そらにむかって。

恋雪

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病室

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「はーい、異常なし、っと。」

先生の明るい声が、無機質な病室に響いた。

「リタ先生、ありがとうございます」

私は笑顔で応じた。

先生は、診察器具をカチャカチャと片付ける。

「それにしてもユキちゃん、最近調子いいわね!順調、順調!」

先生は指でグッドのサインを作り、笑いかけた。私はもう一度、ぺこりとお辞儀をして返す。

「いつか退院できますね」

「もちろん。私が退院させるわ、任せてね」

「楽しみにしてます」


退院。

私が生まれて15年、1日たりとも頭から離れた日はなかった。
それ程大切な目標、ということでもあるけど、何より、他に考えることがないのだ。
退屈な入院生活。
15年といえど、楽しみを見出すのはなかなか困難なことだった。

だから私はいつでも、退院のことばかり考えていた。
まだ見たことのない、外の世界。
そら。うみ。はな。こうえん。ともだち。
お兄ちゃんや先生にお話を聞く限りだけど、楽しそうな世界だとは知っている。

「それじゃあユキちゃん、行くわね。」

片付けの終わった先生がドアノブに手をかけ、片手でバイバイをした。
私はお礼を述べ、先生を見送る。

「はぁ…」

先生がいなくなった病室は一層静かで、寂しく感じる。
冷たい白に囲まれた、退屈な病室。
私はここから出るために、大嫌いな注射も毎日耐えて頑張ってるんだ。

「今日は何をしようかなぁ…」

言ってはみたものの選択肢なんてないので、もう一度眠ることにした。

おやすみなさい。

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