枯れない花

南都

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第五章 「結末」

第二話

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「モノクロームとの出会いがまず夜です」

 俺とモノクロームとの初の出会い。当時を思えば微かにノスタルジックな気分になる。

 「そうでしたね」とモノクロームが溢した小さな笑み。左手をフロントガラスの方へと伸ばし、甲を見つめる。
 『シロツメグサ』の入れ墨、俺にははっきりと目に映っていた。モノクロームには見えていない、それが信じられないほどに明瞭に。

「『衝動』が収まらなかったんです。どこかのタイミングで話しかけようとは思っていたものの、ずっと声はかけられなかった。しかしこのときの『衝動』は収まりそうになく、つい会いに行ってしまったんです。夜だから……大丈夫かなって」

 困ったように笑う。体を軽く仰け反らせるように伸ばし、手を体の手前で合わせるようにして。

 彼女は衝動を「神の啓示」と呼んだ。どこまで本気だか分からないが、この時に出会ったのは間違いなく助けになった。モノクロームと出会わずして俺が能力を得ていたら、俺はもう失命していてもおかしくない。

 あながち間違いではないのかもしれない、神の啓示という捉え方も。

「アスピレーションの勧誘を受けた日、あれも夜でした。光線がやけに眩しかったのを覚えています」

 能力との出会い。

 訳も分からず戦った。俺には光線といった分かりやすい能力がなかった。
 強制開花の能力に気が付けず、やるせなさをぶつけるように戦った。必死に武器を手に取り、それを振るい続けた。その結果は……敗北に近いものだった。

 俺の能力の不便さに関しては、今も変わりないか。

 自嘲気味に笑う。今だって俺は独りでは戦えないのだ。アクセサリーがない限り、俺は無能力者と変わりない。

「あの時は焦りました、あなたがひどい怪我を負う可能性がありましたから。甫突さんに那附さんを呼んでもらって正解でした」

「あの時からモノクロームが?」

「はい。甫突さん伝手づてですけれどね。私はアスピレーション離脱にかけて能力を回収していましたので手が回らなかったんです」

 モノクロームはモノクロームで動いていたということなのだろう。アスピレーションに所属していた時期、俺は彼女がどう動いていたのかはわからない。それでも、この時から俺は助けられていた、その事実だけでも十分だ。

「ありがとうございます、モノクローム」

「えっ? 何ですか突然」

「いえ。言わないといけない気がしたんです。思ったときに伝えたかった」

 すると見せたのは戸惑い。おどおどと瞳が揺らぐ。どこか挙動不審な動きだ。
 そそくさとペットボトルを手に取り、気を紛らわすかのようにキャップをくるくると回す。この仕草、彼女も大概変わり者だ。いや、俺などに固執している時点で変人ではあるか。

 微笑み、話を続ける。次の出来事こそ、俺の中で一番重要な出来事だった。
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