冒険者に拾われ聖騎士に求められた僕が、本当の願いに気づくまで。

鳴海カイリ

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第六章 死を許さない呪い

239 アーシュ・西の砦へ

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 馬を駆ること一時間。王都を出た西の広大な森にたどり着いた。
 実り豊かな森ではあるが、同時に魔物の出没も多い場所だ。数百年前にスラヴェナが魔物避けの地下神殿を築いたことで出没の頻度は下がり、王都も栄えることになったが、完全に魔物の出現を止めることはできない.。
 王国騎士団や、私を団長とした私設討伐騎士団の、定期的な監視と討伐が必要な場所だ。

 だからこそ、地元も人も護衛なしでは滅多に足を踏み入れない。
 国王陛下に爪を向け追われる身となったアラン殿が逃げ込むには、絶好の場所でもあるのだけれど……。

「ザハリアーシュ様、やはりここで一揉めあったようですな」

 ルボル殿が森の中に残されたわずかな痕跡を見つけ出し、私に声をかけた。他の騎士たちも同様の痕を見つけ出す。

「相手は十人ほど。普段のアラン殿であれば相手にもならない数でしょう」
「ですが……魔法の呪縛で動きを制限されていたなら難しい。更に対獣人の、捕縛魔法を使ったあともあります」

 私は厳しい顔で頷く。
 森の樹々には、抵抗らしい抵抗も無く捕らえられたであろう様子がうかがえる。
 しかも踏み千切られた地面の草花や折れた枝から推測するに、ちょうど一日ほど前。王城から逃げ出し真っすぐこの森に辿りつき、そのまま捕らえられたようだ。

 偶然遭遇した狩人や剣士、冒険者がそのような準備をしているとは考えにくい。事前に獣人を捕縛するための魔石を用意し、罠を張って待ち構えていたと考えるほうが妥当だ。
 アラン殿の凶事は事前に予測されていたか、誰かが情報を流したということか。

「ザハリアーシュ様」

 ルボル殿の呼び声に、私は顔を上げた。
 森の向こうから馬で駆けつけて来た者がいる。冒険者だ。以前に見た顔だと思うと同時に、たどり着いた数名の冒険者は自ら名乗りを上げた。

「馬上から失礼いたします。俺はベルナルトランクの冒険者、弓使いのカレル・レイセクと申します」

 続く冒険者たちも名乗りを上げる。
 私は、カレルと名乗った青年に顔を向けた。

「確か、サシャ殿下の成人の祝いの場へ、アラン殿と共に参上した方ですね」
「覚えていてくださいましたか! アランさんと一緒に、修行をしていた者です」

 パッと見、私より二、三歳程年上のようだが、明るい純朴な雰囲気は、サシャとも似た気配を持っている。
 カレル殿は私が記憶していたことに喜んだのもつかの間、表情を引き締めて続けた。

「俺は師匠やアランさんに頼まれ、この国で暗躍している奴隷商の動きを調べていました」
「奴隷商?」
「ズビシェクと呼ばれる男が頭の、裏で盗賊をやっている奴らです。ここ数年、再び動きが活発化したとの情報があり、動向を探っていました」

 ズビシェク……どこかで聞いた名だ。
 そう思う私の横で、ルボル殿が続けた。

「かつてアランを捕らえていた奴隷商です」
「では……」

 その男が、アラン殿に国王陛下殺害の呪縛を植え付けた。
 私の表情を見て、カレル殿が告げる。

「昨夜、この森で何者かが獣人捕縛の魔法を使った形跡がありました。調べを続けている内に、十数名の盗賊らしき者たちが、荷馬車と並走しながらさらに西に向かったと情報を入手しました」
「そいつらは、西の領に向かったとの話です」
「西の領……」

 続く冒険者の言葉に、私は呟いた。
 側に控える騎士たちも、心当たりがあるのか頷いて見せる。

「西に百ルイほど行った辺りに、数年前に捨てられた古い砦があります」
「ガダル砦ですな」

 ルボル殿も頷いた。
 数年前、凶悪な魔物の出現により破壊され、廃棄された古い砦だ。魔物は討伐できたが、砦の再建には多くの経費と年月がかかるとして、今も尚、使われていない。
 もちろんそのような危険な場所に、地元の人たちは近づかないようにしている。
 定期的に魔物が湧いていないか調査はしているだろうが、普段は誰も寄り付かない砦となっているはずだ。

「あそこは、兄上が懇意にしている貴族が治めていたはず……」

 ぐっ、と私は唇を噛んだ。
 まだ何の証拠もない。だが……今ここにきて、兄上の言動には、疑うに十分なものが出始めていた。

「良からぬ者たちが隠れるには絶好の場所です。行きましょう、おそらく、獣人捕縛の魔法を使った者たちは、その砦を利用している」

 すぐさま私たちは馬を駆り、西へと向かい始めた。
 途中の町で馬を替え、夜通し走り続ければ夜明け近くにはたどり着く。
 誰もがはやる気持ちを抑えながら深夜に西の領に入り、更に馬を替えて駆り続けること数時間。うっすらと東の空が明るくなり始めた頃、遠くにガダル砦が見え始めた。

 共に走り通していた冒険者の一人が声を上げる。

「何か、騒ぎが起きている!」

 魔物の襲来か!?
 そう思いもしたが違う。胸が騒ぐ。
 見えず、声を聞くことも無いが、側に精霊たちが居るのならきっとこう叫んでいるはずだ。「急げ、一刻も早く駆けつけろ!」と。

「行くぞ!」

 砦が間近に見え始めると同時に、カレルが馬上で弓を構え始めた。遠く、一人の獣人が十数名の者たちに囲まれ戦っている姿があった。
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