152 / 281
第四章 二人の道
152 愛し子の奇跡
しおりを挟む身支度を整えたオレクサンドル国王陛下を中心に、スラヴェナ神殿へと向かう。
陛下は杖をついていらしたけれど足取りはしっかりしていて、ずっと病に伏せっていたお方のように見えない。
先導はホレス・アストリー宮中伯。更に従者や騎士が行き、陛下の後ろに僕が続く。陛下の側近はもちろん、僕の側にはザハリアーシュ様とご友人まハヴェル様がついて下さっている。
王城の入り口で足止めをした宰相、クサヴェル・クバーン侯爵も駆けつけて来て、歩きながら経緯を聞いたのか、国王陛下に言葉をかけてきた。
聞こえて来たものは「このような者を神殿に連れて行く必要はない」とか「陛下自ら足を運ばなくてもいい」とか……。とにかくこの行列の足わ止めようとしているように見えなくもない。
でも、陛下も僕も立ち止まらなかった。
精霊たちが早く早くと急かしていたからだ。
五大英霊。
我がバラーシュ王国と近隣諸国は、数百年前に出現した凶悪な巨大魔物を倒した五人の英雄を、守護英霊として祭っている。
あらゆる武具の取り扱いに精通し作り上げることができた、ドワーフ族の老戦士ダリボル。計略に富んだ人間族の策士であり騎士、ツィリル。ツィリルはバラーシュ王国の王家の始祖とも言われている。
俊敏さと鋭敏な嗅覚、そして決してあきらめない鋼の精神の持ち主と言われたのは、獣人族の狂戦士ベルナルト。鋼の肉体を持ち、強靭さでは右に出るものは居なかった、龍族の重戦士、アーモス
そして……数多の精霊たちに愛されたエルフ族の姫。大いなる魔法の使い手だったと言われているのが、スラヴェナだ。
英霊スラヴェナは種族を問わず、信仰されている
銀の髪と濃い紫の瞳。スラヴェナの美しさはあらゆる花に譬えられている。彼女の行く先には季節を問わず美しい花が咲き乱れ、精霊たちが祝福したのだという。
多くは自分と同じ種族の英霊を祭る中で、精霊の愛し子スラヴェナだけは、種族を問わずに信仰されている。
そのようなこともあって、この王城の敷地内といっていいほどの近くに、スラヴェナ聖教の神殿があった。
そこは……王城に勝るとも劣らない、美しい建物だった。
周囲には色とりどりの花に溢れた庭園で、先を競うように咲き誇っている。美しく伸びた木の枝と、飛び変う蝶や鳥たち。降り注ぐ光は花々を輝かせて、そこは夢のように美しい所だった。
僕は思わず足を止め、「すごい……」と呟く。
同時に草花の精霊たちが、やっとき来た。サシャが来た、と笑いかけて来た。
「サシャ殿……」
そっとザハリアーシュ様に声をかけられて、僕は数歩先に進んだ国王陛下に続く。
陛下は僕を見て、優しく微笑んでいらした。
「精霊たちが祝福の言葉をかけてきているな」
「え? あ、はい……やっときた、って」
「皆、そなたを待っていたのだ」
陛下の言葉に合わせて柔らかな風が流れた。
ど同時に、花びらが舞い降りそそぐ。見れば春先に終わったはずの花が再び咲いて、まだ早い真夏や秋の花まで、花開き始めていた。
色鮮やかな蝶たちが僕らの周りを舞い。
鳥たちが歌う。
あらゆる季節の花が咲く、そんな様子に取り囲んでいた従者や騎士、そして貴族たちが声を上げた。
「奇跡だ……」
「……国を継ぐ者が現れた、しるしだ」
国を継ぐ者? 僕は首を傾げる。
と同時にずっと昔に国から出されたお触れを思い出した。
次代の王は「精霊の加護を受けた者である」といわれていた。その者は、「印として誰にでもそうと分かる奇跡を起こす」と。
「まさか……」
夢のように現実感が無いというのに。
進む神殿の奥、光り輝く拝殿には大神官長を始めとした、多くの人たちが集まり僕らを出迎えた。陛下よりも老齢の白髪をたたえた頭を下げ、国王陛下の指先に口づけをして敬う大神官長は、僕の方を見て優しく微笑む。
「お待ち申し上げておりました。精霊の愛し子。我がバラーシュ王国の未来を担うお方、王太子殿下よ」
その言葉に、僕は声を失った。
3
お気に入りに追加
361
あなたにおすすめの小説


番から逃げる事にしました
みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。
前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。
彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。
❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。
❋独自設定有りです。
❋他視点の話もあります。
❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。
急に運命の番と言われても。夜会で永遠の愛を誓われ駆け落ちし、数年後ぽい捨てされた母を持つ平民娘は、氷の騎士の甘い求婚を冷たく拒む。
石河 翠
恋愛
ルビーの花屋に、隣国の氷の騎士ディランが現れた。
雪豹の獣人である彼は番の匂いを追いかけていたらしい。ところが花屋に着いたとたんに、手がかりを失ってしまったというのだ。
一時的に鼻が詰まった人間並みの嗅覚になったディランだが、番が見つかるまでは帰らないと言い張る始末。ルビーは彼の世話をする羽目に。
ルビーと喧嘩をしつつ、人間についての理解を深めていくディラン。
その後嗅覚を取り戻したディランは番の正体に歓喜し、公衆の面前で結婚を申し込むが冷たく拒まれる。ルビーが求婚を断ったのには理由があって……。
愛されることが怖い臆病なヒロインと、彼女のためならすべてを捨てる一途でだだ甘なヒーローの恋物語。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
扉絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(ID25481643)をお借りしています。

僕だけの番
五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。
その中の獣人族にだけ存在する番。
でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。
僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。
それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。
出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。
そのうえ、彼には恋人もいて……。
後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。

成長率マシマシスキルを選んだら無職判定されて追放されました。~スキルマニアに助けられましたが染まらないようにしたいと思います~
m-kawa
ファンタジー
第5回集英社Web小説大賞、奨励賞受賞。書籍化します。
書籍化に伴い、この作品はアルファポリスから削除予定となりますので、あしからずご承知おきください。
【第七部開始】
召喚魔法陣から逃げようとした主人公は、逃げ遅れたせいで召喚に遅刻してしまう。だが他のクラスメイトと違って任意のスキルを選べるようになっていた。しかし選んだ成長率マシマシスキルは自分の得意なものが現れないスキルだったのか、召喚先の国で無職判定をされて追い出されてしまう。
一方で微妙な職業が出てしまい、肩身の狭い思いをしていたヒロインも追い出される主人公の後を追って飛び出してしまった。
だがしかし、追い出された先は平民が住まう街などではなく、危険な魔物が住まう森の中だった!
突如始まったサバイバルに、成長率マシマシスキルは果たして役に立つのか!
魔物に襲われた主人公の運命やいかに!
※小説家になろう様とカクヨム様にも投稿しています。
※カクヨムにて先行公開中
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる