守銭奴魔術師と暴食の魔女~俺が信じるのは金だけだ。金のためなら、伝説の悪女も守ってみせる~

日埜和なこ

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第六章 堕ちた遺跡≪カデーレ・ルイーナ≫

6-11 厄介事が重なりすぎだ。少し、頭の中を整理しよう。

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 思い出すエイミーの姿は印象が薄い。栗毛色の髪なんてどこにでもある。化粧っ気もなく、特に目立った髪飾りをつける訳でもない。服装も思い出すのが困難な程度には地味目だった気がする。初めて船の上であった時は、一般の旅行者と思ったくらいだしな。
 あえて一般人に紛れるため、そう装っているのなら、俺はそれにまんまと騙された訳か。そう考えると、無性に腹立たしさが込み上げてくる。
 
「青の魔女で、あの魔力とはどういったことかの? 五百年前ではありえぬ」

 納得いかないと言う顔で俺を見るビオラだが、その問いに俺も正当を返すことは出来ず、小さく唸って前髪をかき乱した。

 古くから、青の魔女、あるいは青の魔術師という呼び名はを意味している。瞳の色が魔力の質、量、希少性を表すと言われるが、青い瞳をした者は下級魔術師に多いためだ。
 それとは逆に、魔術師組合ギルドに登録している高等魔術師は希少性の高い瞳の色を持つ者が多く、特に赤い瞳は奇跡の瞳と呼ばれている。
 俺の知っている限り、赤い瞳を持つ者は、ビオラと俺の死んだ母親、組合総本部の組合長くらいか。

 もしかしたら、エイミーの瞳の色は青ではなく、何らかの魔法で色を誤魔化している可能性もある。だけどそんな魔法、俺は聞いたことがない。

「今でも、おかしな話だよ……まぁ、何かカラクリがあるんだろうな」
「カラクリの。あの娘と次に会ったら、それも聞くとしようかの」
「正直なとこ、これ以上関わり合いになりたくないけどな」
「なら、探さぬのか?」
 
 小首を傾げるビオラに深くため息をつき、頭を振って否定した。
 佐川ない訳にはいかない。何せ、組合総本部が早々に、特任魔術師に向けてエイミー・レミントンの捕縛任務を通達したからな。直接対峙した俺が見て見ぬふりと言う訳にもいかないだろう。それに、報酬料金もなかなかの高額設定だしな。

「報酬を他のやつに取られるのもしゃくだ」
「また金かの?」
「金を軽視はしない」

 とは言え、報酬がなかったとしても、動かないわけにもいかないだろう。何せエイミーは、火蜥蜴の石サラマンドライトを求めて落ちた遺跡カデーレ・ルイーナを訪れたと言っていた。あの頭のおかしな女が火蜥蜴の石を手にするなど、考えただけで恐ろしい。
 何のために魔法石を求めるのか問う必要がある。それが悪事の為であるとしたら、止めないわけにもいかない。

 再び窓の外に視線を向けると、当然だが、遺跡は何事もなかったようにそこにあった。

「あの通路と部屋は封鎖されることになったし、もうここには来ないだろうな」
「あの調子じゃ、他の遺跡でも同じことをしていそうじゃの」
「だろうな。闇雲に動いても見つかるとは思えないしな……」

 おそらく、通達を受けた魔術師たちは各地の遺跡調査ついでに、エイミーを探すだろう。本来なら、俺も近場の遺跡に向かうのが妥当だろうが。
 視線を横にずらしてビオラを見た。

 ビオラの封印を解くと言う目的もある。あの鏡に関係する噂話でも見つかれば、それも合わせて探れる地方に行くのも良いかもしれない。
 
「あの娘は、何をしようとしてるのかの? なぜ、時の魔法について知りたがるのか」
「時の魔法か……あの鏡にも施されていたな」
「そうじゃの。わらわの過去現在、そして未来を封じるため、時を止める魔法が刻まれておったが……」
「俺が解除を失敗して、不完全なままにお前は蘇った。その原因も探らないといけないって言うのにな」

 色々と厄介ごとが重なり、頭が痛くなりそうだ。
 先が思いやられるとはまさにこのことだろう。今は、封印に関する情報が何一つないようなものだしな。

 脳裏に銀の鏡と失敗した解除のことを、ふと思い浮かべた。
 まずは失敗になった原因を探る必要がある。それを取り除いたうえで、鏡に必要な五つの魔法石を用いて再び解除を試みなければならないだろうな。

 ビオラは一瞬でも本来の姿で蘇ったことを考えれば、別の原因が彼女の時の一部を鏡に引き戻したことで、幼女の姿になったと考えるのが、一番しっくりくる。
 ただ、原因が分かっても、結局は五つの魔法石がなければ進まない話に変わりはない。

「五つの魔法石の手掛かりを見つける前に、もう一度、鏡の封印を調べなおす必要が……ビオラ?」

 黙りこくってしまったビオラに視線を向けると、彼女は床を睨むようにして、何か真剣に考えていた。

「どうした、ビオラ?」
「……妾は、本来の姿でこの時代に蘇っておったの?」
「ほんの数分だけどな」
「なら、お主の解除は成功していたのではないか?」
「は? いや、そしたら、お前がそんななりなのは説明がつかないだろう? 俺が失敗したから──」
「ラス、帰ったら鏡の見直しじゃ!」

 何か閃いたらしいビオラは、ぴょんっと窓台から飛び降りるとベッドに向かった。
 俺も鏡を調べなおそうと思っていたところだったが、ベッドに潜ったビオラが確信めいた笑みを浮かべていたことは全く理解できなかった。
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