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第六章 死を許さない呪い
260 帰国
しおりを挟む眩しい光に目が覚める。
瞼をこすりながら目を開けると、書類を手に話をしていたハヴェル殿と騎士たちが僕の気配に気が付いてこちらを向いた。にやかな笑顔で声がかけられる。
「お目覚めですね、サシャ殿下」
「ハヴェル殿……僕、いつの間に眠って……」
城の使用人たちが着替えや飲み物を運んでくる。
国王との謁見の後に気が緩んで、倒れてしまったんだ。恥ずかしい。顔を赤くしていると、ハヴェル殿がベッドに寄り添って声をかけて来た。
「お疲れだったのです。気を失うように眠っていました」
「そう……でしたか」
見れば不思議な形のベッドだ。床に分厚い絨毯を敷いて、その上に直接マットレスが置かれている。マットレスもとても厚いので、床の冷たさや硬さは全く感じない。
「これは、龍人のベッドですか?」
「ええ、寝心地は大丈夫でしたか?」
「はい。ふかふかで温かくて、ぐっすり寝てしまいました」
「それは良かった。龍人の寝床は獣人のものとよく似ているのです。今後、このようなベッドで夜を過ごすことも多くなるかもしれませんね」
笑いながら言う。
その言葉の意味に気が付いて、僕は更に顔が熱くなった。
「支度してきます!」
「慌てずともよろしいですよ。嵐は収まりましたが、今、飛竜たちに食事を与えているところです。国王陛下からも朝食のお誘いがありました。体調がいいようでしたらご一緒に」
「もちろんです。ありがとうございます!」
元気な声で返して、僕はバスルームに向かった。
アーシュの姉君も交えた国王陛下との朝食は、近年の国の様子や精霊たちの話など、今後の国を治めていくにあたって大切なことばかりだった。
王冠を継いだ後に、再びアークライト王国を訪ねてくるようにと見送ってくれた陛下に応えながら、僕らは龍人国を後にする。
バラーシュ王国の王都まで飛竜で真っ直ぐ帰れば半日の距離だ。けれど途中で幾つかの町に寄り、僕はそれぞれの領主との会談を申し出た。バルツァーレク家放免の助力を願うためだ。
どの町の領主たちも、かつて魔物から助けられたり、領地の整備に力を借りた人たちばかりだ。直接、魔物から命を助けられた人も少なくない。
皆、カエターンの凶行に戸惑っていたものの、アーシュやヤクプ殿の助けになるのならばと、快く書状を用意してくれた。それらを手に王都へと飛竜を飛ばす。
王城にたどり着いた時には、既に日は大きく西に傾いていた。
「サシャ殿下、書簡は俺と騎士らで運びます。殿下はアラン殿に挨拶を」
「うん! 顔を見せたらすぐに会議の部屋に向かうよ。皆を集めて置いて!」
ハヴェル殿に言って、真っすぐアランのいる僕の部屋に駆け戻る。
ザカリー殿や治癒師たちの言うことを聞いて、ちゃんと大人しくしているはずだ。熱はきっともう下がったと思うけれど、常人なら何日も寝込んでおかしくない状況だったのだから。
お帰りなさいと声をかける城の使用人や衛兵たちに応えながら、僕は部屋の扉を開けた。
「アラン!」
部屋のテーブルに何冊もの本を並べ、神官や教師たちと話をしていたらしいアランは、僕の姿を見て直ぐに椅子から立ち上がった。
寝間着ではない部屋着姿で顔色も悪くない。
駆け込んだ僕を、アランは腕を大きく広げて抱き止めた。
アランの温もり。匂い。腕の強さ。
ぎゅっ、と抱きしめられて僕も抱きしめ返す。
本当に、本当にもう、辛く悲しい出来事は終わったんだ。
「ただいま、アラン! もう良くなったんだね」
「本当はもう剣を持って暴れたいところだが、ちゃんといい子にしてたぜ」
溢れるほどの笑顔で答える。尻尾がふさふさと左右に揺れている。
僕の頬を優しくなで、アランは瞳を細めた。
「その様子だと上手くいったみたいだな」
「うん。どちらの王様もアーシュの姉君たちに変わらず接して下さるって。罪を犯した家族だからと言って、処罰はしないって。帰り道で寄った町の領主たちも、放免を願う書状を用意してくれたんだ」
「そうか。頑張ったな」
言って、ちゅっと僕の額にキスをする。
「ここからが、最後の戦いだな」
「うん。処罰を進める貴族たちを説得しないと。アランは?」
「ああ……王家や貴族のお勉強をしていた」
テーブルにいる神官や教師が、微笑みながら軽く頭を下げる。
アランもこれからのことを考えて、できることをやっていてくれたんだ。
「アラン待っていて、アーシュとヤクプ殿を牢から出して、戻って来るから」
「ああ、行ってこい。そして今夜はゆっくり休もう」
「うんっ!」
元気に答えて僕は部屋を飛び出していく。
駆けつけた会議の部屋には、貴族たちが既に揃っていた。そして、大きな長テーブルの上には、山のように積み重なった書簡がある。
驚きを隠せない僕に、宮中伯のホレス殿が出迎えの挨拶と共に、説明をしてくれた。
「国中から放免を願う書状が届いているのです。これほどの数となれば、無視はできませんな」
言いながら貴族たちに顔を向ける。その時、国王陛下が入室してきた。
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