冒険者に拾われ聖騎士に求められた僕が、本当の願いに気づくまで。

鳴海カイリ

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第三章 試練の町カサル

82 嫌われ者の僕

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 三年前の春。僕が初めて教えてもらった仕事は、薬草の栽培や採取と調合、そして販売をしているギルドのお手伝いだった。草花の精霊の声を聴くことができる僕に一番いいだろうと、アランが探してきてくれたものだ。
 確かに冒険者になるにはあまりにも貧弱すぎて……いや、冒険者たちがタフ過ぎて、できることといえば植物採取ぐらい。それも魔物や魔獣、盗賊崩れが跋扈ばっこする街の外では危険が付きまとう。

 アランが「俺の目の届く範囲」と言って見つけてくれた仕事は、当時九歳になろうかという子供の僕でも十分出来ることではあったのだけれど……。

「やっと来たのか」
「春から秋の間だけ働くなんて、相変わらずいいご身分だなぁ」

 久々に生薬しょうやくギルドのドアをくぐると、開口一番懐かしい言葉に出迎えられた。
 チラチラとこちらを見て笑ってるのは、ベドジフたちだ。
 彼らに最初に会ったのは僕がこの町に来て新しい家を探していた時。当時、三人とも冒険者なのだと思っていたのだけれど違ったみたいだ。

 僕より三歳年上の、少し勝気な顔をした濃い茶色の髪のベドジフは冒険者ギルドに所属している。まだランクは持っていないらしい。病弱な母親との二人暮らしで、家を留守に出来ないからランクアップ試験は受けられないのだと噂に聞いた。

 くるくるとした癖っ毛の茶色の髪はミラン。元々冒険者ギルドに所属していたけれど、気が弱くて戦うのが苦手で、でも手先が器用ということもあって今は武具の工房のギルドに所属しているらしい。

 そしてその二人といつも一緒に居るのが少し明るい赤毛のモイミール。
 両親は居なくて祖父と幼い弟と妹――といっても、僕と同い年と二歳年下の子がいると……これも彼らの会話から何となく知った。
 彼もミランと同じく元々は冒険者ギルドだったのが、いつの間にか僕と同じ生薬ギルドになっていた。おかげでこうして彼らと顔を合わせることが多くなっている。

「あいつにとって、仕事は遊びみたいなもんなんだろ?」
「食うのも寝る場所にも困らないお坊ちゃんのお遊びかよ」
「ほんと、ムカつく」
「ワガママ放題言って、周りの迷惑考え無いヤツ」

 うぅぅん……遊び半分で仕事をしているつもりは無いし、君たちとはまともに会話もしていない。どんな迷惑をかけたか心当たりは無いのだけれど、きっと冬の間は仕事に来ない、というだけで迷惑なのかもしれない。

 ここでも僕は、あまり歓迎されていない。
 いや、最初の内は子供ながらに仕事をするということで、皆、親切に色々教えてくれていたんだ。僕も一生懸命役に立とうと仕事を覚えていった。
 けれどべドジフたちがここに出入りするようになってから、ここの人たちにあることないこと吹き込んだみたいで、いつの間にか僕は孤立していた。
 今ではハッキリと嫌われている。
 周囲の大人たちは、子供同士の喧嘩だろうと、相手にしないし。

 そして僕は……こういう状況だということをアランに言っていない。

 確かに子供同士のくだらない喧嘩だ。
 やっかみ……なのかもしれない。カサルの町で多くの人気を集めている冒険者アランを独り占めにして、一緒に暮らしているんだら。
 彼らの言う通り、僕は食べる物も着る物も、住む所だって何も苦労していない。
 むしろ、とても恵まれているんだ。

 この町に来て知った。子供だからと言って誰もが守られるわけじゃないってこと。親に捨てられたり、腹いせに殴られたり。もしくは病気や怪我で動けなくなった家族のために、朝から晩まで働いている子供もいる。
 べドジフやミラン、モイミールたちは正にそういう境遇にある人たちだ。
 国はそんな恵まれない者たちに救いの手を差し伸べているけれど、全ての子供たちに満足いくだけの状況にはなっていない。

 魔物に襲われ孤児になった子。
 盗賊に襲われ、何もかも失った人たち。
 他国から流れて来た難民もいる。
 迷宮のように発達したカサルの町は、そんな人たちを飲み込んで日々を繰り返している。

「アランに、心配をかけさせたくないんだよな……」

 誰にも聞かれないような小声で、僕は呟いた。
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