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第二章 冒険者ギルド
54 守ってくれるから
しおりを挟む「僕は隠しごとが見抜けない。言われたら全部本当に思えてしまう。だったら、誰を信用したらいい? アランの言葉以外は誰も信用しない方がいい?」
真っ直ぐに金色の瞳を見上げる。
その視線にアランは複雑そうな表情で眉を歪めてから、ガシガシと後ろ髪を掻いた。
「俺のことも、頭っから信用するなよ」
「アランは信用している。ねぇ、アラン以外は誰も信じちゃダメ?」
「サシャ……」
アランが僕に向き直って、石の床に片膝をついてから僕の両手を取った。
視線が僕より低くなる。こんなことは初めてだ。
「誰を信じて、誰を信じないか……それを見極めるのもお前に必要なことだ。俺がこいつを信じろと言って裏切られたらどうするんだよ」
「アランは僕に嘘つかないもん」
「サシャ」
「アランは僕を傷つけない。守ってくれるから」
握る手を離して、アラン首に両腕を回し抱きついた。
僕の背中に、大きな手が添えられる。
「ああ、そう約束した。お前に困ったことがあれば、ちゃんと助けを求めろ。そうすれば俺は何でもする。命を懸けて守る」
耳元で囁くように言うアランの声が優しくて、涙が出そうなほど嬉しい。
僕は頷いて身体を起こした。
ちらちらと、雪が舞い降りてくる。
空は雲に覆われていないのに、風で運ばれてきたのかもしれない。
「さぁ、こんな所にいたら風邪ひいちまう。またお前に熱を出されたらかなわない」
「僕は元気になったもん」
「ああ元気でいてくれ。ほら、行こうぜ」
僕の手を取り歩き出す。
メモで受け取った新しい家の候補は三つ。一つ目はギルドや大通りからも近くて、部屋こそ狭いけど便利な感じだ。僕とアランの二人ならこの広さでも十分。
窓は小さめで少ない。
外を眺めると、通りを行き来する人の波が見えた。
「ここは?」
「んー、ちょっと通りから近すぎるな」
「もっと離れていた方がいい?」
「その方が落ちつくだろ?」
便利な気がするけれど、アランはしっくりこないみたいだ。
奥に台所があって物置きもついている。アランがくん、と匂いを嗅ぎながら扉を開けると、物置きの奥が隠し扉になっていた。その奥は、壁に覆われた薄暗い下りの階段がある。
「秘密の抜け道?」
「みたいだな」
「おもしろーい」
階段の側から簡単な鍵がかけられるようになっている。階段を降りるとまた簡単な鍵がついている。ドアの向こうは下の階層の細い道だった。
「なるほど、面白い造りだな」
しっくりこなくても興味はあるみたいだ。
二軒目は最初の家から少し行った先、川沿いの小さな家だった。
広い川の側に大きな窓が二つあって午後の日差しがたくさん入る。ここも二人暮らしなら十分だと思う。けれど……。
「ピンと来ないか?」
「う……ん……。今は冬だからかな、樹々の声が遠いね」
上下に伸びた、迷宮みたいな石造りの町でも、あちこちに街路樹や小さな花壇がある。今は雪の下にあって、葉を落とした樹をまばらに見るだけだけど。でも、きっと緑の季節には道端にも草が茂り花が咲くんじゃないかな……。
ここも入り口の側はちゃんと地面があった。
草花の声が遠いように思えるのは、窓が川の側だからかな。
泳いで渡るのはちょっと難しいように思える川幅の、対岸には樹々があるだろうけれど、ちらちら降る雪に今はよく見えない。
「そうか。草花から遠い場所はあまり良くないな」
「僕、気にしないよ。きっとたくさん咲いている場所はあると思うし」
「けど、近くで見守ってれる存在があると安心だろ?」
真顔で言われて僕は頷く。
植物たちは何か危険なことがあると知らせてくれる。それだけじゃなくて、ただのお喋りを聞いているだけでも、僕は楽しくなる。
アランはここでもあちこちの壁や床を調べて、あっという間に隠し扉を見つけてしまった。
今度はシャワー室の床だ。よく見ないと分からないような仕掛けのレバーがあって、操作すると床の一部が開く。その下にはしごが付いていて、真下の川岸に下りられるようになっていた。
家の真下にある川岸は石で組まれた道と階段になっていて、その先を行くと全然違う階層の道に出る。
「なるほどな」
アランは何か考えがあるように頷いていた。
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