冒険者に拾われ聖騎士に求められた僕が、本当の願いに気づくまで。

鳴海カイリ

文字の大きさ
上 下
164 / 281
第四章 二人の道

164 アラン・生きる目的を思い出せ

しおりを挟む
 


 本能的に凄まじい能力を持った相手だと察知した。
 今の俺では互角……いや、間違いなく競り負けるだろう格上の相手。そう直感しながら、ゆっくりと近づいて来る相手に殺気や敵意が無いことも察した。

 同業者か?
 いぶかしんでいる俺に、闇の中から姿を現した相手が、苦笑しながら言い放った。

「血にまみれて魔物をほふり続け、自慢の鼻がバカになったか?」
「その声……ルボル爺さんか!?」
「頭の方まではイカレていなかったようじゃの」
「アランさん、やっと見つけましたよ」

 爺さんに続いて現れたのは、俺と同じギルドに出入りしていた冒険者、弓使いのカレル・レイセクだ。
 一ヶ月ほど前。サシャの薬草採取の護衛についた後、帰らないあいつを連れ回していると勘違いして絞めたことがあった。
 恰好の悪いところを見られてバツの悪い想いをしたというのに、また間の悪い。
 大きな袋を背負うカレルは、魔法石で簡易松明たいまつに火を点し、俺の姿を目にして改めて息を飲んだ。

「アランさん、ボロボロじゃないですか!」
「大怪我はないようじゃな」

 カレルの一歩前で笑うルボル爺さんに、俺は舌打ちしたい気持ちで視線を反らした。

「腕試しや討伐依頼ではなかろう? サシャを手放してやけっぱちにでもなったか?」
「なっ!?」
「大方、生きる目的も見失ったという所じゃろう。ほれ、先ず水でも飲め」

 そう言って、水の入った革袋を放ってよこす。
 とたんに喉の渇きを覚えて、俺は受け取った水の口に含んだ。慌てて飲めば、また吐いてしまう。その間にカレルは周囲を簡単に調べてから、陣を敷く準備を進めていた。
 どうやらたまたま遭遇して、そのまま通り過ぎる、というわけではないらしい。

「サシャと王城で別れてより十日あまり、ずっと飲まず食わずで迷宮の魔物と戦い続けていたのか?」
「別に……飲まず食わずだった、ってわけじゃねぇよ」
「だが、食い物も飲み物も底をついたというのに補給もせず籠っているのは、冒険者の基本としてあるまじき行為じゃな」
「獣人の俺にとって、この程度なら補給はいらねぇ」
「アランさん! すごいですねこの魔石、三年は遊んで暮らせますよ!」

 魔物を倒し、石となった欠片を拾い集めていたカレルは、手にした石を俺の前に出して見せた。その無邪気さが、サシャの面影と重なり俺は顔をしかめる。

「迷宮で魔物を片っ端から殺しまくっている冒険者がいると聞いて来てみたら、アランさんでびっくりしましたよ」
「俺の居場所を探してきたのか?」
「まぁ、そうではありますが。落ちていた魔石の後を辿ってきたら居た、という感じです。アランさん、倒した魔物の石を拾わないで行くなんてもったいないですよ!」
「魔石を放置したならば、新たな魔物や魔獣の餌になるからの。冒険者ならばちゃんと拾い集めて置くものじゃ」

 二人に交互に小言を言われ、俺は顔を反らす。
 冒険者としての基本を忘れていたわけじゃないが、そんなものなどどうでもいいと感じていたのも事実だ。
 とにかく、ただ暴れたくして仕方がなかった。
 その衝動を抑えるためだというのは、目の前のアーモスランクの冒険者にはお見通しだろう。

「あれほど人に対する執着など持っていなかったというのに。やはりお主も獣人、ということじゃな」

 手早く野営の準備を整えたカレルが、松明の火を利用して温かな飲み物を用意し、携帯食を取り出す。手慣れた手つきは、冒険者としてしっかり技術を身に着けている証しだ。
 そう言えば、この春ツィリルランクを手にしたと聞いた記憶がある。
 カレルから飲み物と食べ物を受け取ったルボル爺さんは、やれやれという声で呟いた。

