未来に恋する

神永 遙麦

文字の大きさ
上 下
1 / 1

未来に恋する

しおりを挟む
 夢百合ゆおりは今、恋に落ちている。いつか来るであろう未来に恋をしている。誰も知らず、誰も踏み荒らしていない透明な未来に恋をしていた。
 きっかけは姉にいい大学を進められたこと。ネットでホームページを見た時、レンガ街のような道に中世のお城のように重厚な建物。そんなキャンパスを歩く未来に焦がれるほど憧れた。

 *
 
 夢百合は自転車に乗っている。本人は2人乗りだから大学生っぽい、と感じているようだが、2人乗りとは言っても、籠にたぬきのぬいぐるみが乗ってるだけ。

 夢百合はごくごく平凡な少女だった。10代のほとんどネットサーフィンに費やし、学校にも行かず引き篭もっていた少女だった。
 髪は濃い焦げ茶。髪のボリュームが多すぎることに悩んでおり普段は後ろでしっかりと縛っているが、艶とハリもありサラサラしている。そのため知らない年配の婦人によく褒められる美しい髪だった。瞳の色は一般的な日本人らしいブラウンで、淡くも濃くもない色。だが目は大きく、涙袋と二重はくっきりとしている。まつ毛は髪と同様に艶とハリがあり、マスカラを塗れば長さがあるように見える。尤も、面倒くさいからと化粧をしたがらないが。肌はクレーターのようなニキビ跡が残っている上に、大きな青いクマが鎮座しており、美しい肌とは言い難い。更に「どうせ外出しないから」と日焼け止め対策を怠っていたことが原因で肌荒れしている。唇はぷっくりしており、やや下がり気味の口角。歯並びを矯正すれば笑顔が美しくなるだろう。顎は丸っぽく、中肉中背。
 普段は体型を隠すためにオーバーサイズのスカートとスウェットを着ている。間違えてもぴったりしたIラインとマーメイドラインのスカートは履かない。基本的にはウエストから先が広がっているAラインのスカートを履いている。
 
 だが今日は髪を縛らずに解いており、風に遊ばせている。一年前から伸ばしている髪は胸の上辺りまでの長さ。夕日に照らされる今、オレンジ掛かった淡い色の髪に見える。目にはアイシャドウを塗っているため、キラキラと輝いている。
 ふんわりした梅模様のブラウス。自転車に乗るため勇気を出して買ったスキニージーンズ。茶色の自転車は大学合格祝いとして昨日、贈られた。腕には先程外したオレンジブラウンのシュシュが。

 大学に合格した。つまり夢百合が恋した未来に近付いている、彼女が寝て起きるだけで大学生として城下町のようなキャンパスを歩く日々が近付いてくる。
 だからこそ、その日々にふさわしい自分を目指したかった。
 
 
 2つ目のきっかけは一人暮らしをしていた姉が来週結婚式を挙げること。
 姉の美百合は新卒で就職したものの、ブラック企業だった。だが辞められなかった。「辞めてしまえば生活できなくなるかもしれないから」「どこに転職してもどうせ同じだから」「真面目に検討するのが怖いから」「家族を心配させたくないから」「辞めたあとのイメージができないから」。だが、同僚が飛び降りたのをきっかけに25歳で退職した。職業安定所で同じく転職活動中の青年と出会い、青年の押しに負け連絡先を交換した。青年は高卒だったが意外とキャリアが高く、転職もキャリアをどんどん高くすることの一環だった。その後、なんだかんだとうまく行き、青年の立ち上げた会社が軌道に乗ったことをきっかけに結婚する。
 夢百合にとっては憧れだった。逃げた先で幸せを掴むことが。

 この先、彼女も何度でも挫折しそうになるのかもしれない。大学に入った先で新たな対人関係を作り、就職活動をする。ただでさえ苦戦すること。特に対人恐怖症だった過去がある夢百合は何度でも苦しむかもしれない。それでも、その頃には新たな恋をし、その恋にふさわしい自分になろうと進み続けるかもしれない。

 海水浴場に着いた夢百合は「やったぞー!」と海に向かって叫んだ。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

黒龍の神嫁は溺愛から逃げられない

めがねあざらし
BL
「神嫁は……お前です」 村の神嫁選びで神託が告げたのは、美しい娘ではなく青年・長(なが)だった。 戸惑いながらも黒龍の神・橡(つるばみ)に嫁ぐことになった長は、神域で不思議な日々を過ごしていく。 穏やかな橡との生活に次第に心を許し始める長だったが、ある日を境に彼の姿が消えてしまう――。 夢の中で響く声と、失われた記憶が導く、神と人の恋の物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

いつもの帰り道で

時和 シノブ
キャラ文芸
道に落ちた物を観察することが趣味の女子大学生の真美は、道端でボロボロの巾着袋を見つける。 真美は、その巾着袋を一度は交番に届けるのだが…… *表紙画像はFhoto AC様よりお借りしています。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

『イケメンイスラエル大使館員と古代ユダヤの「アーク探し」の5日間の某国特殊部隊相手の大激戦!なっちゃん恋愛小説シリーズ第1弾!』

あらお☆ひろ
キャラ文芸
「なつ&陽菜コンビ」にニコニコ商店街・ニコニコプロレスのメンバーが再集結の第1弾! もちろん、「なっちゃん」の恋愛小説シリーズ第1弾でもあります! ニコニコ商店街・ニコニコポロレスのメンバーが再集結。 稀世・三郎夫婦に3歳になったひまわりに直とまりあ。 もちろん夏子&陽菜のコンビも健在。 今作の主人公は「夏子」? 淡路島イザナギ神社で知り合ったイケメン大使館員の「MK」も加わり10人の旅が始まる。 ホテルの庭で偶然拾った二つの「古代ユダヤ支族の紋章の入った指輪」をきっかけに、古来ユダヤの巫女と化した夏子は「部屋荒らし」、「ひったくり」そして「追跡」と謎の外人に追われる! 古代ユダヤの支族が日本に持ち込んだとされる「ソロモンの秘宝」と「アーク(聖櫃)」に入れられた「三種の神器」の隠し場所を夏子のお告げと客観的歴史事実を基に淡路、徳島、京都、長野、能登、伊勢とアークの追跡が始まる。 もちろん最後はお決まりの「ドンパチ」の格闘戦! アークと夏子とMKの恋の行方をお時間のある人はゆるーく一緒に見守ってあげてください! では、よろひこー (⋈◍>◡<◍)。✧♡!

拝啓、許婚様。私は貴方のことが大嫌いでした

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【ある日僕の元に許婚から恋文ではなく、婚約破棄の手紙が届けられた】 僕には子供の頃から決められている許婚がいた。けれどお互い特に相手のことが好きと言うわけでもなく、月に2度の『デート』と言う名目の顔合わせをするだけの間柄だった。そんなある日僕の元に許婚から手紙が届いた。そこに記されていた内容は婚約破棄を告げる内容だった。あまりにも理不尽な内容に不服を抱いた僕は、逆に彼女を遣り込める計画を立てて許婚の元へ向かった――。 ※他サイトでも投稿中

処理中です...