冒険者に拾われ聖騎士に求められた僕が、本当の願いに気づくまで。

鳴海カイリ

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第二章 冒険者ギルド

49 居心地がいい

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 ぼーっとした意識のまま、ぼんやりと瞼を開ける。
 直ぐに人が動く気配がして、僕はそちらの方を向いた。

「サシャ……」
「ア、ラン」

 直ぐにアランの手のひらが僕の首筋に伸びる。
 体温を確かめて、ふ……とアランが安心したような顔を向けた。

「よぉ、喉渇いてないか?」
「うん……渇いた」
「飯は?」

 僕から一歩離れたアランを目で追いながら身体を起こす。
 薬草を煎じたものだろう。少し甘い、冷たくて飲みやすい飲みものを入れたコップを受け取って、ごくごくと飲んでからアランに返した。
 お腹は……空いているような、空いていないような……よく分からない。

 それよりも……。

 アランに向かって両手を伸ばすと、何も言わずに抱きかかえてくれた。
 僕はそのまま首や肩に両腕を回して、ぴったりと胸を合わせる。お尻の下と、背中をしっかりと支える。その腕の強さが嬉しくて、僕は鼻先をアランの首元に近付けた。
 ちょっとお酒の匂いがする。
 汗の匂いも。でも、嫌な感じじゃない。

「なんだよ、甘えん坊だな」
「ちがうもん」
「はいはい」

 何だかんだと言いながら、アランはずっと僕を抱いたままでいてくれる。そのまま窓の方へとゆっくり歩いて行った。

「天気、悪そうだぜ」

 言われて、くるりと顔を向けた。
 厚い雲が流れてガラス窓を揺らしている。雨が……降ってきそう。もしかすると雪になるかもしれない……そんな空の気配だ。
 けれど部屋の中は寒くない。
 暖炉で、薪がパチリと音を立てた。

 窓を閉めたままでも外が分かる。こういうガラスをはめた窓は、この建物がお金をかけた、とてもいい造りをしてからなのだと教えてもらった。
 ガラスの板やグラスを作る職人は少なくて、とても高価なんだって。
 古い宿やあまりお金をかけていない家は、窓は木の板で覆っているだけだ。窓を開けると風が吹きこんでくる。夏はいいけれど冬の季節は辛くて、だから……冬の間は真っ暗な部屋の中で暮らしている。

 僕が育った森は、たぶん長老の結界のおかげだと思う。一年中、あまり暑くもなく寒くも無い過ごしていた。
 僕らの家はたくさんの柱が立っているだけで、部屋を仕切っていたのは薄い布だけ。窓も壁も無い建物がほとんどだった。結界の外に立っていた山小屋に何度か連れて行ってもらったことがあるから、壁で覆われた建物があることは知っていたけれど……。

 この部屋は、落ち着いた調度で物も少なくてごちゃごちゃしていない。必要最低限の物だけ置いている……って言う感じだ。
 だからってお金をかけていないわけじゃないんだ、きっと。
 だってすごく、居心地がいい。

 僕はもう一度窓の外を見た。

「雪に、なる?」
「かもな。昨日のうちに着いてよかった。お前、疲れていたんだって」
「ごめんね」
「どうして謝る?」

 ん? と訊くようにアランが僕の方を見る。
 鼻の先っぽと先っぽが、ちょっと触れる。

「えぇっと……アランを心配させた。お医者さんを呼んで、お薬も貰った?」
「覚えてるのか?」
「何となく。いっぱい話をしていた。けれど、どんな話をしていたかは覚えていない」

 ただアランが心配したり、安心したような息遣いだけは覚えている。

「今日もどこかに行く? 旅の道具をそろえたり……いろいろ、やること、たくさんあるよね? 僕たちが住む家を探したり……」

 旅の間、アランは一日も無駄にしないと言う感じで、直ぐに次の町を行くための準備したり、武具を直したりと慌ただしくしていた。ここが目的の町だと知っているけれど、きっと直ぐにやらなきゃいけないことがあるはずだ。

 それなのに……僕の頭はまだぽやぽやしていて、身体に力が入らない。
 気分は悪くないけれど、まだ少し熱っぽい感じもする。

「僕……病気になった? アランの手伝い……できない?」
「疲れただけで病気じゃないってよ。何日か寝て、飯を食えば元気になるって」
「アラン……出かける?」

 そうしたら僕は一人で留守番だ。
 待っていろと言われたらちゃんと待っているけど、なんか、もうちょっとだけこうしていたい。
 アランは「そうだな……」と呟きながら、軽く笑った。
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