1 / 1
1話
しおりを挟む
夕飯を作ろうとした。もう中校生なんだから夕ご飯くらい自分で作れないとダメだ。背伸びをして棚からパスタを取って、グツグツと煮立っている鍋に突っ込んだ。今夜はツナマヨ・パスタ。
お母さんはパート。お母さん、「今日帰りが9時過ぎる」って言っていたからお母さんの分は軽めでいいや。あ、今日は「一緒に夜ふかしして、一緒に軽い調子で大事な話をしよう」って言われたんだった……。っていうか明日学校あるんだけど! お母さんは「1日くらいいいでしょ」って言ってたけど、中2の秋だよ、内申点のことも頭に入れてよ! お母さんは高校に行かなかったから知らないのかな?
でもあんなキラキラな目で「一緒に年越しパーティーしようよ」なんて言われたら断れない! つくづく思うんだけど、私ってお母さんのあの目に弱いなぁ。
うんうん、唸りながらツナ缶を開けたらうっかり手を切っちゃった。でもあっという間に血と傷は消える。いつものように。鬼のように。
よし、茹で上がった。茹で汁を捨てて、ツナマヨと混ぜてからお皿に盛り付ける。うん、いつもながらの映えない料理。お母さんの分はサラダでかさ増し。そうだ、この間作ったユッケ漬け卵、そろそろ食べごろだよね? 1個乗せちゃえ。
もう6時。ちゃっちゃと食べ終わって、お皿洗おう。
*
宿題終わったら9時半になっていた。そろそろ帰ってくるかな? 遅いのはきっと仕事が長引いているから。宿題終わっちゃったから、予習をしよう。
*
2学期分の予習を全部やっちゃったのに、お母さんはまだ帰ってこない。どうしよう、このままだと3学期分に突入しそう。 ――奨学金を使っての高校入学希望だから、それでいいんだろうけど――。
スマホでググってみた、電車の事故があったらしい、もしかしたら引っかかったのかも。尤も、10時に起きた事故だから引っかかりそうもないんだけど。後10分で11時になる。寝ちゃったら合鍵ないからお母さんが家に入れなくなる。だから寝るわけにもいかない。
ピンポーンと鳴った。期待に心臓が高鳴ったが、時間が時間だから、足音を立てずにそっとドアスコープを覗き込んだ。お母さんだ!
ガチャッと勢いよくドアを開けた。
「おかえり。遅いよ!」
「ごめん、ごめん」
お母さんはケラケラ笑いながら、何か荷物を隠しながら風呂場に入った。
洗濯機を回そうと、洗面所に入った。鏡に私の姿が写った。サファイアと栗が混ざり合うような私の目も写った。
*
シャワーを終えたお母さんはサッパリしたようにビールを一杯飲んだ。
私はチラッと時計を見た、もう11時半。
「お母さん、時間が時間だからもう寝るね」
お母さんは私が「時間が時間だからディスコに行ってくるね」とでも言ったかのようにギョッと目をひん剥いて私を見た。何か言い間違えた?
「ちょっと、大事な話とパーティーがあるのに」
「もうすぐ12時だよ」
「じゃあ、ケーキを食べながら大事な話をしよっか。だって賞味期限明日の朝1時なんだよ。せっかく電車一本逃して買ったのに」
さっき隠してたのケーキかい! それに電車に乗り遅れた理由ケーキかい! そんで風呂場にケーキ持ち込むな!
色々面倒くさくなって「分かった~」と気怠げな返事を返してやった。
お母さんはまるで秘宝のようにケーキ箱の蓋を開けた。あ、モンブランとチョコケーキだ。ありがとう、お母さん。
フォークを持ってきて、お母さんが音量を限りなく絞ったバースデーソングを歌うと、2人で「いただきます」と手を合わせた。モンブラン、なんて美味しいんだろう。幸せ。
お母さんは私の表情を見ているうちに、フフッと笑った。蕩けきった表情になってる私の表情。
「かーわいい」と小声で呟くとお母さんは前髪を直した。居住まいも直した。
「あのね、綺星。あなたのお父さん、もういないの」
「知ってる」と、あっさり答えた。
「いつ知ったの?!」と、お母さんが立ち上がった。隠してるつもりだったん?
「そりゃ分かるよ、お父さんいない時点で」と、私は残り少なくなったモンブランを突っつきはじめた。
「そっか……」お母さんはショボンと椅子に座った。が、また立ち上がった。「あのね、お父さんがいないのは、捨てられたわけじゃないからね」
「お母さんが捨てたの?」んな訳ないけど。
「まさか! 殺されちゃったのよ!」
思わず麦茶を噴き出した。机がびちゃびちゃになったが、気づかなかった。
「へ⁈ 嘘でしょ⁈」
「本当。皇太子だったから、命を狙われていてね……」
「夢小説?」
「本当のこと。ただ見つけるのは難しいし、きっともう滅んじゃったかもしれないけど」
「待て待て待て、どこの皇太子?」
「さあ。私が15歳だった時に夕涼みに出ていたら、何か知らない道があって、そこを通ってみたの。そしたら何か知らないとこがあったし……」
何かフラフラして来た。
お母さんはパート。お母さん、「今日帰りが9時過ぎる」って言っていたからお母さんの分は軽めでいいや。あ、今日は「一緒に夜ふかしして、一緒に軽い調子で大事な話をしよう」って言われたんだった……。っていうか明日学校あるんだけど! お母さんは「1日くらいいいでしょ」って言ってたけど、中2の秋だよ、内申点のことも頭に入れてよ! お母さんは高校に行かなかったから知らないのかな?
