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第二章 五百年前の遺物
2-7 五百年前の遺物は美術品として価値が高い。と言われても興味はない。
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「リアナはやらんぞ」
「は? 俺が欲しいのは魔法石だ」
「そんなもん、いくらでもくれてやる!」
「そりゃ助かるな」
「だが、リアナはやらないからな!」
「分かったって。何度も繰り返すなよ」
腕を組んでフンッと鼻を鳴らすジョリーを見て、内心、深々とため息をつく。こいつは、嫁さんをもらって娘を溺愛するデレデレな父親になったが、重度のシスコンでもある。全くもって、厄介だ。
未だジト目で俺を見るジョリーに、何度目か分からない「子どもに興味はない」を繰り返し訴えた。
このやり取りは、かれこれ十年近く、リアナが七歳の頃から続いている。いい加減、こっちは飽きてきたというのに、ジョリーは未だに妹を俺にとられると思っているらしい。
全くもって、迷惑な話だ。
「ジョリー、俺がしたいのは仕事の話だ」
「……何に使うんだ? せめて依頼品くらい見せろ」
ひとまず納得したのか、ジョリーは立ち上がるとカウンター後ろの壁に並ぶ棚へと足を向けた。
年季の入った棚の一番下には、頑丈な金庫がある。俺の師匠が作った封印付きのものだ。
ジョリーは腰に下げた鍵束から銀の鍵を一本抜くと、錠前に差し込んだ。そして左手をかざせば、組み込まれる数字盤が自然と右に左にと回りだした。
その様子を眺めながら、俺は口元を手で覆いながら考えていた。
出来ればジョリー達を巻き込みたくはない。
何せ、今回の依頼はメナード家の家督争いが絡んでいる。どうにか人死にが出ないよう、俺なりに手を尽くそうとは思っているが、下手をすれば騒動の真っただ中に放り込まれる。
詳細は明かさず材料だけ頼もうと思ったが、そう簡単にはいかなそうだ。
「依頼品は、うちの金庫の中だ」
「あの封印庫か。厳重だな」
「それなりの年代物だしな」
「年代物?」
金庫から箱を取り出したジョリーは勢いよく振り返った。その目はハートや星を飛ばす勢いで、キラキラと輝いている。
しまった。選ぶ言葉を誤った。せめて、貴族の依頼だくらいにしておくんだった。そう気づくも、時すでに遅し。
いい大人の男が、巷で流行りの恋愛小説に出てくるような、乙女の空気を醸し出さないで欲しい。花を咲かせるな。星を飛ばすな。おっさんがやっても可愛くもなんともないだろう。そう思いながら、俺は後悔のため息を深くついた。
現物を見せたら、泣いて欲しがりそうだ。いや、説明をするだけでも同じだろう。
「おおよそ五百年前の鏡だ。入ってる箱の封印は解かれているが、鏡自体の封印が解けずにいる。そこで必要なのが五つの魔法石だ」
「五百年!?」
「あぁ、それで代用品の石を入れて解除を試みようと思っている」
「封印を施した術者は絞り込めるのか? 刻まれた古代魔術言語の癖は!?」
「待て。落ち着け」
前のめりになって喰いついてきたジョリーは満面の笑みで、今にも涎を垂らしかねない顔つきだ。これは欲しいから買い取らせろ、と言っているも同然だろう。
ジョリーは解体屋であると同時に、骨董品や美術品の収集家だ。
五百年前の遺物と言えば、当時滅んだ魔法大国ネヴィルネーダの遺産を初め、多くの遺物があり得ない高値で取引されている。
特にネヴィルネーダの遺物は別格だ。
世界の中心でありながら、一人の魔女と暗君フレデリックによって滅びの道を歩んだ国。今では想像もつかないような魔術に魔法道具、さらに優秀な魔術師を多く抱えてたと言われる。その全てが封印されることになったのだが、今の技術を上回る魔術で生み出された封印物は芸術品でもある。封印が解かれたものでも相当の価値があるとも云われてる。
俺は美術品に興味はないから、入手した場合は全てジョリーに買い取ってもらっているのだが。
近づく顔に向かって「売らないぞ」と言えば、一瞬にしてその表情が歪んだ。
「魔法石はやる! だから鏡を売ってくれ!」
「断る。だいたい、まともな状態で解除できるか怪しいんだ。粉々になるかもしれない」
「粉々!? 五百年前の美術品を、粉々!? それはダメだ。歴史的価値があるものだぞ!」
「知るかよ。俺が依頼されたのは封印の解除。鏡の状態はどうなっても良いって了承済みだ」
「……なんてことだ」
絶望したジョリーは床に蹲った。よっぽど欲しいのだろう。
数十秒後だ。
だんっと勢いよくカウンターに箱が置かれた。
おいおい、大切な魔法石を保管している箱じゃないのか。
「分かった。協力はする。その代わり、現物は必ず状態維持に努めるんだ! そして、全て終わったら俺との交渉だ。他に売るなんてことはするなよ!」
「それで良いぜ」
「持つべきものは、幼馴染だな!」
「魔法石五つ、頼むぜ」
「任せろ!」
そもそも、鏡が手に入るのも解除に成功したらの話だが。
