17 / 23
第17話 作戦、開始よ!
しおりを挟む物心ついた頃から私はとても可愛がられていた。
伯爵家の次女として生まれ優しいお父様お母様に可愛がられ、周囲の使用人も温かく接してくれた。
5つ歳上のお姉様もとても優しく、いつも一緒に遊んでくれて幸せだった。
私にとって世界が優しいのは当たり前のことで、誰もにとってもそうだと思っていた。
その日までは。
『お姉様今日もお勉強?』
『ええ、ミリアレナ』
その日もお姉様の部屋に行くと教本を抱えたお姉様が授業の準備をしていた。
『遊んでくれないの?』
『ごめんなさい、今日はダメなの』
その日は後でねとは言ってくれなかった。
どうしてもお姉様と遊びたかった私はヤダとわがままを言った。メイドが別のことをして遊びましょうと促すのに駄々をこねて首を振る。
『イヤ、お姉様と一緒がいいの!』
困った顔を浮かべるお姉様にお願い!と言い募る。
『何の騒ぎだ』
外に声が聞こえたのか通りがかったお父様が入ってくる。
メイドが事情を説明するとお父様の表情が変わった。
『遊んでやればいいだろう。
妹の願いを無碍にするとはなんて冷たい奴だ』
『ですがお父様、今日の教師の方はわざわざ遠方から招いて時間を取っていただいているのです』
ですから今日は……、と続けるお姉様の言葉を遮り怒りの形相を浮かべる。
『だからなんだ!
また改めて呼べばいいだろう!
なぜ妹に優しくできない、自分の都合ばかり優先しようとして。
利己的なのもいい加減にしろ!』
大きな怒鳴り声でお姉様に迫るお父様。
そんな大きな声を聞いたことのなかった私は怖くなって後退る。
どうしてそんなに怒るのかわからず、潤んだ目で豹変したお父様を見つめた。
『お父様、怖い……』
そう訴えると一転して笑顔に変わる。
その変化が余計に恐ろしく感じる。けれど私を見つめる目はいつもと同じ優しいお父様のものだった。
『とにかくもう少し妹に優しくしてやりなさい』
『……承知しました』
悲しそうに眉を寄せ手を握りしめるお姉様。
私のせいだ。私がわがままを言ったから。
いいな、と念を押してお父様は部屋を出て行った。
静かになった部屋でどうしようと思っているとすっと息を吸う音が聞こえた。深呼吸をしたお姉様が微笑んで私を見つめる。
『何をして遊びたかったの、ミリアレナ?』
優しい声で聞いてくれるお姉様に胸がずきんと痛んだ。
『……やっぱりいい』
『ミリアレナ?』
お姉様と遊びたいけど、それをしちゃいけないんだと思った。
お姉様を困らせたくない。
『遊ばなくていい』
『ミリアレナ……』
困った顔で名前を呼ぶお姉様に別のお願いをしてみる。
『でも、お勉強が終わったら一緒にケーキ食べてくれる?』
これなら良いって言ってくれるかなと思いながらお姉様を窺う。
『いいわ、終わったら一緒にお茶にしましょう』
にっこりと微笑んでそう言ってくれた。
うれしくって満面の笑みを浮かべる。
『でも夕食の前だから小さいケーキね。
ミリアレナが好きな小さくて可愛いケーキよ』
ふふっと笑うお姉様につられてミリアレナも笑顔になる。
手のひらよりも小さいケーキは料理長の特製だ。
きゅっと絞ったクリームも乗せたフルーツも全部小さくてとっても可愛い。
お茶の時間ならいくつも食べていいけど今日は夕食前だからひとつだけ。
そう約束してお姉様の部屋から出た。
自分の部屋に戻って一人で遊ぶ。お姉様が怒ってなくて良かった。お勉強は大事、お姉様の部屋にあるたくさんの本を思い浮かべて頷く。
お人形やおもちゃでいっぱいの私の部屋と違ってお姉様の部屋には本やお勉強するための物がいっぱいある。
だからお姉様はお勉強が好き。
好きなことをしちゃダメって言われるのが嫌なのはミリアレナにもわかった。
それからはお勉強のときは邪魔しないように側で見てるか近づかないようにした。
お姉様に嫌われたくなかったし、お父様が怒るのも怖い。
一度お姉様が勉強している横で一緒に聞いていたらお父様にすごいと褒められた。
難しくてよくわからないところもいっぱいあったけど、褒められたのは嬉しい。
お姉様はもっとすごいのよと自慢したらお父様はミリアレナよりたくさん勉強しているんだから当たり前だって。本当にすごいのに。
私の頭を撫でて褒めてくれたお父様はお姉様の先生と少しだけ話をして出て行く。
お姉様の頭は撫でてくれてない。
出て行くお父様を見つめるお姉様を見てたら、なんだか苦しくて不安になる。
けれど私を向いたお姉様は笑顔に戻っていて、優しく頭を撫でてくれて。
二人で授業に戻ったときには不安はどこかに行っていた。
些細なこと、けれど確かな違和感は幾度も繰り返し不和を起こしていた。
それが見える形で問題になったのはお姉様の10歳の誕生日パーティでのことだった。
0
お気に入りに追加
122
あなたにおすすめの小説
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です

ある辺境伯の後悔
だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。
父親似だが目元が妻によく似た長女と
目元は自分譲りだが母親似の長男。
愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。
愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
婚約破棄すると言われたので、これ幸いとダッシュで逃げました。殿下、すみませんが追いかけてこないでください。
桜乃
恋愛
ハイネシック王国王太子、セルビオ・エドイン・ハイネシックが舞踏会で高らかに言い放つ。
「ミュリア・メリッジ、お前とは婚約を破棄する!」
「はい、喜んで!」
……えっ? 喜んじゃうの?
※約8000文字程度の短編です。6/17に完結いたします。
※1ページの文字数は少な目です。
☆番外編「出会って10秒でひっぱたかれた王太子のお話」
セルビオとミュリアの出会いの物語。
※10/1から連載し、10/7に完結します。
※1日おきの更新です。
※1ページの文字数は少な目です。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年12月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、番外編を追加投稿する際に、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる