167 / 281
第四章 二人の道
167 アラン・始末をつける
しおりを挟む奴らが顔を青くして硬直しているのは、俺の殺気を感じ取ってのことだろう。
ミランとモイミールはすでに冒険者ギルドから抜けて、それぞれ別のことをやり始めていると聞いているが、元冒険者には変わりない。自分に襲いかかろうとするモノに対峙した時の本能から、一歩、二歩と後ずさった。
「ア、アランさん……お久しぶり、です」
「ああ……本当に久しぶりだ」
軽く首を鳴らしながら、俺は一歩また一歩と近づいていく。
世間話をするためにこいつらを探したわけじゃない。
「てめぇら、この俺をダシにしてずいぶん好き勝手やってくれていたな」
「え……あ、あれはその……」
「今更説明はいらねぇだろ?」
じりじりと間を詰めていく。
奴らは逃げ出すことも、もちろん俺に向かって行くこともできず顔を引きつらせている。
「何が俺のためだ?」
「それは……」
「その、サシャはいつも迷惑をかけてアランさんを……」
「俺がいつ、迷惑かけられているって言った?」
唇の端を歪ませ、俺は嗤う。
「あ、えぇっと、それは……」
「言えよ。いつ、俺が、迷惑かけられているって言った?」
薄暗い路地の奥。
通り過ぎる者は居ない。いや居たとしても俺の気配を恐れて、誰もが逃げ出すだろう。俺は殺気を隠しもせずに、三人との間を詰めていく。
「言えよ。その口は飾りか? 俺がいつサシャに迷惑かけられているって、言ったんだ?」
「ひっ!」
小心者のミランが首をすくめ、サシャと同じ生薬ギルドに移っていたモイミールは目に涙をため始める。三人のリーダー格だったべドジフすら、腰が抜けている。
こんな小者に、サシャは苦しめられていたっていうのか。
「根も葉もない噂や他人の憶測にのって、単に自分の憂さ晴らしをしていただけだろう? 違うのか?」
「それは……」
「違うなら違うと言ってみろよ。それともサシャを殺したいほど恨むようなことでもあったか?」
一番手前に居たモイミールに腕を伸ばし、首を掴みあげる。
モイミールは悲鳴も上げられるずにもがくが俺の、腕を振り払うことすらできない。ほんの少し力をこめれば、簡単に首の骨が折れるだろう。
それと息が止まるのが先だろうか。
「貴様らのやったことはサシャを殺しかねなかった……分かっているだろ?」
皆、俺が報復することを恐れてか、何があったか口を閉ざしていた。
けれどBランクになった冒険者が本気で情報収集をしようと思えば、調べられないことなどない。
サシャは川にあの魔石を落とした理由を言わずにいたが、真実はこいつらがサシャを取り押さえて、奪い取って捨てたのだと……。
それを知った時、長く俺の中に眠っていた兇悪な感情が目を覚ます感覚を覚えた。
冒険者が仲間を殺せば、冒険者としての資格を失う。
だがそんなもの、いくらでも誤魔化すやりかたがあるんだ。
「がはっ、あっ!」
「アランさん!!」
「言えよ。本音はただの弱い者いじめで、気晴らししていたんだろ?」
「ちがっ!」
「何が違うんだ。俺は一度でもあいつが邪魔だと言ったか?」
首に力をこめていく。息も血流も止まって、モイミールは失神寸前だ。
「いつ、俺が、サシャを、邪魔だと言ったんだ?」
「いっ、言ってないです!」
ミランが悲鳴を上げるように答えた。
「あ、アランさんからは、聞いていないです!」
「ほぅ……だったらてめぇらが勝手にそう決めつけて、大人しいあいつをイジメて遊んでいた、ってことだな?」
モイミールを路地に投げ捨てる。
涙とよだれと鼻水を流しながら、モイミールは地べたに這いつくばった。ぎりぎりまで首を絞めつけられ呼吸するだけで精一杯なのだろう、声がかすれている。
そんな様子をちらりと眺めてから、俺はミランの利き腕を捕まえた。
こいつは確か、武器職人見習いとしてギルドを移っていたはずだ。利き手を失えばどうなるかな?
「ひゃぁああ! あぁっ! あ!」
「大人しい者をイジメるのは楽しかったか?」
楽しいだろう。自分が強くなった気がする。
メキメキを音を上げるほど締め付けてられていく腕に、ミランはガタガタ震えながら抵抗するが俺の腕を振り払うことなどできない。
こいつら程度の骨など、俺の片手でへし折れる。
「どうなんだよ。楽しかったんだろ?」
「アランさん!」
まだ呼吸がまともに戻らないモイミールを抱き起しながら、べドジフが声を上げた。
「何も抵抗できず、ただ一方的に責められる。その気持ちは知らなかったか?」
ミシ……と嫌な音の感覚を手のひらに感じて、俺はミランも路地に投げ捨てた。
紫色になった自分の腕を前にして、ミランは泣きながらうずくまっている。俺は最後にべドジフの足を踏みつけた。
「あっ! あ……アランさん!」
「冒険者のお前が足を失ったなら、どうするだろうな?」
「ひっ……」
剣を抜くまでもない。
ミランの腕よりは太い骨だが、それでもこの程度ならへし折るのも簡単だ。足を失うこと。それはもう二度と、冒険者として働くことはできないということだ。
「あぁぁあ! い、いだだだだだぁあ! あああっ!」
「お前に冒険者を名乗る資格はねぇ」
メキメキと音を立てる。
その音を足の裏に感じながら、俺は囁くように言う。
「むしろてめぇは魔物の餌にちょうどいい。細かく切り刻んで、森の奥に手もばらまいておくか」
「ゆ、許して、許してください!」
「そいつはサシャがまだ、この町で暮らしていた時にするべぎだったな」
そうだ。俺は最後の最後まで、こいつらの良心に期待していた。
それをこの三人は、見事に裏切ってくれたわけだ。
3
お気に入りに追加
360
あなたにおすすめの小説
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
【書籍化確定、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!
棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。
完結·助けた犬は騎士団長でした
禅
BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。
ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。
しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。
強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ……
※完結まで毎日投稿します
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~
椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」
私を脅して、別れを決断させた彼の両親。
彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。
私とは住む世界が違った……
別れを命じられ、私の恋が終わった。
叶わない身分差の恋だったはずが――
※R-15くらいなので※マークはありません。
※視点切り替えあり。
※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。
獣人の子供が現代社会人の俺の部屋に迷い込んできました。
えっしゃー(エミリオ猫)
BL
突然、ひとり暮らしの俺(会社員)の部屋に、獣人の子供が現れた!
どっから来た?!異世界転移?!仕方ないので面倒を見る、連休中の俺。
そしたら、なぜか俺の事をママだとっ?!
いやいや女じゃないから!え?女って何って、お前、男しか居ない世界の子供なの?!
会社員男性と、異世界獣人のお話。
※6話で完結します。さくっと読めます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる