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一章 水晶を愛でる愚者
一師 最強にして、最凶【シキ】
しおりを挟む大陸内では大三国に入る魔法と魔術の国、王国アメルカ。国内に張り巡らされた魔法回路を動力源に街灯や魔導列車が走る。規則正しく取り締まられた兵士が巡回し、他国と比べても比較的治安がいい。
戦争になれば、日々訓練をつまれた騎士団が地を馳せる。だが、このアメルカの強みは剣よりも杖ーー魔導にあるだろう。
魔法と魔術に長けた者を、魔導師と称した。魔導師は魔導団属し、その中でも王宮に仕える五人の者を王宮魔導師と呼んだ。
そんな、王国の一角から事は起きる。
積み重ねられた資料の山に、腰まで伸ばされたボサボサの青紫色の髪をした男は重たいため息を吐く。
なんだこの山は崩しても崩してもいっこうに先が見えない。天災級の魔物を倒すよりも難解だと、髪に隠れていない琥珀色の左目で憎々しそうに睨む。
他のものに回せば少しはましになるのだが、そうも行かないのが世の常だ。回せるならとっくに回している。それが出来ないからこうして、溜まり積もっているのだ。
「はぁ……」
男に回される資料は全てが国家機密の重要な資料だ。おいそれと部下に任せることも出来ない。その事実を知っている男はため息を重ね気だるい気分を払うことはできない。
徹夜など当たり前の我が職に男は嫌気が差していた。既に一週間徹夜が続いている。ブラック過ぎるのではないか?部下は休暇もあり、今日は奥さんと子供と外食をしてくるらしい。
「なのに我輩は紙と昼食を取ると……」
なんだ、この差はとっ男は苛立ちを覚える。職に対して嫌々やっているわけではない……だが!いくら、給料がよいと言っても使える時間がなければ意味をなさない。この職に就いてからはや百五十年と六ヶ月に三日……。男は働き詰めだ。
男の忍耐強さにもヒビが入って割れる寸前だ。改善を求めて国王に手紙を送っても改善されないブラック。
だから、男は考えるーー
「引退するか」
と。
【シキ・ロス・クラウン】彼自身が公爵家の当主であると同時に五人いる王宮魔導師の一人である。彼の武勇は書物が出るほど広く知られ、魔法を扱う者なら彼の名は知らぬものはいない。
王国ギルデールに迫り来る敵をなぎ倒し、祖国の為に尽くした大英雄。彼がいなければこの王国は乱戦を生き延びれなかったとだろうと、言わせる男。それが、シキ・ロス・クラウン、まさに国の象徴たる人物。
そんな彼が今何をしているかと言うと……
「師匠本気ですか!?」
「あぁ、本気ですが……なにかね?我輩は忙しいのだ、あまり邪魔をしないではくれないか」
荷物をまとめていた。
彼シキは部屋に乱雑に放り込まれたような研究の資料や作った魔法道具を整頓し、魔法鞄にしまいこんでいた。掃除を長いことせず足の踏み場がなかった床は机を置くぐらいには場所ができ、昨日までシキが寝るために天井に吊っていたハンモックはなくなっている。
「嘘ですよね!?趣味の悪い冗談ですよね!?」
「我輩が冗談を言わないのは君は知っている筈だが?」
「で、でもでも!し、師匠!!」
片付けなければならない、書類は魔法や魔法道具をフル活用し済ませた。シキにかかれば一年分の書類も一時間で片付けられる。それを何故今までしなかったのはどうせ、終わらせても新たな書類が継ぎ足されるからだ。
「しつこい、我輩は引退すると決めたのだよ」
「!!……師匠……」
ひどく困った様子でシキを見つめる彼の弟子セレナの目元には涙が堪っている。整った容姿をしているセレナのその姿を見れば大抵が狼狽える。が、シキはその大抵に含まれない例外だ。
偽りの涙などに騙される我輩ではないと、シキは黙々と荷物の整理をする手を止めない。女の演技は怖い怖いと軽く流すだけだ。百五十年生きる彼にたかだか十なん年生きただけの少女の付け入る隙などありはしない。
「シキ師匠ですが、あなた様が今引退されては国の防衛力、攻撃力共に著しく下がります!それだけではなく、魔法団の団長はあなた様以外に勤まりません!どうか、考え直してもらえないでしょうか!」
「……はぁ……君はもう少し聞き分けがいい子だと思っていたんだが。どうやら、間違いだったようだね。我輩は引退する、これは断固として変える気は微塵もない」
セレナがシキを引き留める理由は何も王国だけではない、自分の立場を守るためだ。シキ・ロス・ヨハトネールの弟子この立場は大きい。彼が引退したとなれば原因に自分があてられることになるからだ。例え、関係なかったとしたもだ。
宮廷魔導師はシキを筆頭にあと四人いる。その中にセレナも入る。いや、セレナだけではない、宮廷魔導師四人中三人がシキの弟子なのだ。シキの弟子なるイコール宮廷魔導師となるほど彼の王国に対する権利は大きい。
王国より魔法の才のがあるものが厳選に厳選を重ね選ばれた者が、幼い頃からシキに鍛えられる。そして、宮廷魔導師に相応しい力を得るのだ。この形式が百五十年繰り返されている。
老いれば、シキの鍛えた新しい弟子に替える。
それとは例外に一人だけ実力でのし上がって王宮魔導師になれるものもいる。しかし、それは本当に例外的に魔法の才のがなければならないが。
「忠告だセレナ・セフ・エユメス。それ以上その話をするなら我輩の弟子を下ろす」
「!!…………し、失礼しました、師匠」
「よろしい。ではこれを国王に渡しといてくれないかね。できるだけ急いでね」
「これは?」
「なーに、ただの別れの手紙だよ」
シキは何気なくそう言うが、セレナの手は震え、顔は白くなり冷や汗をかいている。これをもし、もし万が一にでも紛失することがあれば首を跳ねられものだ。
立場は同じ王宮魔導師だが、その立場には明確な上下がある。シキが雲の上ならセレナは奈落の底だ。どちらが王国にとって重要かなど聞かずとも分かりきったことだ。
「そ、そんなに大事な物を私なんぞが……」
「いやいや、言うほど大事でもない。ただのお世話いになりましたー、的なやつさ」
「……分かりました。必ず国王様に渡しておきます」
「うん、宜しくね」
セレナはシキに背を向け扉からでると大急ぎで国王に渡すために向かう。
「別にそんなに焦らなくともいいのだが……」
早いに越したことはないかと、シキは思い扉から目をそらし片手を上げる。すると、時空魔法で出した椅子にシキは王国の魔導師達が必死で空間魔法の研究をしているのを知らないとばかりに座る。
そして、チャランと首からかけた水晶を今までのどの表情とも違った優しげな目で眺める。
◆◆◆◆◆
大事な事を。
※この物語はダークファンタジーです。女性キャラがわりと多く出ますがハーレムではございません。ハーレムのハの時もありません。敢えて言うなら、偽ハーレムです。あと、ちょと主人公がクレジーです。
それと、プロローグ書き換えるかもしれません。
【シキ・ロス・クラウン】の挿し絵です。
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