監獄の華

七瀬駆

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1st part

文目町北倉庫から君への愛を

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彼は幼馴染みの彼女が眠りに就くのを待ってから、そっと涙を流した。そして、伝わらないとはわかっていたが、それに構うことなく嗄れた声で彼女に囁いた。
「僕、引っ越すことになったなったんだ。…もう、君と一生会えないっていうのは寂しいけど、どうしても行かなくちゃいけないんだ。」
一つ年上の彼女は彼にとって、ときに姉のような存在だった。だが、それ以上に――
「…好きだったよ。ずーっと大好きだった。」
温かな手が。柔らかな声が。優しい笑顔が。澄んだ瞳が。そして何より、儚い心が。
「…何で、僕じゃ駄目だったのかな。」
あいつと何が違ったのかな、とは言葉にはしなかった。
彼女はもう一人の幼馴染みと好きあっていた。知らないふりをしていたが、ずっとずっと小さなころから、彼はわかっていた。
「…なんてね。今のは冗談。冗談、だよ。」
聞いているはずはないのに、彼は何故か言い訳をしていた。まるで、自分に言い聞かせるようだった。
「…もう、行かなくちゃ。今まで、ありがとう。」
彼は名残惜しそうな表情を浮かべたが、やがて、腰掛けていたベッドからそっと立ち上がると、彼女が目覚めないように、足音一つ立てずに外へ出た。
本当は起こしたかった。最後でいい。だからその温かな手で触れて欲しい。柔らかな声で呼んで欲しい。優しい笑顔を向けて欲しい。澄んだ瞳で見詰めて欲しい。そして何より、儚い心を守らせて欲しい。
そう思っても、願うだけ無駄だ。僕には彼女を起こすことなんて、できる訳がないのだから。
彼は自嘲のような笑いをこぼし、意味深な言葉と共に倉庫を去った。
「もう、ここには戻らない。僕も君と同じように。」
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