冒険者に拾われ聖騎士に求められた僕が、本当の願いに気づくまで。

鳴海カイリ

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第三章 試練の町カサル

116 アラン・こいつは狂ってやがる

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「お前が恋しくなる? 何、寝ぼけたこと言ってんだ。頭オカシイのか?」
「ふふっ……アランって素直じゃないよね」

 そう言って、マロシュは自分の唇を舌で舐める。
 俺を見上げる瞳が狂ってやがる。まるで……迷宮で遭遇する魔獣のように。

「そういう乱暴で冷たいところも、そそるんだけど」

 こいつには何を言っても無駄な気がする。だが、これだけは釘をさしておかなければ。

「サシャを付け狙っていたのはお前か?」
「留守の間、見守っていてあげたんだよ」
「余計なお世話だ」
「あの子って……いろんな人の手をわずらわせているよね」

 ひやり冷たい視線で俺を見上げる。

「自分じゃ何もできないのに、当然のように守られて。ぬくぬくぬくぬくと……あの子がいなければアランはもっと自由に生きられたのに……」

 ギリ、とマロシュの襟を締め上げた。
 俺が守りたくて、あいつを守っているというのに。
 サシャが何を失ってきたのか。日々、どれほど慎ましく、周囲の人たちへの感謝をもって暮らしているか知りもしないで……。

「アラン……可哀想」
「貴様に言われる筋合いはない」
「ボクなら、アランの気持ちを理解してあげられるんだよ?」

 憂いる瞳で俺を見上げる。

「ね? アランには誰が相応しいのか、気づいてよ」
「気づいているさ。俺の隣に立つのはマロシュ、お前じゃない」

 口の端を上げて、俺も冷ややかに笑う。

「これは忠告だ。二度と、サシャと俺に近づくな」
「んん……それはムリかな?」
「殺すぜ」
「仲間を手にかけたなら、アランは……冒険者の資格を失ってしまうよ?」
「だから何だって言うんだ?」

 ギリギリと絞めあげる。マロシュの眉が更に歪んでいく。

「俺はお前を、仲間だと思ったことは無い」
「仲間じゃなく……番? わぁ、嬉しいな……ボク」

 ざわり、と悪寒に似た感覚が這い上がって来た。

「アランはそこまで愛してくれていたんだ。ボク、嬉しくて勃ってしまいそう……ねぇ、ボクをぐちゃぐちゃになるまで愛してよ」

 首元を締め上げる俺の腕に指先を絡めてくる。

「路地だろうと、どこだろうとかまわない。今すぐ、好きなだけ……」
「出ていけ」

 冷ややかな視線で見下ろす。

「この町から出ていけ。俺がお前を殺す前に」

 本気の殺気を叩きつける。
 大抵の魔物ならこれだけで逃げ出し、人間なら失神してしまう。だかマロシュは恍惚とした表情のまま俺を見上げていた。その違和感に、俺も冷静さを取り戻す。

 こいつは、ただの冒険者――いや、獣人じゃない。

「少しはボクに興味をもったかな?」

 俺はすがめた視線で、化け物じみた男を見下ろす。
 鼻で笑いながら言い捨てる。

「貴様に興味なんか持つかよ。道端の石ころの方が、まだマシだ……」

 ギシ、と襟を締め上げた強さでマロシュの意識が途絶えた。
 そのまま足元に崩れ落ちるのを見て、俺は冷たく見下ろす。こいつの異常な執着心。人の心を乱す性質。何か嫌な予感がする。
 俺は奴をその場に置き捨てて、冒険者ギルド狂戦士ベルセルクの爪へと向かった。




 深夜に近い時刻にもかかわらず、冒険者ギルドはいつものように明かりが灯っていた。
 俺は受付にクレメントを呼び出すように言うと、ついも個人的に話をする部屋へと向かう。俺の殺気のなごりを感じてか、受付の者は慌てたようにギルマスを呼び出した。

 今までヤツを相手にしていなかった。
 すばしっこく世渡り上手の冒険者。自分の容姿すらうまく使い、仲間を取り込む計算高い奴。その実、冷酷で人を見下すようなところのある言動……。
 俺は興味の無いヤツには近づかない。
 相手にしないを貫いていたが、ヤツは何故かひどく俺に執着を向けていると感じていた。その理由がヤツの趣味趣向だけでないとすれば……。

「アラン、何だってこんな夜更けに……」

 ギルドマスターのクレメントが、あくびをかみ殺しながらドアを開けた。
 同時に、俺の様子に気づいて表情を変える。ゆっくりとソファに腰を下ろし、俺の顔を覗き込んだ。

「何があった?」
「マロシュ。奴は何者だ」
「マロシュ?」

 ヤツがここを拠点としてとして利用しているのなら、個人情報も記録されている。ただし、自己申告なのだからどこまで真実かは別だが。

「あついは、ただの冒険者か?」
「アラン」
「ただの獣人か? ヤツが俺に執着する理由は何だ?」

 クレメントが眉間の皺を深める。

「調べてほしい。徹底的に」

 俺の言葉にクレメントは頷いた。
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