拳を握って打ち震えているジョリーを騙したわけじゃないが、これで上手いこと魔法石は確保できる算段がついた。
「は? 俺が欲しいのは魔法石だ」
「そんなもん、いくらでもくれてやる!」
「そりゃ助かるな」
「だが、リアナはやらないからな!」
「分かったって。何度も繰り返すなよ」
腕を組んでフンッと鼻を鳴らすジョリーを見て、内心、深々とため息をつく。こいつは、嫁さんをもらって娘を溺愛するデレデレな父親になったが、重度のシスコンでもある。全くもって、厄介だ。
未だジト目で俺を見るジョリーに、何度目か分からない「子どもに興味はない」を繰り返し訴えた。
このやり取りは、かれこれ十年近く、リアナが七歳の頃から続いている。いい加減、こっちは飽きてきたというのに、ジョリーは未だに妹を俺にとられると思っているらしい。
全くもって、迷惑な話だ。
「ジョリー、俺がしたいのは仕事の話だ」
「……何に使うんだ? せめて依頼品くらい見せろ」
ひとまず納得したのか、ジョリーは立ち上がるとカウンター後ろの壁に並ぶ棚へと足を向けた。
年季の入った棚の一番下には、頑丈な金庫がある。俺の師匠が作った封印付きのものだ。
ジョリーは腰に下げた鍵束から銀の鍵を一本抜くと、錠前に差し込んだ。そして左手をかざせば、組み込まれる数字盤が自然と右に左にと回りだした。
その様子を眺めながら、俺は口元を手で覆いながら考えていた。
出来ればジョリー達を巻き込みたくはない。
何せ、今回の依頼はメナード家の家督争いが絡んでいる。どうにか人死にが出ないよう、俺なりに手を尽くそうとは思っているが、下手をすれば騒動の真っただ中に放り込まれる。
詳細は明かさず材料だけ頼もうと思ったが、そう簡単にはいかなそうだ。
「依頼品は、うちの金庫の中だ」
「あの封印庫か。厳重だな」
「それなりの年代物だしな」
「年代物?」
金庫から箱を取り出したジョリーは勢いよく振り返った。その目はハートや星を飛ばす勢いで、キラキラと輝いている。
しまった。選ぶ言葉を誤った。せめて、貴族の依頼だくらいにしておくんだった。そう気づくも、時すでに遅し。
いい大人の男が、巷で流行りの恋愛小説に出てくるような、乙女の空気を醸し出さないで欲しい。花を咲かせるな。星を飛ばすな。おっさんがやっても可愛くもなんともないだろう。そう思いながら、俺は後悔のため息を深くついた。
現物を見せたら、泣いて欲しがりそうだ。いや、説明をするだけでも同じだろう。
「おおよそ五百年前の鏡だ。入ってる箱の封印は解かれているが、鏡自体の封印が解けずにいる。そこで必要なのが五つの魔法石だ」
「五百年!?」
「あぁ、それで代用品の石を入れて解除を試みようと思っている」
「封印を施した術者は絞り込めるのか? 刻まれた古代魔術言語の癖は!?」
「待て。落ち着け」
前のめりになって喰いついてきたジョリーは満面の笑みで、今にも涎を垂らしかねない顔つきだ。これは欲しいから買い取らせろ、と言っているも同然だろう。
ジョリーは解体屋であると同時に、骨董品や美術品の収集家だ。
五百年前の遺物と言えば、当時滅んだ魔法大国ネヴィルネーダの遺産を初め、多くの遺物があり得ない高値で取引されている。
特にネヴィルネーダの遺物は別格だ。
世界の中心でありながら、一人の魔女と暗君フレデリックによって滅びの道を歩んだ国。今では想像もつかないような魔術に魔法道具、さらに優秀な魔術師を多く抱えてたと言われる。その全てが封印されることになったのだが、今の技術を上回る魔術で生み出された封印物は芸術品でもある。封印が解かれたものでも相当の価値があるとも云われてる。
俺は美術品に興味はないから、入手した場合は全てジョリーに買い取ってもらっているのだが。
近づく顔に向かって「売らないぞ」と言えば、一瞬にしてその表情が歪んだ。
「魔法石はやる! だから鏡を売ってくれ!」
「断る。だいたい、まともな状態で解除できるか怪しいんだ。粉々になるかもしれない」
「粉々!? 五百年前の美術品を、粉々!? それはダメだ。歴史的価値があるものだぞ!」
「知るかよ。俺が依頼されたのは封印の解除。鏡の状態はどうなっても良いって了承済みだ」
「……なんてことだ」
絶望したジョリーは床に蹲った。よっぽど欲しいのだろう。
数十秒後だ。
だんっと勢いよくカウンターに箱が置かれた。
おいおい、大切な魔法石を保管している箱じゃないのか。
「分かった。協力はする。その代わり、現物は必ず状態維持に努めるんだ! そして、全て終わったら俺との交渉だ。他に売るなんてことはするなよ!」
「それで良いぜ」
「持つべきものは、幼馴染だな!」
「魔法石五つ、頼むぜ」
「任せろ!」
そもそも、鏡が手に入るのも解除に成功したらの話だが。
拳を握って打ち震えているジョリーを騙したわけじゃないが、これで上手いこと魔法石は確保できる算段がついた。
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