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第四章 二人の道

167 アラン・始末をつける

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 奴らが顔を青くして硬直しているのは、俺の殺気を感じ取ってのことだろう。
 ミランとモイミールはすでに冒険者ギルドから抜けて、それぞれ別のことをやり始めていると聞いているが、元冒険者には変わりない。自分に襲いかかろうとするモノに対峙した時の本能から、一歩、二歩と後ずさった。

「ア、アランさん……お久しぶり、です」
「ああ……本当に久しぶりだ」

 軽く首を鳴らしながら、俺は一歩また一歩と近づいていく。
 世間話をするためにこいつらを探したわけじゃない。

「てめぇら、この俺をダシにしてずいぶん好き勝手やってくれていたな」
「え……あ、あれはその……」
「今更説明はいらねぇだろ?」

 じりじりと間を詰めていく。
 奴らは逃げ出すことも、もちろん俺に向かって行くこともできず顔を引きつらせている。

「何がだ?」
「それは……」
「その、サシャはいつも迷惑をかけてアランさんを……」
「俺がいつ、迷惑かけられているって言った?」

 唇の端を歪ませ、俺はわらう。

「あ、えぇっと、それは……」
「言えよ。いつ、俺が、迷惑かけられているって言った?」

 薄暗い路地の奥。
 通り過ぎる者は居ない。いや居たとしても俺の気配を恐れて、誰もが逃げ出すだろう。俺は殺気を隠しもせずに、三人との間を詰めていく。

「言えよ。その口は飾りか? 俺がいつサシャに迷惑かけられているって、言ったんだ?」
「ひっ!」

 小心者のミランが首をすくめ、サシャと同じ生薬ギルドに移っていたモイミールは目に涙をため始める。三人のリーダー格だったべドジフすら、腰が抜けている。
 こんな小者に、サシャは苦しめられていたっていうのか。

「根も葉もない噂や他人の憶測にのって、単に自分の憂さ晴らしをしていただけだろう? 違うのか?」
「それは……」
「違うなら違うと言ってみろよ。それともサシャを殺したいほど恨むようなことでもあったか?」

 一番手前に居たモイミールに腕を伸ばし、首を掴みあげる。
 モイミールは悲鳴も上げられるずにもがくが俺の、腕を振り払うことすらできない。ほんの少し力をこめれば、簡単に首の骨が折れるだろう。
 それと息が止まるのが先だろうか。

「貴様らのやったことはサシャを殺しかねなかった……分かっているだろ?」

 皆、俺が報復することを恐れてか、何があったか口を閉ざしていた。
 けれどベルナルトランクになった冒険者が本気で情報収集をしようと思えば、調べられないことなどない。
 サシャは川にあの魔石を落とした理由を言わずにいたが、真実はこいつらがサシャを取り押さえて、奪い取って捨てたのだと……。

 それを知った時、長く俺の中に眠っていた兇悪な感情が目を覚ます感覚を覚えた。

 冒険者が仲間を殺せば、冒険者としての資格を失う。
 だがそんなもの、いくらでも誤魔化すやりかたがあるんだ。

「がはっ、あっ!」
「アランさん!!」
「言えよ。本音はただの弱い者いじめで、気晴らししていたんだろ?」
「ちがっ!」
「何が違うんだ。俺は一度でもあいつが邪魔だと言ったか?」

 首に力をこめていく。息も血流も止まって、モイミールは失神寸前だ。

「いつ、、サシャを、邪魔だと言ったんだ?」
「いっ、言ってないです!」

 ミランが悲鳴を上げるように答えた。

「あ、アランさんからは、聞いていないです!」
「ほぅ……だったらてめぇらが勝手にそう決めつけて、大人しいあいつをイジメて遊んでいた、ってことだな?」

 モイミールを路地に投げ捨てる。
 涙とよだれと鼻水を流しながら、モイミールは地べたに這いつくばった。ぎりぎりまで首を絞めつけられ呼吸するだけで精一杯なのだろう、声がかすれている。
 そんな様子をちらりと眺めてから、俺はミランの利き腕を捕まえた。
 こいつは確か、武器職人見習いとしてギルドを移っていたはずだ。利き手を失えばどうなるかな?

「ひゃぁああ! あぁっ! あ!」
「大人しい者をイジメるのは楽しかったか?」

 楽しいだろう。自分が強くなった気がする。
 メキメキを音を上げるほど締め付けてられていく腕に、ミランはガタガタ震えながら抵抗するが俺の腕を振り払うことなどできない。
 こいつら程度の骨など、俺の片手でへし折れる。

「どうなんだよ。楽しかったんだろ?」
「アランさん!」

 まだ呼吸がまともに戻らないモイミールを抱き起しながら、べドジフが声を上げた。

「何も抵抗できず、ただ一方的に責められる。その気持ちは知らなかったか?」

 ミシ……と嫌な音の感覚を手のひらに感じて、俺はミランも路地に投げ捨てた。
 紫色になった自分の腕を前にして、ミランは泣きながらうずくまっている。俺は最後にべドジフの足を踏みつけた。

「あっ! あ……アランさん!」
「冒険者のお前が足を失ったなら、どうするだろうな?」
「ひっ……」

 剣を抜くまでもない。
 ミランの腕よりは太い骨だが、それでもこの程度ならへし折るのも簡単だ。足を失うこと。それはもう二度と、冒険者として働くことはできないということだ。

「あぁぁあ! い、いだだだだだぁあ! あああっ!」
「お前に冒険者を名乗る資格はねぇ」

 メキメキと音を立てる。
 その音を足の裏に感じながら、俺は囁くように言う。

「むしろてめぇは魔物の餌にちょうどいい。細かく切り刻んで、森の奥に手もばらまいておくか」
「ゆ、許して、許してください!」
「そいつはサシャがまだ、この町で暮らしていた時にするべぎだったな」

 そうだ。俺は最後の最後まで、こいつらの良心に期待していた。
 それをこの三人は、見事に裏切ってくれたわけだ。
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