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天使夢羽

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第一章 今みこと 〜現実世界〜

第一章 ②

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高山唯は家に帰ってすぐ机にエコバッグを置くと、さっと手を洗ってすぐ調理を始めた。

「お肉焼いといてね?」

高山唯は今みことに意地悪く言ってチラリと目をやった。

「料理できないの知ってるでしょ」

今みことはそう言って高山唯を軽く睨んだ。

「冗談よ。
でも、火も包丁も怖がってるようじゃ、この先生きて行けなくなるわよ」

「火が怖いんじゃないの。
火遊びも、手持ち花火もできるから。
火じゃなくて、油とか、飛んでくるものが危ないの」

「刃物も怖いんでしょ?」

「包丁は嫌だけど、はさみやカッターナイフは使える。
のこぎりはちょっと嫌。
とにかく、包丁は無理」

「慣れたら大丈夫よ」

「慣れるまでは大丈夫じゃないでしょ」

頑なに料理を嫌がる今みことの圧に負けて、高山唯は苦笑した。

「はい、完成」

高山唯は、いじける今みことに、押しつけるようにステーキハンバーガーを差し出した。

今みことはゆっくりと口を開けてハンバーガーをほおばった。

「ん、いつもより美味しいかも」

今みことは、唇についたソースを親指で拭った。

「そりゃあね。
みことのお金だから、美味しく作れるようにちょっぴりお高いお肉を選んだもの」

高山唯は片目を閉じて今みことを見つめた。

「唯、あんたさぁ、私のお金だからって…」

「みことのお金だからよ。
少し高くたって味さえ上がれば無駄じゃないわ」

「んー、まぁ、美味しいから許す」

高山唯は、今みことが使っている窓際のカフェ風のデスクに腰を下ろした。

「ねぇ、みこともナース始めなよ。
そろそろ時代に乗り遅れるよ?」

高山唯は左に揺れて今みことの顔を下から覗き込むようにした。

「うん、やる」

今みことは、何やら深刻そうな顔でそう言って、ハンバーガーを持った両手をドサッとデスクに下ろした。

「どうしたのよみこと、今まで痛そうとかなんとか、あんなに嫌がっていたのにさ」

高山唯は心配そうに振り向きながらキッチンへ向かった。

「コーヒーいる?」

高山唯は今みことに聞いた。

今みことはコーヒーが苦手だ。

「たまには飲んでみる」

普通に考えれば気をおかしくしているように思うけれど、今の今みことの返答はいつになくまともだった。

高山唯はこの一言で悟った。

今みことが、何か強い意志を持ってナースを脳に埋め込むことにしたということを、今みことが高山家に来た本当の目的を。
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