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第19話 絶体絶命!?
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この影を使った拘束魔法は術者の周囲に置くことで、防御壁となる。当然、拘束具として対象者に向けて放った直後はそこにスキが生じることになる。
二人の男はじわじわと距離を取り始めた。
どちらか一方を囮にして、もう一方が私を捕まえようって考えなのかもしれない。
正直な話、私は走るのが苦手だし逃げ切る自信がない。だから、その足を同時に止める!
「捕らえよ!」
魔法陣に両手をつき、高らかに号令を発すると、幾本もの黒い支柱が二人に向けて放たれた。
しかし、支柱は一本、二本と次々に剣で薙ぎ払われていく。魔法で作り出した支柱がだ。
砕かれた支柱は地面に落ちて、土の中へと消えていく。
魔力の塊であるあの支柱が、ただの剣で切れる訳がない。そのあり得ない光景に、私は唇を震わせた。
あれはただの剣じゃない。そういうことね。
「そんな、まさか──!」
振り返った男が地面を蹴ったと同時に、私は再び影の支柱を呼び出した。だが、それはすぐさま目の前で砕け散った。
男の持つ剣の切っ先が、私に向けられた。
「こんなこともあろうかと、うちの魔術師にちょっとばかり魔法を付加してもらっておいて正解だったな」
「俺らを、ただのならず者と思ってもらっちゃ困るな」
間近に迫った下卑た笑みは、商品を値踏みするようだった。
その顔があまりにも怖くて、気持ち悪くて、背筋が凍った。摑まれた手首から全身に悪寒が走り、手から落ちた杖は、地面の石に叩きつけられて、カランっと虚しい音を立てた。
「離して!」
「お嬢ちゃんには埋め合わせをしてもらう」
「この杖も高く売れそうだな。ちょっと古いが、なかなかいい石を埋め込んでるぜ」
「か、返して!」
男の手を振り払おうともがき、大切な杖を取り返そうとするも、力で敵う相手ではない。
「このクソガキ、大人しくしろ!」
もう一人の男の振り上げられた手が頬に叩きつけられ、目の前が一瞬、白くなった。
「女が嫌だって? だったら、男の奴隷たちが味わうような汚れた仕事をさせてやっても良いんだぜ」
「そりゃいい。鞭で叩かれ、蹴られ、泥にまみれてこいよ。女の仕事の方が良いって泣いて懇願するだろうな!」
ゲラゲラ笑う男達の目は本気だった。
このままでは奴隷商に売られる。そう思った瞬間、足が震え出した。
私の夢は叶わないの。何も、私は何一つも成していないのに。
笑う男達に、貴族の男子たちの顔が重なり、父の顔が重なった。そして、悲しそうに微笑む母の顔が。
「離して、離して! 嫌っ!」
「暴れんじゃねぇ!」
男の手を必死に振り解こうとしていた。その時だ。
再び振り上げられた手に、ドスンっと何かが突き刺さり、その真横を馬が走り抜けた。
「ひぃぎゃぁあああああっ!」
「お、おい、どうした!」
男は手に持っていた剣を落とし、振り上げていた片手を下ろすと、ぎょろりとした目でその掌を凝視した。私も釣られてそちらに視線を向けると、そこには、短剣が深々と突き刺さっていた。
二人の男はじわじわと距離を取り始めた。
どちらか一方を囮にして、もう一方が私を捕まえようって考えなのかもしれない。
正直な話、私は走るのが苦手だし逃げ切る自信がない。だから、その足を同時に止める!
「捕らえよ!」
魔法陣に両手をつき、高らかに号令を発すると、幾本もの黒い支柱が二人に向けて放たれた。
しかし、支柱は一本、二本と次々に剣で薙ぎ払われていく。魔法で作り出した支柱がだ。
砕かれた支柱は地面に落ちて、土の中へと消えていく。
魔力の塊であるあの支柱が、ただの剣で切れる訳がない。そのあり得ない光景に、私は唇を震わせた。
あれはただの剣じゃない。そういうことね。
「そんな、まさか──!」
振り返った男が地面を蹴ったと同時に、私は再び影の支柱を呼び出した。だが、それはすぐさま目の前で砕け散った。
男の持つ剣の切っ先が、私に向けられた。
「こんなこともあろうかと、うちの魔術師にちょっとばかり魔法を付加してもらっておいて正解だったな」
「俺らを、ただのならず者と思ってもらっちゃ困るな」
間近に迫った下卑た笑みは、商品を値踏みするようだった。
その顔があまりにも怖くて、気持ち悪くて、背筋が凍った。摑まれた手首から全身に悪寒が走り、手から落ちた杖は、地面の石に叩きつけられて、カランっと虚しい音を立てた。
「離して!」
「お嬢ちゃんには埋め合わせをしてもらう」
「この杖も高く売れそうだな。ちょっと古いが、なかなかいい石を埋め込んでるぜ」
「か、返して!」
男の手を振り払おうともがき、大切な杖を取り返そうとするも、力で敵う相手ではない。
「このクソガキ、大人しくしろ!」
もう一人の男の振り上げられた手が頬に叩きつけられ、目の前が一瞬、白くなった。
「女が嫌だって? だったら、男の奴隷たちが味わうような汚れた仕事をさせてやっても良いんだぜ」
「そりゃいい。鞭で叩かれ、蹴られ、泥にまみれてこいよ。女の仕事の方が良いって泣いて懇願するだろうな!」
ゲラゲラ笑う男達の目は本気だった。
このままでは奴隷商に売られる。そう思った瞬間、足が震え出した。
私の夢は叶わないの。何も、私は何一つも成していないのに。
笑う男達に、貴族の男子たちの顔が重なり、父の顔が重なった。そして、悲しそうに微笑む母の顔が。
「離して、離して! 嫌っ!」
「暴れんじゃねぇ!」
男の手を必死に振り解こうとしていた。その時だ。
再び振り上げられた手に、ドスンっと何かが突き刺さり、その真横を馬が走り抜けた。
「ひぃぎゃぁあああああっ!」
「お、おい、どうした!」
男は手に持っていた剣を落とし、振り上げていた片手を下ろすと、ぎょろりとした目でその掌を凝視した。私も釣られてそちらに視線を向けると、そこには、短剣が深々と突き刺さっていた。
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