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しおりを挟む神は言った。
「最近さあ、英雄が出てこなくない? 神的にはさ、今の世界に問題アリだと思うわけ」
まだ神が地上にあった時代は、人間にとって多くの困難がひしめいていた。だからこそ英雄が現れ、彼らの物語が綴られた。
しかし、現在の世界はあまりに退屈だ。
神が天界に居を移して以降、人間たちはその適応力と繁殖力にものを言わせて世界の支配者になってしまった。結果、英雄譚は過去に語られるものとなった。実に嘆かわしいことである。
「面白い英雄譚が生まれるように、世界の在り方を変えちゃおっかな~」
椅子に深く腰掛け、神は自身の使いに話の水を向けた。
天使の一柱であるウリエルは、主の言葉に恭しく首を垂れる。
「すべては御心のままに」
火の顕現たるウリエルは、神お気に入りの熾天使だ。
燃える炎のごとき髪を靡かせ、叡智の書を開きながら相談に応じてくれるウリエルたんマジ天使、とは神の偽らざる本音である。パパは娘を溺愛する生き物なので仕方ない。
ともあれ、神はウリエルの同意を得て舞い上がった。
「そうと決まれば、さっそく世界改変しちゃおっかな~!」
言って、迅速に世界のプログラムに変更を掛けていく。
「まずはエーテルを世界にばら撒かなきゃねえ。効率よくばら撒くには、やっぱりダンジョン形式がいいかな? ダンジョンで肩慣らしをさせつつ、一定期間後に地上にも獣が生まれるように改変する……うん、悪くない」
エーテルとは、天を司る始まりの元素である。神の権能を発揮するための元素として世界に満ち満ちていたそれは、いつしか地上の生物にも影響を与えるようになった。
エーテルは生物に蓄積されていき、いわゆる魔力の素──マナへと変容した。
マナを用いれば、神の権能を疑似的に再現することが可能である。たとえば、何もないところから火を熾したり、水を生み出したり、風を吹かせたり……こうした理外の事象を魔術と呼ぶ。
神話や叙事詩に謳われる英雄たちは、魔術を用いて神代の獣たちと戦ったのだ。
「そうそう、ダンジョンには旨味がないとね。採掘資源や食料が取れるようにしておこうか。となれば、探索用の限定世界を別次元に生み出せばいいか」
神はブツブツとつぶやきながら作業を続ける。
ほどなくして、最終確認を終えた神が世界中にダンジョンへ繋がるゲートを開こうとしたそのとき、事件は起こった。
「アッ」
情けない声が漏れた。
「いかがなさいましたか?」
主の動揺にウリエルがきょとんと首を傾げる。
「……や、やっちまったぁ」
ウリエルは〈天眼の水鏡〉を起動し、世界各地に実装されたダンジョンに障害がないか検索する。各地の映像が流れていくなかで、ウリエルの眉がピクリと反応した。
モニターには、日本に実装された比較的明るい洞窟型のダンジョンが映し出されていた。画面の中央では、黒髪の少年が呆けた顔で尻もちを着いている。どうやら、彼はダンジョンの実装に巻き込まれてしまったらしい。
神は眉間にしわを寄せる。
正直言って、戦闘経験のない学生ではモンスターを倒せるかわからない。身体能力ではなく、精神の問題だ。突如として現れた異形の存在に成すすべもなく殺される可能性は多分にある。
助けてやりたいと思うが、ダンジョンを生み出した存在であっても直接介入することはできない。そのように自分で設定してしまったからだ。神はアホだった。
考え抜いた末、神はひとつの決断を下す。
「ウリエルたーん! 彼のナビゲーターになってあげてくれないかなあ!? 神からの一生のお願いっ!」
鼻水を垂らした情けない顔で神が土下座する。
対してウリエルは、その場で片膝をつき主命に応じた。
「すべては御心のままに」
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