守銭奴魔術師と暴食の魔女~俺が信じるのは金だけだ。金のためなら、伝説の悪女も守ってみせる~

日埜和なこ

文字の大きさ
上 下
98 / 116
第十章 マージョリー・ノエルテンペストの手記

10-1 朽ちたネヴィルネーダ王城

しおりを挟む
 トランクに一週間近い食料を積んで、俺たちは再び失われた魔法大国ネヴィルネーダ王城を目指していた。

 車を走らせている間、襲い来る魔物に銃口を向けるエイミーは実に楽しそうだった。それを見たビオラは、使ってみたいと言い出し、眺めながら終始そわそわとしていた。
 少ない魔力で魔法が発動できるとなれば、当然、今のビオラには魅力的だが、それを除いても新しいものに興味津々だったようだ。相変わらずの好奇心の塊だな。

「やはり、魔法弾と拘束、催眠の魔法程度でも、先手を打てるメリットは大きいですね」
「もっとデカい魔法が使える様になったらと思うと、末恐ろしいけどな」
 
 後部座席で新しい弾倉を詰め替えているエイミーに、純粋な感想を述べると、彼女のきょとんとした顔が鏡越しに確認できた。

「恐ろしい?」
「今は魔物に向けられているから心強いが、武器って言うのは人に向けられることもある」
「あー……そうですね。ごもっともです」
「そもそも、それは戦争屋とやらが作ってるのじゃろ? であれば、対人武器ということじゃな。魔物は人と戦争する気なんてなかろう」
「だな。魔物あれが攻撃してくるのは、生きるためだ。獲物を狩り、群れを守るためだからな」

 森を抜けた先、広がった見渡しの良い荒野で車を止めた俺は、窓越しに瓦解した廃城を見上げた。
 ここまで来るのに約二日。ビオラの推測通りだ。この先に待ち受けているのは、俺たちが求めている情報なのか、はたまたまだ見ぬ獣か。

「まぁ、昔は人並みの知性を持つ魔物も多かったなんて話もあるし、そういうのが現れたら、魔法が使える拳銃ってのも重宝されるだろうな」
「魔王とその眷属のことかの? それが復活したら、戦争どころじゃなかろう」
「だろうな……さて、もう一走りして、目的地の探索を始めるか」

 そう言ってアクセルを踏んだ俺は、エイミーが黙り込んでいたことを、この時は何ら不思議に思っていなかった。

 ***

 小高い丘の上にその廃城はあった。その麓には都市が栄えていたのだろうが、風化した建物は僅かにそれと分かる形を所々に残していたが、木々に飲み込まれ森となっていた。
 朽ちてもなお、頑強な石造りの壁で囲われる王城は太い蔦が絡まっている。まるで御伽噺おとぎばなしに出てくるお姫様が眠る城のようだ。

 壊された門扉もんぴをくぐって先に進むと、ガタガタに崩れた石畳が続いた。沿道には、おそらく美しい庭園が広がっていたのだろう。瓦解した石像や噴水と思われるものが生い茂った植物の間に見られた。
 魔物の気配はなかったが、食料も積んでいることだし、出来れば車を朽ちた瓦礫や茂みの陰に隠しておきたいところだ。そんなことを考えながら、城の中、進めるギリギリまで車を走らせた。

「魔物の気配はなさそうだな」
「城の中に住み着いてはおらんかの?」
「どうだろうな」
「エイミーは連戦で疲れておるじゃろ? 少し、休めると良いのじゃが」
「休める場所か……組合ギルドが調査に入ったことはあるから、運が良ければ、まだ休憩場所に仕えそうな場所が残っているかもな」

 その調査もだいぶ昔の話だが、もしかすると、大規模な調査隊が組まれていないだけでその後も続いている可能性はある。

「わ、私は大丈夫です。先に進みましょう!」
「しかし、顔色が優れぬぞ」
「揺られて気分が悪くなっただけです。外の空気を吸えば大丈夫です」
「……そうかの?」

 後部座席を覗き込んだビオラは、心配そうにエイミーに言葉をかけていたが、当の本人はいたって元気だと主張した。俺から見ても、顔色が悪いように見えるが、こればっかりは本人にしか分からないことだ。そもそも、魔力を増幅しているエイミーが、この二日間でそれを使い切ったとは思えない。その行使にも、あの拳銃を使っていた訳だし。
 どうしたものかと思案していると、ビオラが俺に視線を送って来た。まるで、どうするか決めろと言うように、横顔に突き刺さる。

「ひとまず、車を止めて城の内部を進むか」

 念のため、一日程度の非常食を持っていくことを提案すると、ビオラは後部席に移動してバッグを用意し始めた。その姿にため息をつきながら「菓子ばかり詰めるなよ」と声をかけると、バレたと言うように小さな肩がビクンと跳ねた。
 
「全く、お前は……この先はお前の記憶が頼りだからな」
「う、うむ。任せるのじゃ!」
 
 誤魔化すように笑うビオラは、お気に入りのチョコレートの袋をしっかりリュックに詰め込んだ。
 廃城に近づくと、上がる石段のすぐ傍まで木々が生い茂っていることがすぐに分かった。その石段のすぐ傍、茂みに突っ込むような形で車を止めて外に出た。さらに、辺りから木々の枝を落として車体を覆い隠した。

