冒険者に拾われ聖騎士に求められた僕が、本当の願いに気づくまで。

鳴海カイリ

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第三章 試練の町カサル

100 アラン・不快なヤツ

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 予定より少し早めに、怪我人を乗せた荷馬車はカサルの町に到着した。
 そのまま治療院に向い、予め報せを受けていた治療師たちに怪我人を受け渡す。合わせて怪我をした時の状況説明や経緯を伝え、ラドヴァンと一通りの務めを終えた時には、既に日暮れになり始めていた。

「アラン、後は俺がやっとく。お前は早く可愛い子に会いに行ってやれ」
「すまない」
「お前のとこのギルドにも顔を出すから、祝いに一杯飲もうぜ」
「わかった。世話になったな」

 笑顔で手を上げ応えるラドヴァンに礼を言って、生薬ギルドに向かう。
 この時間ならまだギルドにいるだろう。いつものように、薬草の手入れや調合の手伝いなど、忙しくしているかもしれない。もし仕事がまだ残っているようだったら、ギルマスに頼んで今日は早引けさせてもらおう。
 久々の再会なのだから、きっとそのぐらい融通してくれるはずだ。
 そう思い、ギルドのドアを開けたのだが……。

「ラクムの丘に行っている?」
「ああ、すまねぇな。どうしても必要な薬草があって、昼前に出発した」

 ラクムの丘はカサルから徒歩で二時間はかかる。馬で行けば多少は早く行き来できるが、サシャはまだ一人で馬に乗ることができない。というか、まだ早いと教えていなかった。

「まさか一人では……」
「魔物がでるような場所に一人で使いに出すかよ。ちゃんと冒険者の護衛をつけた」
「誰を?」
「カレルという弓使いだ」

 カレル……弓使いのカレル・レイセクか? けどあいつは確か、三年ほど前に修行の旅に出ていたはずだ。いつこの町に帰ってきたんだ?

「まぁ……必要最低限の薬草だけ採って帰ってくるかと思ったんだが。この時間になっても戻らない辺りをみると、閉門に間に合わず野宿するのかもしれねぇな」

 サシャが野宿? 俺以外の男と?

「まだ子供だぞ」
「何だよ。十歳を過ぎればちょっとは危険な仕事だって始めるようになるだろ。今までお前さんとばかり行動してきたが、これからは他の冒険者とも仕事をするようになるんだ。そう心配するな」

 そう生薬ギルドのマスターは言うが、心配なのはそこじゃない。
 カレルは確か明るい気のいい奴だったと記憶している。けれど数年ぶりに再会して、成長したサシャに魅かれないとも限らない。手を、出さないとも……。

「ラクムの丘なら、通るのは東門だな」
「ったく、心配性だな。それより試験はどうだったんだ?」
「あぁ……Bベルナルトになった」

 答えてギルドを出ようとする俺に、ギルマスは肩を震わせる。

「くくっ、ランクアップはギルドを上げて祝うほど凄いことだっていうのに、まるで他人事だな。ほら行けよ。サシャを探しに行きたいんだろ」
「すまない。後日また改めて挨拶に来る」

 軽く手を上げギルドを出る。
 町は間もなく迎える夏至祭でにぎわい始めていた。いつもより人通りが多く、匂いでサシャを探したくてもこれでは上手くできない。

「ギルドに寄らず家に帰っている、ということは無いよな」

 東門の門番にきけば、誰がいつ通ったか分かるだろうか。
 だがこの時間帯は交替のタイミングだ。俺がたどり着く頃には閉門もしているだろうから、間に合ったとしても昼間の動きを知る者はいないかもしれない。
 そんなことを考えながら歩いていたせいで、思わぬ者との遭遇に気づくのが遅れた。

「アラン!」

 抱きつかれ、驚き見下ろす。
 明るい小麦色の大きな耳と尾を持った獣人、マロシュ。今一番会いたくない厄介な奴だ。

「試験から帰ってきていたんだね! 会いたかったよ!」
「悪い。今忙しいんだ。後にしてくれ」

 押しのける。
 だがその手をするりと避けて、俺の腕に絡みついてきた。
 急いでいるというのに、うっとおしい。

Bベルナルトになったんでしょう? おめでとう! これから冒険者ギルドに戻るの? だったら一緒に行こうよ」
「忙しいと言ってる。ギルドに行きたいなら一人で行ってくれ」
「お祝いしたいんだよ」

 俺の行き先を遮るかのように、目の前に立った。
 マロシュはとにかく人の話を聞かない。何でも自分の思い通りに事が運ぶと思い込んでいるところがあって、いう通りにならない相手にはいつまでもしつこく絡んでくる。
 顔のつくりこそ整っているのかもしれないが、正直、俺の好みではない。
 何よりサシャを嫌っている様子が、俺に警戒心を抱かせる。

 不意にマロシュが、俺に抱きつくようにして背伸びした。
 そのまま顔が……唇が、近づいて来る。
 とっさに俺はマロシュの顔面を手のひらで押しのけた。

「何やってんだ、あぁ?」

 凄みながら俺は低い声を漏らし、冷ややかに見下した。
 ぶ、と声を漏らしたマロシュは手を振り払い嫌な顔で笑う。

「何って、お祝いのキスだよ」
「いらねぇよ」
「どうして? ボクみたいな可愛い子のキスは、皆欲しがるのに」
「いらねぇって言ってるだろ。聞こえないのか?」
「怒らないでよ。キスのひとつぐらい、減るものじゃないでしょ?」

 ふふふ……と笑いながら見上げる。
 あぁ、本当にイラつくヤツだ。

「失せろ。気持ち悪い顔を近づけるな」

 殺気を放つと、やっとマロシュは俺から離れた。
 そのままヤツを置き捨てて、俺は町の東門に向かった。
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