「サシャの存在は大きかろう……」
「最初から手放す予定だった子だ。あいつを守り育てる役目は終わった」
「そして、、という事実に気づいたというところじゃろう。お主、このまま迷宮で朽ち果てるつもりかの?」

 いつも以上に直接的な言葉で切り込んで来る。
 ルボル爺さんとカレルは、俺が冒険者を始めた頃から知っている間柄だ。遠慮など必要ない。

 俺は視線をそらしたまま、数日ぶりの炎を見つめた。
 あいつを――サシャをもう二度と、この腕に抱くことはできない。その事実を前に、いっそ迷宮の魔物にでも喰われてしまえばいい……という気持ちが、なかったと言えば嘘になる。
 残念ながら、俺の生存本能が強すぎて未だ喰われてはいないが……。

 生きる目的が無い。

 ただ生き続けることだけが目的だった俺に、サシャという存在が現れ、あいつが生きる目的になってしまっていた。だからもう……生き続ける意味を見いだせなくなっている。

 かといって死ぬこともできない。

 ルボル爺さんが笑う。

「サシャはまだ生きておるのだぞ」
「あいつは、遠い所に行った」
「ならば追いかければよかろう」

 爺さんが鋭い視線で俺を見つめる。

アーモスランクとなれば王城での出入りが許される。お主、自分はこの国の五人目にはなれぬと、見ておるのかの?」
しおりを挟む
感想 43

あなたにおすすめの小説

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。

急に運命の番と言われても。夜会で永遠の愛を誓われ駆け落ちし、数年後ぽい捨てされた母を持つ平民娘は、氷の騎士の甘い求婚を冷たく拒む。

石河 翠
恋愛
ルビーの花屋に、隣国の氷の騎士ディランが現れた。 雪豹の獣人である彼は番の匂いを追いかけていたらしい。ところが花屋に着いたとたんに、手がかりを失ってしまったというのだ。 一時的に鼻が詰まった人間並みの嗅覚になったディランだが、番が見つかるまでは帰らないと言い張る始末。ルビーは彼の世話をする羽目に。 ルビーと喧嘩をしつつ、人間についての理解を深めていくディラン。 その後嗅覚を取り戻したディランは番の正体に歓喜し、公衆の面前で結婚を申し込むが冷たく拒まれる。ルビーが求婚を断ったのには理由があって……。 愛されることが怖い臆病なヒロインと、彼女のためならすべてを捨てる一途でだだ甘なヒーローの恋物語。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(ID25481643)をお借りしています。

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

恋人が出て行った

すずかけあおい
BL
同棲している恋人が書き置きを残して出て行った?話です。 ハッピーエンドです。 〔攻め〕素史(もとし)25歳 〔受け〕千温(ちはる)24歳

僕だけの番

五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。 その中の獣人族にだけ存在する番。 でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。 僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。 それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。 出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。 そのうえ、彼には恋人もいて……。 後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。

成長率マシマシスキルを選んだら無職判定されて追放されました。~スキルマニアに助けられましたが染まらないようにしたいと思います~

m-kawa
ファンタジー
第5回集英社Web小説大賞、奨励賞受賞。書籍化します。 書籍化に伴い、この作品はアルファポリスから削除予定となりますので、あしからずご承知おきください。 【第七部開始】 召喚魔法陣から逃げようとした主人公は、逃げ遅れたせいで召喚に遅刻してしまう。だが他のクラスメイトと違って任意のスキルを選べるようになっていた。しかし選んだ成長率マシマシスキルは自分の得意なものが現れないスキルだったのか、召喚先の国で無職判定をされて追い出されてしまう。 一方で微妙な職業が出てしまい、肩身の狭い思いをしていたヒロインも追い出される主人公の後を追って飛び出してしまった。 だがしかし、追い出された先は平民が住まう街などではなく、危険な魔物が住まう森の中だった! 突如始まったサバイバルに、成長率マシマシスキルは果たして役に立つのか! 魔物に襲われた主人公の運命やいかに! ※小説家になろう様とカクヨム様にも投稿しています。 ※カクヨムにて先行公開中

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...