でもあんなキラキラな目で「一緒に年越しパーティーしようよ」なんて言われたら断れない! つくづく思うんだけど、私ってお母さんのあの目に弱いなぁ。
うんうん、唸りながらツナ缶を開けたらうっかり手を切っちゃった。でもあっという間に血と傷は消える。いつものように。鬼のように。
よし、茹で上がった。茹で汁を捨てて、ツナマヨと混ぜてからお皿に盛り付ける。うん、いつもながらの映えない料理。お母さんの分はサラダでかさ増し。そうだ、この間作ったユッケ漬け卵、そろそろ食べごろだよね? 1個乗せちゃえ。
もう6時。ちゃっちゃと食べ終わって、お皿洗おう。
*
宿題終わったら9時半になっていた。そろそろ帰ってくるかな? 遅いのはきっと仕事が長引いているから。宿題終わっちゃったから、予習をしよう。
*
2学期分の予習を全部やっちゃったのに、お母さんはまだ帰ってこない。どうしよう、このままだと3学期分に突入しそう。 ――奨学金を使っての高校入学希望だから、それでいいんだろうけど――。
スマホでググってみた、電車の事故があったらしい、もしかしたら引っかかったのかも。尤も、10時に起きた事故だから引っかかりそうもないんだけど。後10分で11時になる。寝ちゃったら合鍵ないからお母さんが家に入れなくなる。だから寝るわけにもいかない。
ピンポーンと鳴った。期待に心臓が高鳴ったが、時間が時間だから、足音を立てずにそっとドアスコープを覗き込んだ。お母さんだ!
ガチャッと勢いよくドアを開けた。
「おかえり。遅いよ!」
「ごめん、ごめん」
お母さんはケラケラ笑いながら、何か荷物を隠しながら風呂場に入った。
洗濯機を回そうと、洗面所に入った。鏡に私の姿が写った。サファイアと栗が混ざり合うような私の目も写った。
*
シャワーを終えたお母さんはサッパリしたようにビールを一杯飲んだ。
私はチラッと時計を見た、もう11時半。
「お母さん、時間が時間だからもう寝るね」
お母さんは私が「時間が時間だからディスコに行ってくるね」とでも言ったかのようにギョッと目をひん剥いて私を見た。何か言い間違えた?
「ちょっと、大事な話とパーティーがあるのに」
「もうすぐ12時だよ」
「じゃあ、ケーキを食べながら大事な話をしよっか。だって賞味期限明日の朝1時なんだよ。せっかく電車一本逃して買ったのに」
さっき隠してたのケーキかい! それに電車に乗り遅れた理由ケーキかい! そんで風呂場にケーキ持ち込むな!
色々面倒くさくなって「分かった~」と気怠げな返事を返してやった。
お母さんはまるで秘宝のようにケーキ箱の蓋を開けた。あ、モンブランとチョコケーキだ。ありがとう、お母さん。
フォークを持ってきて、お母さんが音量を限りなく絞ったバースデーソングを歌うと、2人で「いただきます」と手を合わせた。モンブラン、なんて美味しいんだろう。幸せ。
お母さんは私の表情を見ているうちに、フフッと笑った。蕩けきった表情になってる私の表情。
「かーわいい」と小声で呟くとお母さんは前髪を直した。居住まいも直した。
「あのね、綺星。あなたのお父さん、もういないの」
「知ってる」と、あっさり答えた。
「いつ知ったの?!」と、お母さんが立ち上がった。隠してるつもりだったん?
「そりゃ分かるよ、お父さんいない時点で」と、私は残り少なくなったモンブランを突っつきはじめた。
「そっか……」お母さんはショボンと椅子に座った。が、また立ち上がった。「あのね、お父さんがいないのは、捨てられたわけじゃないからね」
「お母さんが捨てたの?」んな訳ないけど。
「まさか! 殺されちゃったのよ!」
思わず麦茶を噴き出した。机がびちゃびちゃになったが、気づかなかった。
「へ⁈ 嘘でしょ⁈」
「本当。皇太子だったから、命を狙われていてね……」
「夢小説?」
「本当のこと。ただ見つけるのは難しいし、きっともう滅んじゃったかもしれないけど」
「待て待て待て、どこの皇太子?」
「さあ。私が15歳だった時に夕涼みに出ていたら、何か知らない道があって、そこを通ってみたの。そしたら何か知らないとこがあったし……」
何かフラフラして来た。
0
お気に入りに追加
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
【完結】忘れてください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。
貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。
夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。
貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。
もういいの。
私は貴方を解放する覚悟を決めた。
貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。
私の事は忘れてください。
※6月26日初回完結
7月12日2回目完結しました。
お読みいただきありがとうございます。
【完結】捨ててください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。
でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。
分かっている。
貴方は私の事を愛していない。
私は貴方の側にいるだけで良かったのに。
貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。
もういいの。
ありがとう貴方。
もう私の事は、、、
捨ててください。
続編投稿しました。
初回完結6月25日
第2回目完結7月18日

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる