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第二章 冒険者ギルド

59 クレメント・誰よりも幸せになって欲しい

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 さすがに俺も顔をしかめて返し、腕を組んでイスの背に寄りかかる。

「この俺が、アランとサシャの住処を他人に話すって? を侵す奴は容赦しない獣人の俺に、それを聞くか?」
「だったら何故……」
「お前がこの町を拠点にすると聞いて、アタリをつけたんじゃねぇか?」

 今回の家探しを、俺はヨハナにしか話していない。
 当然、紹介した場所も他人には秘密だ。

「べドジフたちは人間族だ。アランは獣人の性質を持っていても見かけは人だろ? そういう習性があることに気づいていないんじゃないのか? 他意はないだろう」
「あいつらはマロシュとも親しくしている。知らないことは無いと思うが?」
「あぁ……まぁ……そうだな」

 狐系獣人のマロシュは、ここのギルドにもよく訪れる人気の冒険者だ。
 一見、男か女か分からないような可愛らしい顔立ちのうえに、甘え上手。それでいて幼い頃から色々な経験を積んでいるらしく、冒険者としての腕もある。
 まぁ……アランには遠く及ばないにしても、同じパーティーに引き入れたいと思うやからは後を絶たない。

 本人もそれを自覚しているだけに、寄って来る相手は本人の気分次第で相手をするという、少しお高く留まっているところがある。
 歳は確か十かそこら。まだまだ、自分勝手なワガママが通用する子供だ。

「マロシュなら自分の性質を簡単に人に明かさないだろうな……。そう言えばあいつ、アランをずいぶん気に入っていたな」
「あぁ、カサルに戻った日、ここに居合わせただろ?」
「騒いでいた声は聞こえたが、ひと悶着もんちゃくでもあったか?」
「そうなる前にヨハナ姉さんが間に入ってくれた」
「さすが俺の嫁」

 思わず鼻の下が伸びる。
 呆れた視線を向けて来るアランだが、お前だって番を持てば同じになるんだぞ。

「まぁ、何だな。アランのことだ、ハッキリまとわりつくなと言っているだろうが、俺からも忠告しておくよ」
「そうしてくれ、サシャが居るのに無視するとかイラついた。何度言ってもまとわりつくようなら、同じ冒険者だろうと容赦しねぇ」

 すがめた視線に殺気がこもる。
 こわいこわい。
 本人は否定していても、俺はサシャをアランの番認定するからな。知らずにこいつの逆鱗に触れて、痛い目を見るのはごめんだ。

 一応、俺はこいつより上のランクだが、実力はほぼ同等と見ている。
 世話した弟分が俺より強くなるのは悔しいが、同時に嬉しくも思う。アランには才能があるんだ。強くなれば生き残れる可能性も高くなる。
 辛い幼少を送ってきたらしいこいつは、誰よりも幸せになって欲しい。

「サシャ、かぁ……」

 あの子と話をしたのはまだほんの数回だが、育ちのいい素直な子供だ。何より、笑顔がいい。アランを心から信頼しているのが見て取れる。
 親切には誠意で応える姿が身についている。
 きっと愛されて育ったのだろう。
 アランとは正反対の生い立ちだが、荒んだこいつの心を癒すにはサシャのような子が必要なのかもしれない。

 アランも無意識にそれを感じ取っているからこそ、自分の甥っ子と言って、手元から離さないようにしているのだろう。でなければこの町にたどり着く前に、どこぞの孤児院にでも預けて、本人は身軽になって帰って来たはずだ。
 それとも……他に何か理由があるのか。

「……あの子、よくよく見れば不思議な瞳の色をしていたな。生き別れたお前の姉から受け継いだものか?」

 青い瞳は貴族に多い。
 まぁ……青というより水色。しかも少し紫がかっているようにも見える。長く伸びた前髪で瞳の色は見えにくいが、この国の人間には珍しい色だ。
 サシャは亡国モルナールの辺境にある、孤立した集落の育ちと聞いている。
 その辺りでは普通にある特徴なのだろうか。

 何気なく言った言葉に、アランはわずかに身を乗り出し囁いた。

「そのことだが。クレメントの耳に入れておきたいことがある。この間サシャが熱を出して言いそびれたいたことだ」

 周囲に視線を向ける。
 何やら、ヤバイ話のようだ。
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