「これでは容易に見つかりそうじゃ」
「だろうな」
「……魔物に荒らされて、帰りは徒歩! なんてのは勘弁じゃぞ」

 そうなったら、おんぶしてたもれ。そう騒ぐビオラを無視して、俺は足元の石畳をならすように細かな石や枯葉を蹴り飛ばした。
 愛用の杖を振り、結合部分ジョイントをカチリと鳴らす。

「俺を誰だと思っているんだ? 見つからないように、魔法をかけりゃ良いんだろうが」

 にっと笑って、杖の先を石畳に叩きつけた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

闇に堕つとも君を愛す

咲屋安希
キャラ文芸
 『とらわれの華は恋にひらく』の第三部、最終話です。  正体不明の敵『滅亡の魔物』に御乙神一族は追い詰められていき、とうとう半数にまで数を減らしてしまった。若き宗主、御乙神輝は生き残った者達を集め、最後の作戦を伝え準備に入る。  千早は明に、御乙神一族への恨みを捨て輝に協力してほしいと頼む。未来は莫大な力を持つ神刀・星覇の使い手である明の、心ひとつにかかっていると先代宗主・輝明も遺書に書き残していた。  けれど明は了承しない。けれど内心では、愛する母親を殺された恨みと、自分を親身になって育ててくれた御乙神一族の人々への親愛に板ばさみになり苦悩していた。  そして明は千早を突き放す。それは千早を大切に思うゆえの行動だったが、明に想いを寄せる千早は傷つく。  そんな二人の様子に気付き、輝はある決断を下す。理屈としては正しい行動だったが、輝にとっては、つらく苦しい決断だった。

ガダンの寛ぎお食事処

蒼緋 玲
キャラ文芸
********************************************** とある屋敷の料理人ガダンは、 元魔術師団の魔術師で現在は 使用人として働いている。 日々の生活の中で欠かせない 三大欲求の一つ『食欲』 時には住人の心に寄り添った食事 時には酒と共に彩りある肴を提供 時には美味しさを求めて自ら買い付けへ 時には住人同士のメニュー論争まで 国有数の料理人として名を馳せても過言では ないくらい(住人談)、元魔術師の料理人が 織り成す美味なる心の籠もったお届けもの。 その先にある安らぎと癒しのひとときを ご提供致します。 今日も今日とて 食堂と厨房の間にあるカウンターで 肘をつき住人の食事風景を楽しみながら眺める ガダンとその住人のちょっとした日常のお話。 ********************************************** 【一日5秒を私にください】 からの、ガダンのご飯物語です。 単独で読めますが原作を読んでいただけると、 登場キャラの人となりもわかって 味に深みが出るかもしれません(宣伝) 外部サイトにも投稿しています。

婚約破棄騒動に巻き込まれたモブですが……

こうじ
ファンタジー
『あ、終わった……』王太子の取り巻きの1人であるシューラは人生が詰んだのを感じた。王太子と公爵令嬢の婚約破棄騒動に巻き込まれた結果、全てを失う事になってしまったシューラ、これは元貴族令息のやり直しの物語である。

鎮魂の絵師

霞花怜
キャラ文芸
絵師・栄松斎長喜は、蔦屋重三郎が営む耕書堂に居住する絵師だ。ある春の日に、斎藤十郎兵衛と名乗る男が連れてきた「喜乃」という名の少女とで出会う。五歳の娘とは思えぬ美貌を持ちながら、周囲の人間に異常な敵愾心を抱く喜乃に興味を引かれる。耕書堂に居住で丁稚を始めた喜乃に懐かれ、共に過ごすようになる。長喜の真似をして絵を描き始めた喜乃に、自分の師匠である鳥山石燕を紹介する長喜。石燕の暮らす吾柳庵には、二人の妖怪が居住し、石燕の世話をしていた。妖怪とも仲良くなり、石燕の指導の下、絵の才覚を現していく喜乃。「絵師にはしてやれねぇ」という蔦重の真意がわからぬまま、喜乃を見守り続ける。ある日、喜乃にずっとついて回る黒い影に気が付いて、嫌な予感を覚える長喜。どう考えても訳ありな身の上である喜乃を気に掛ける長喜に「深入りするな」と忠言する京伝。様々な人々に囲まれながらも、どこか独りぼっちな喜乃を長喜は放っておけなかった。娘を育てるような気持で喜乃に接する長喜だが、師匠の石燕もまた、孫に接するように喜乃に接する。そんなある日、石燕から「俺の似絵を描いてくれ」と頼まれる。長喜が書いた似絵は、魂を冥府に誘う道標になる。それを知る石燕からの依頼であった。 【カクヨム・小説家になろう・アルファポリスに同作品掲載中】 ※各話の最後に小噺を載せているのはアルファポリスさんだけです。(カクヨムは第1章だけ載ってますが需要ないのでやめました)

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

いい子ちゃんなんて嫌いだわ

F.conoe
ファンタジー
異世界召喚され、聖女として厚遇されたが 聖女じゃなかったと手のひら返しをされた。 おまけだと思われていたあの子が聖女だという。いい子で優しい聖女さま。 どうしてあなたは、もっと早く名乗らなかったの。 それが優しさだと思ったの?

婚約破棄してたった今処刑した悪役令嬢が前世の幼馴染兼恋人だと気づいてしまった。

風和ふわ
恋愛
タイトル通り。連載の気分転換に執筆しました。 ※なろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、pixivに投稿しています。

処理中です...