未来に恋する

神永 遙麦

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未来に恋する

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 夢百合ゆおりは今、恋に落ちている。いつか来るであろう未来に恋をしている。誰も知らず、誰も踏み荒らしていない透明な未来に恋をしていた。
 きっかけは姉にいい大学を進められたこと。ネットでホームページを見た時、レンガ街のような道に中世のお城のように重厚な建物。そんなキャンパスを歩く未来に焦がれるほど憧れた。

 *
 
 夢百合は自転車に乗っている。本人は2人乗りだから大学生っぽい、と感じているようだが、2人乗りとは言っても、籠にたぬきのぬいぐるみが乗ってるだけ。

 夢百合はごくごく平凡な少女だった。10代のほとんどネットサーフィンに費やし、学校にも行かず引き篭もっていた少女だった。
 髪は濃い焦げ茶。髪のボリュームが多すぎることに悩んでおり普段は後ろでしっかりと縛っているが、艶とハリもありサラサラしている。そのため知らない年配の婦人によく褒められる美しい髪だった。瞳の色は一般的な日本人らしいブラウンで、淡くも濃くもない色。だが目は大きく、涙袋と二重はくっきりとしている。まつ毛は髪と同様に艶とハリがあり、マスカラを塗れば長さがあるように見える。尤も、面倒くさいからと化粧をしたがらないが。肌はクレーターのようなニキビ跡が残っている上に、大きな青いクマが鎮座しており、美しい肌とは言い難い。更に「どうせ外出しないから」と日焼け止め対策を怠っていたことが原因で肌荒れしている。唇はぷっくりしており、やや下がり気味の口角。歯並びを矯正すれば笑顔が美しくなるだろう。顎は丸っぽく、中肉中背。
 普段は体型を隠すためにオーバーサイズのスカートとスウェットを着ている。間違えてもぴったりしたIラインとマーメイドラインのスカートは履かない。基本的にはウエストから先が広がっているAラインのスカートを履いている。
 
 だが今日は髪を縛らずに解いており、風に遊ばせている。一年前から伸ばしている髪は胸の上辺りまでの長さ。夕日に照らされる今、オレンジ掛かった淡い色の髪に見える。目にはアイシャドウを塗っているため、キラキラと輝いている。
 ふんわりした梅模様のブラウス。自転車に乗るため勇気を出して買ったスキニージーンズ。茶色の自転車は大学合格祝いとして昨日、贈られた。腕には先程外したオレンジブラウンのシュシュが。

 大学に合格した。つまり夢百合が恋した未来に近付いている、彼女が寝て起きるだけで大学生として城下町のようなキャンパスを歩く日々が近付いてくる。
 だからこそ、その日々にふさわしい自分を目指したかった。
 
 
 2つ目のきっかけは一人暮らしをしていた姉が来週結婚式を挙げること。
 姉の美百合は新卒で就職したものの、ブラック企業だった。だが辞められなかった。「辞めてしまえば生活できなくなるかもしれないから」「どこに転職してもどうせ同じだから」「真面目に検討するのが怖いから」「家族を心配させたくないから」「辞めたあとのイメージができないから」。だが、同僚が飛び降りたのをきっかけに25歳で退職した。職業安定所で同じく転職活動中の青年と出会い、青年の押しに負け連絡先を交換した。青年は高卒だったが意外とキャリアが高く、転職もキャリアをどんどん高くすることの一環だった。その後、なんだかんだとうまく行き、青年の立ち上げた会社が軌道に乗ったことをきっかけに結婚する。
 夢百合にとっては憧れだった。逃げた先で幸せを掴むことが。

 この先、彼女も何度でも挫折しそうになるのかもしれない。大学に入った先で新たな対人関係を作り、就職活動をする。ただでさえ苦戦すること。特に対人恐怖症だった過去がある夢百合は何度でも苦しむかもしれない。それでも、その頃には新たな恋をし、その恋にふさわしい自分になろうと進み続けるかもしれない。

 海水浴場に着いた夢百合は「やったぞー!」と海に向かって叫んだ。
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