冒険者に拾われ聖騎士に求められた僕が、本当の願いに気づくまで。

鳴海カイリ

文字の大きさ
上 下
50 / 281
第二章 冒険者ギルド

50 ごろごろ

しおりを挟む
 


「今日の予定は、この部屋でごろごろすることだ」
「ごろごろ?」
「食ったり寝たりして、のんびり過ごす。部屋探しはサシャが元気になって、天気が良くなってからだ。クレメントに手頃な部屋を見繕みつくろってもらう予定だから、今日急いで探しに行かなくていい」

 僕は目をぱちくりして、アランの顔を見た。

「俺も一緒にここに居る。嫌か?」
「ううううううん! 嫌じゃない!」

 ぶんぶんと首を横に振って答える。
 そして、きゅっ、とアランの肩に抱きついた。

 ごろごろ!
 僕の熱が下がるまで。空が晴れるまで。
 それまでこの部屋でアランと二人で、のんびり過ごす。

「……何もしないで、ただ眠っていてもいいっていうこと?」
「それが今のサシャの仕事だ。寝るのに飽きたなら起きてもいいけどよ」
「寝る。まだ眠い。アランもいっしょに!」

 苦笑するようにして「俺もかよ」と言いながらベッドに運んでくれる。

「飯はいいのか?」
「……お腹、まだ空いて無い……」
「何か食いたくなれば言うんだぞ。パンと、もう冷めちまってるがスープを小鍋に入れて置いてある。暖炉で温めればすぐに食えるだろ。夕方には何か果物でも届けてもらおうと思ってるから、サシャの――」

 テーブルの方に顔を向けるのを見て、僕はアランのシャツを引っ張った。

「今は何も要らない。アラン、いっしょにいて」

 真っ直ぐに見上げる。
 アランは一度、金色の瞳を大きく見開いてから、ふっ……と柔らかく笑った。

「居るよ」
「うん……」

 またもぞもぞと動いて、アランの胸にぴったりとくっつく。
 ……あったかい。
 腕枕のような……僕の肩を抱くようにしながら、アランも僕の隣でベッドに寝転がった。僕が一人で眠るには広すぎるくらいのベッドだから、一緒でも狭くは無いはずだ。
 僕の額や目元にかかった、少し長くなった前髪を、アランが指先でそっと払ってくれる。その動きが少しだけくすぐったくて、僕は小さく笑った。

 ぽつり、ぽつりと思い出したように話をする。

 どこの町が楽しかったかとか……植物採取の依頼を受けた時のこととか。珍しい動物や道具を見つけたこと。魔物を倒した時の話も少し。
 あの時はすごく怖かったけど、今思い出してみると、すごくドキドキした瞬間だった。宝物もできたし。

 それから二人でどんな家に住みたいか……という話もした。

 アランは暮らしやすい部屋というのがよく分からないと言っていたけど、安全で、いざとなったら逃げ出す抜け道もある家がいいと言っていた。
 悪い奴らが突然訪ねてきたら、僕一人でも逃げたり隠れたりできるように。

「悪い人が、来るの?」
「もし……そういうことがあったら、を想定して事前に対処しておけば安心だろ?」
「うん、そうだね」

 盗賊が突然来ても、ちゃんと逃げられるようにしておくのは大切かもしれない。

「あまり下の階層は治安が悪いから、それなりの階層で……しっかりした造りで……」
「大きい家じゃなくていいよ」
「ん? 狭いと窮屈じゃないか?」
「僕とアランの二人だけだもん、この部屋ぐらいがいい」

 食事をする場所と、ベッドを置く場所があれば十分だ。
 あ……ご飯を作る場所もいるかな。
 というか僕、料理できるだろうか。簡単なスープの作り方は旅の途中で教えてもらって来たけれど、きっとそれだけじゃアランはお腹が空いてしまう。

「サシャは欲が無いな。お城ぐらいの大きさがいいと言うかと思ったのに」
「広すぎると掃除が大変だよ」
「実用優先か。チビのくせに立派なもんだ」

 そう言って笑う。
 いっぱい話をしながら、眠くなったらアランの腕の中で眠り。アランの気配を感じて目を覚ます。
 昼過ぎに少し食事を取ってまた眠り、夕暮れ時にはまた少し食事して……。
 その間、ずっとアランは側にいてくれた。

 暖炉の火にあたりながら、すっかり僕は炎が怖くなくなっていることに驚いていた。それも全部、アランが居てくれたからだと思う。
 うん……アランさえいれば、怖い物なんかない。

 この時、僕は本当にそう思っていた。
しおりを挟む
感想 43

あなたにおすすめの小説

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。

恋人が出て行った

すずかけあおい
BL
同棲している恋人が書き置きを残して出て行った?話です。 ハッピーエンドです。 〔攻め〕素史(もとし)25歳 〔受け〕千温(ちはる)24歳

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

急に運命の番と言われても。夜会で永遠の愛を誓われ駆け落ちし、数年後ぽい捨てされた母を持つ平民娘は、氷の騎士の甘い求婚を冷たく拒む。

石河 翠
恋愛
ルビーの花屋に、隣国の氷の騎士ディランが現れた。 雪豹の獣人である彼は番の匂いを追いかけていたらしい。ところが花屋に着いたとたんに、手がかりを失ってしまったというのだ。 一時的に鼻が詰まった人間並みの嗅覚になったディランだが、番が見つかるまでは帰らないと言い張る始末。ルビーは彼の世話をする羽目に。 ルビーと喧嘩をしつつ、人間についての理解を深めていくディラン。 その後嗅覚を取り戻したディランは番の正体に歓喜し、公衆の面前で結婚を申し込むが冷たく拒まれる。ルビーが求婚を断ったのには理由があって……。 愛されることが怖い臆病なヒロインと、彼女のためならすべてを捨てる一途でだだ甘なヒーローの恋物語。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(ID25481643)をお借りしています。

僕だけの番

五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。 その中の獣人族にだけ存在する番。 でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。 僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。 それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。 出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。 そのうえ、彼には恋人もいて……。 後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。

成長率マシマシスキルを選んだら無職判定されて追放されました。~スキルマニアに助けられましたが染まらないようにしたいと思います~

m-kawa
ファンタジー
第5回集英社Web小説大賞、奨励賞受賞。書籍化します。 書籍化に伴い、この作品はアルファポリスから削除予定となりますので、あしからずご承知おきください。 【第七部開始】 召喚魔法陣から逃げようとした主人公は、逃げ遅れたせいで召喚に遅刻してしまう。だが他のクラスメイトと違って任意のスキルを選べるようになっていた。しかし選んだ成長率マシマシスキルは自分の得意なものが現れないスキルだったのか、召喚先の国で無職判定をされて追い出されてしまう。 一方で微妙な職業が出てしまい、肩身の狭い思いをしていたヒロインも追い出される主人公の後を追って飛び出してしまった。 だがしかし、追い出された先は平民が住まう街などではなく、危険な魔物が住まう森の中だった! 突如始まったサバイバルに、成長率マシマシスキルは果たして役に立つのか! 魔物に襲われた主人公の運命やいかに! ※小説家になろう様とカクヨム様にも投稿しています。 ※カクヨムにて先行公開中

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...