナンパしたのはお父さんだよ。お父さんが言っていた。
――おまけに10代で子どもを産むなんて。なんて品性のない――。
それは擁護できないや。産まれたのボクだし。っていうか子どもの父親はババアの息子だよ。
――しかも結婚出来ないと知るや子どもを捨てた――。
金銭的にも育てられないからね。だいだい何でお父さんが育てなかったんだよ?
ノック音が響いた。2回ノックだから、お母さんだ。今お祖母様は3階のいないのかな。ササッと終わらせないと。
ボクはドアを開けた。
お母さんの手が伸び、ボクの頬を撫でた。お母さんは「ごめんね」と呟いた。
「お義母様、きっと男孫の結人は大事にしてくれるから。きっと大丈夫」
「分かってるよ」と、ボクは安心させようとお母さんの手を乱暴に振り払った。「それより結愛のとこに行けよ」
お母さんは落ち込んだように目を伏せた。自分の頬を指で掻くと、ボクを抱きしめた。「元気でね、結人」
ボクは返事しなかった。返事したら声が震える。
お母さんはボクの手を取り、握手した。
「結愛をお願い。あのおチビちゃんは……」お母さんは顔を苦しげに顰めた。「まだ3歳だから」
祖母のヒール音が聞こえた。
「分かってるよ」と、ボクは手を乱雑に振り払った。「分かったから、さっさと行けよ」
ボクはドアを乱暴に閉めた。そのままベッドに飛び込んだ。お祖母様がいれば大目玉だ。
お母さんはドアの前に立っていたが、やがて立ち去った。バンが発車した。お父さんはどう感じているんだろう?
ポツポツ雨が振り始めた。どんどん暗くなっていった。カーテンを閉めた後、雷が鳴り始めた。今夜はきっと星は出ない。
閉めたカーテンの隙間から稲光が漏れている。稲光を星、ということにしてみよう。ボクはそっとカーテンを開きボソボソ願った。
「お母さんが今度こそ幸せになれるように」
結愛が泣き始めた。雷で目覚めたんだ。あやさないと。
バンに荷物を詰め込んでいくお母さんを見ていた。3階の、ボクの部屋の窓から。
――これだから庶民の娘は――。
さっき、お祖母様が言っていた言葉が耳にこびりつく。
――玉の輿を狙った女――。
偶然だと思うけど。
――学費のためにバイトせざるを得ないような家庭出身だった――。それが普通じゃないのか?
――そこでうちの子を誘惑して……――。
お母さんをナンパしたのはお父さんだよ。お父さんが言っていた。
――おまけに10代で子どもを産むなんて。なんて品性のない――。
それは擁護できないや。産まれたのボクだし。っていうか子どもの父親はババアの息子だよ。
――しかも結婚出来ないと知るや子どもを捨てた――。
金銭的にも育てられないからね。だいだい何でお父さんが育てなかったんだよ?
ノック音が響いた。2回ノックだから、お母さんだ。今お祖母様は3階のいないのかな。ササッと終わらせないと。
ボクはドアを開けた。
お母さんの手が伸び、ボクの頬を撫でた。お母さんは「ごめんね」と呟いた。
「お義母様、きっと男孫の結人は大事にしてくれるから。きっと大丈夫」
「分かってるよ」と、ボクは安心させようとお母さんの手を乱暴に振り払った。「それより結愛のとこに行けよ」
お母さんは落ち込んだように目を伏せた。自分の頬を指で掻くと、ボクを抱きしめた。「元気でね、結人」
ボクは返事しなかった。返事したら声が震える。
お母さんはボクの手を取り、握手した。
「結愛をお願い。あのおチビちゃんは……」お母さんは顔を苦しげに顰めた。「まだ3歳だから」
祖母のヒール音が聞こえた。
「分かってるよ」と、ボクは手を乱雑に振り払った。「分かったから、さっさと行けよ」
ボクはドアを乱暴に閉めた。そのままベッドに飛び込んだ。お祖母様がいれば大目玉だ。
お母さんはドアの前に立っていたが、やがて立ち去った。バンが発車した。お父さんはどう感じているんだろう?
ポツポツ雨が振り始めた。どんどん暗くなっていった。カーテンを閉めた後、雷が鳴り始めた。今夜はきっと星は出ない。
閉めたカーテンの隙間から稲光が漏れている。稲光を星、ということにしてみよう。ボクはそっとカーテンを開きボソボソ願った。
「お母さんが今度こそ幸せになれるように」
結愛が泣き始めた。雷で目覚めたんだ。あやさないと。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。


Husband's secret (夫の秘密)
設樂理沙
ライト文芸
果たして・・
秘密などあったのだろうか!
むちゃくちゃ、1回投稿文が短いです。(^^ゞ💦アセアセ
10秒~30秒?
何気ない隠し事が、とんでもないことに繋がっていくこともあるんですね。
❦ イラストはAI生成画像 自作

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。
藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった……
結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。
ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。
愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
*全16話で完結になります。
*番外編、追加しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる