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私の中の神様
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ゴブリンと天使の合いの子が、私の目を通してこの世界を見ているような感覚。「天使」と呼ぶにはあまりにも恐ろしく、「ゴブリン」と呼ぶには清らかだったから。
この建物の上からこの部屋を見ているような感覚。そうとしか分かりやすく形容できない。
「物心つく頃には」……そう言うと大袈裟かな。7歳くらいの頃かな、洗礼式を終えた頃。その感覚におそわれるのはたまに。
その感覚は新たな視点と共に、私がどうしようもなく小さくなったような感情まで与える。
7歳のころは「私が小指になったような感じ」と呼んでいた。13歳になる頃には「ゴブリンと天使の合いの子が私を通して世界を見ているような感覚」と。
15歳になる頃には「大天使」と呼んでいた。新たな考え、新たな思いまで流れるようになったから。大天使は恐ろしいものだから……人智を超えている時点で。
その感覚を封じる方法を覚えたのも15歳の頃。すぐに「世俗的」なことを考えればいい。
その感覚を封じようと思った理由は、「書きなさい」と語りかけてくるようになったから。そんなのは嫌だと思ったから。書くのは好きだけど、だけど……何の足しにもならないから。
私は本を書いて、生活したい。
そんな馬鹿らしい願いに気付いてしまったから。
書くのをやめた。書くのをやめて空いた時間で勉強とバイトに勤しんだ。
ちょっと自慢出来そうな資格をいくつか取得した。一丁前に100万円稼いで貯めてみた。バイト先の人は面白くて、脳裏で人物描写をしていた。偏差値70の大学を志望校に決定してみた。ワーホリに行くための口座を作ってみた。
第二志望の大学への入学許可証が届き、ワーホリ貯金も貯まったころ、人生が掻き荒らされた。
信仰を捨てれば、すべてが解決するのだと知った。その大学は宗教をNGとしていたから。
熱心な信徒じゃない。だから、どうでも良かった。けれど、あの感覚に襲われた。
感覚は「信仰を捨ててはいけない」と主張していた。けれども、私の考えは「捨てるべき」と主張した。私の抱く世界観も、習慣も。
全部全部ガンガンと争って、引っ掻き回して、破壊して、私は何がなんだか分からなくなり、咄嗟に私の頭を強く殴った。クラクラした。それでも感覚は収まらない。手持ちのシャーペンで腕を引っ掻いた……収まらない。強く引っ掻いた……収まらない。
物に当たってはいけない。
混乱してはいても、どこか冷静なまま私はハサミを取り出した。死んだら、収まる?
私はツと、ハサミを思いっきり開いた。手首で逝けるかな?
躊躇いながら、手首に当てた。
「止めなさい。死のうとするくらいなら書きなさい」
そんな考えが突き刺さった。
そうだ。それでいいじゃん。
死ぬくらいなら、書いちゃえ。書いて書いて書いて書いて書いて書いて……その先で死ねばいい。
パリーンと音を立てて、欠片が消えていく。
そうだ。それでいいんだ。
私はシャーペンを拾った。
書こうと思ったのは、昔からの奇妙な感覚について。この奇妙な感覚……、もしかして……。
私は本棚に目を向けた。本棚の1番下には埃の積もった分厚い本が。その本を手に取り、パラパラとめくった。
点が線となるような感覚。きっとそうだ。
この建物の上からこの部屋を見ているような感覚。そうとしか分かりやすく形容できない。
「物心つく頃には」……そう言うと大袈裟かな。7歳くらいの頃かな、洗礼式を終えた頃。その感覚におそわれるのはたまに。
その感覚は新たな視点と共に、私がどうしようもなく小さくなったような感情まで与える。
7歳のころは「私が小指になったような感じ」と呼んでいた。13歳になる頃には「ゴブリンと天使の合いの子が私を通して世界を見ているような感覚」と。
15歳になる頃には「大天使」と呼んでいた。新たな考え、新たな思いまで流れるようになったから。大天使は恐ろしいものだから……人智を超えている時点で。
その感覚を封じる方法を覚えたのも15歳の頃。すぐに「世俗的」なことを考えればいい。
その感覚を封じようと思った理由は、「書きなさい」と語りかけてくるようになったから。そんなのは嫌だと思ったから。書くのは好きだけど、だけど……何の足しにもならないから。
私は本を書いて、生活したい。
そんな馬鹿らしい願いに気付いてしまったから。
書くのをやめた。書くのをやめて空いた時間で勉強とバイトに勤しんだ。
ちょっと自慢出来そうな資格をいくつか取得した。一丁前に100万円稼いで貯めてみた。バイト先の人は面白くて、脳裏で人物描写をしていた。偏差値70の大学を志望校に決定してみた。ワーホリに行くための口座を作ってみた。
第二志望の大学への入学許可証が届き、ワーホリ貯金も貯まったころ、人生が掻き荒らされた。
信仰を捨てれば、すべてが解決するのだと知った。その大学は宗教をNGとしていたから。
熱心な信徒じゃない。だから、どうでも良かった。けれど、あの感覚に襲われた。
感覚は「信仰を捨ててはいけない」と主張していた。けれども、私の考えは「捨てるべき」と主張した。私の抱く世界観も、習慣も。
全部全部ガンガンと争って、引っ掻き回して、破壊して、私は何がなんだか分からなくなり、咄嗟に私の頭を強く殴った。クラクラした。それでも感覚は収まらない。手持ちのシャーペンで腕を引っ掻いた……収まらない。強く引っ掻いた……収まらない。
物に当たってはいけない。
混乱してはいても、どこか冷静なまま私はハサミを取り出した。死んだら、収まる?
私はツと、ハサミを思いっきり開いた。手首で逝けるかな?
躊躇いながら、手首に当てた。
「止めなさい。死のうとするくらいなら書きなさい」
そんな考えが突き刺さった。
そうだ。それでいいじゃん。
死ぬくらいなら、書いちゃえ。書いて書いて書いて書いて書いて書いて……その先で死ねばいい。
パリーンと音を立てて、欠片が消えていく。
そうだ。それでいいんだ。
私はシャーペンを拾った。
書こうと思ったのは、昔からの奇妙な感覚について。この奇妙な感覚……、もしかして……。
私は本棚に目を向けた。本棚の1番下には埃の積もった分厚い本が。その本を手に取り、パラパラとめくった。
点が線となるような感覚。きっとそうだ。
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