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第二章 冒険者ギルド
50 ごろごろ
しおりを挟む「今日の予定は、この部屋でごろごろすることだ」
「ごろごろ?」
「食ったり寝たりして、のんびり過ごす。部屋探しはサシャが元気になって、天気が良くなってからだ。クレメントに手頃な部屋を見繕ってもらう予定だから、今日急いで探しに行かなくていい」
僕は目をぱちくりして、アランの顔を見た。
「俺も一緒にここに居る。嫌か?」
「ううううううん! 嫌じゃない!」
ぶんぶんと首を横に振って答える。
そして、きゅっ、とアランの肩に抱きついた。
ごろごろ!
僕の熱が下がるまで。空が晴れるまで。
それまでこの部屋でアランと二人で、のんびり過ごす。
「……何もしないで、ただ眠っていてもいいっていうこと?」
「それが今のサシャの仕事だ。寝るのに飽きたなら起きてもいいけどよ」
「寝る。まだ眠い。アランもいっしょに!」
苦笑するようにして「俺もかよ」と言いながらベッドに運んでくれる。
「飯はいいのか?」
「……お腹、まだ空いて無い……」
「何か食いたくなれば言うんだぞ。パンと、もう冷めちまってるがスープを小鍋に入れて置いてある。暖炉で温めればすぐに食えるだろ。夕方には何か果物でも届けてもらおうと思ってるから、サシャの――」
テーブルの方に顔を向けるのを見て、僕はアランのシャツを引っ張った。
「今は何も要らない。アラン、いっしょにいて」
真っ直ぐに見上げる。
アランは一度、金色の瞳を大きく見開いてから、ふっ……と柔らかく笑った。
「居るよ」
「うん……」
またもぞもぞと動いて、アランの胸にぴったりとくっつく。
……あったかい。
腕枕のような……僕の肩を抱くようにしながら、アランも僕の隣でベッドに寝転がった。僕が一人で眠るには広すぎるくらいのベッドだから、一緒でも狭くは無いはずだ。
僕の額や目元にかかった、少し長くなった前髪を、アランが指先でそっと払ってくれる。その動きが少しだけくすぐったくて、僕は小さく笑った。
ぽつり、ぽつりと思い出したように話をする。
どこの町が楽しかったかとか……植物採取の依頼を受けた時のこととか。珍しい動物や道具を見つけたこと。魔物を倒した時の話も少し。
あの時はすごく怖かったけど、今思い出してみると、すごくドキドキした瞬間だった。宝物もできたし。
それから二人でどんな家に住みたいか……という話もした。
アランは暮らしやすい部屋というのがよく分からないと言っていたけど、安全で、いざとなったら逃げ出す抜け道もある家がいいと言っていた。
悪い奴らが突然訪ねてきたら、僕一人でも逃げたり隠れたりできるように。
「悪い人が、来るの?」
「もし……そういうことがあったら、を想定して事前に対処しておけば安心だろ?」
「うん、そうだね」
盗賊が突然来ても、ちゃんと逃げられるようにしておくのは大切かもしれない。
「あまり下の階層は治安が悪いから、それなりの階層で……しっかりした造りで……」
「大きい家じゃなくていいよ」
「ん? 狭いと窮屈じゃないか?」
「僕とアランの二人だけだもん、この部屋ぐらいがいい」
食事をする場所と、ベッドを置く場所があれば十分だ。
あ……ご飯を作る場所もいるかな。
というか僕、料理できるだろうか。簡単なスープの作り方は旅の途中で教えてもらって来たけれど、きっとそれだけじゃアランはお腹が空いてしまう。
「サシャは欲が無いな。お城ぐらいの大きさがいいと言うかと思ったのに」
「広すぎると掃除が大変だよ」
「実用優先か。チビのくせに立派なもんだ」
そう言って笑う。
いっぱい話をしながら、眠くなったらアランの腕の中で眠り。アランの気配を感じて目を覚ます。
昼過ぎに少し食事を取ってまた眠り、夕暮れ時にはまた少し食事して……。
その間、ずっとアランは側にいてくれた。
暖炉の火にあたりながら、すっかり僕は炎が怖くなくなっていることに驚いていた。それも全部、アランが居てくれたからだと思う。
うん……アランさえいれば、怖い物なんかない。
この時、僕は本当にそう思っていた。
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