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生きる意味を望む者

初めての村

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 凌弥りょうやがアルの家に住み始めてから、12日経った。
 ここ12日間で1番衝撃が大きかったことは、夜ご飯にチキンスープが出てきたこと。解体を見た時、凌弥は吐いた。
 お昼ごはんは食べないことが多い。食欲がわかないから。凌弥は13歳なのに、身長が145cmであることが気になっているが、お腹がすかないのだから仕方がない。

 近くに村があるが、凌弥はまだそこに行ったことがない。
 村、ということは人がいる。考えるだけで憂鬱になる。そして、幸いなことにアルにまだ村へは誘われていない。


 凌弥は本を手に取った。暇だから。半紙のような手触りの紙の本。3日前、ベッドの下の箱に仕舞ってあったのを見つけた。
「子どもが呼んじゃいけない本」だと思いワクワクしながら読み始めた。ところが多分マジメな内容で、何言ってんのか分かんないタイプのギリシャのすごい人が読むタイプの本だった。
 よりによって何でベッドの下なのかアルに聞いてみたら、「そのあたりに置けば足の小指にぶつかるから」で「ベッドの下だとそのリスクが低いでしょ」と太陽みたいなニコニコ顔で言われた。納得できるような意味分からんような……。

 今日は天気がいいからベランダで読もうと思い、凌弥は外に出た。すると、北の方からアルが歩いてくるのを見た。
 アルって普段昼間は何をしているんだろう?どっか行ってるけど、やっぱり村?
 凌弥は聞いてみようと何度も考えたが、もし行き先が村だったら凌弥も連れて行かれる可能性がある。それは避けたい。会釈だけをすると、凌弥は何を言っているのかさっぱり分からない本を読み進め始めた。
 アルはベランダに入り、本を読んでいる凌弥の表情を覗き込み「面白い?」と弾むような声で聞いた。
 凌弥は笑顔を貼り付け「面白いよ」と答えた。
 アルの表情がわずかに曇り、凌弥の隈を暖めるようにように目元を触った。「君も村に行こうよ」

凌弥は能面のように笑顔を貼り付けたまま、行かずに済む方法を考えた。アルの前ではいい子でありたかった。正解の選択肢は一緒に行くこと。
凌弥は頷いた。アルは凌弥の手を引き、村まで駆け出した。

村に着いて最初に会ったのは夕魅ゆうみより少し下くらいの女の子でカブトムシと遊んでいた。
「こんにちはっ」
アルを見つけた時、女の子にえくぼが出来た。
アルは女の子と目を合わせるように屈んだ。
「こんにちは。お義姉さんは?お墓参り?」
「うん!おばちゃんは今日、お兄ちゃんのお墓!」
女の子は勢いよく頷いた。そして胡桃のような目を凌弥に向けた。凌弥は後退った。
「あたし、カートメトメノ・ペィ!お兄ちゃん誰?」
凌弥はとんでもなく巻き舌音が多い上、ほとんど聞き取れなかった名前を脳内で処理しようとした。聞き直すのなんて恥だ。ようやく処理し終えると一息つき、アルと同じように屈んだ。
「僕は凌弥《リョウヤ》」
女の子は思いっきり首を傾けると「オーア?」と確認した。
「凌弥、だよ」
「オーヤ?」
もしかして僕の名前って発音難しい?「リョ・ウ・ヤ」と一文字ずつ区切ってみても、女の子は首を傾げるばかり。結局凌弥の呼び名は「ヨーヤ兄ちゃん!」になり、女の子のことを「カーリー」と呼ぶことにした。
その間、アルはヒクヒクと笑っていた。

その後、数人の村の人と会ったが誰も「リョウヤ」と発音できなかった。更に凌弥とアルに着いて廻るカーリーを、誰もが「可哀想な子」と呼んだことが凌弥の心に引っかかった。疲れ果てた凌弥は完璧に発音できるアルが超人に見えた。
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