冒険者に拾われ聖騎士に求められた僕が、本当の願いに気づくまで。

鳴海カイリ

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第二章 冒険者ギルド

40 もう一つの秘密

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「もう一つの秘密?」
「ああ、サシャは草花や樹々の声を聴くことができるだろ?」
「うん」
「それもナイショだ」

 首をかしげる。

「どうして?」
「そうだな……もし悪いことを考えているヤツが、サシャの能力を知ったとする。例えばあそこで高価そうな団扇うちわを持っている商人。その商人が大切にしている物やお宝がどこにあるか訊きだせ、って脅した来たら?」

 通りの向こうで立ち話をしている、お金持ちそうな商人に視線を向けてアランが言った。あの人の宝物を聴き出して盗もうとするのかな。そんなの絶対に許せない。
 僕は直ぐに答える。

「脅されても言わないよ!」
「言わないといじめるぞ、サシャの大切な物を壊したり取っちまうぞ、言われたら?」
「大切な……もの……」

 もし、いうことを聞かなかったらアランをいじめるぞって言われたら。アランを取ってしまうって言われたら……そうしたら、僕は、きっと黙っていられない。

「ダメ……」

 じわ……と目の奥が熱くなる。
 アランをいじめるとか取られそうになったら、僕はいけないことだと分かっていても、草花たちを使って他の人の大切な秘密を言ってしまうかもしれない。秘密を知られてしまった人は、とっても困るだろう。
 でも、でも……。

「ばーか、泣くなよ。例えばの話だ」
「う……」
「そんなふうにサシャを利用する悪い奴もいる。だから、お前の特別な力は、できるだけ人に知られないように秘密にしておけ」
「うん」

 頷いて、目をごしごしと手の甲でこすった。
 そしてアランに訊ねる。

「アランも……僕を利用しようって、思う?」
「あ?」
「悪いことに使う?」
「おい、俺は盗賊じゃねぇって言ってるだろ」

 ちょっと怒った声で鼻をつまむ。僕は「いててて」と声を上げて、手を離した鼻先をさすった。もぅ、本当に乱暴なんだから。
 またゆっくり歩き出したアランは、「あぁ……でも……」と続けた。

「そうだな、利用するっていう手もあるな」
「なにするの?」
「キレイなお姉ちゃんはどこですかーって、よ」
「探してどうするの?」
「そっから先は大人の遊びだな。お子様のサシャにはまだ早い」

 バカにしたように笑う。
 ひどい。
 ぐいっ、とアランの手を引いて僕は口を尖らせた。

「僕がいるのに、他の人と遊ぶの?」
「なんだよ、ヤキモチか?」

 楽しそうにニヤニヤ笑う。僕は真剣に言っているのに。

「ヤキモチじゃないもん」
「そうかそうか」
「信じてない! いいよ、綺麗なお姉さんがいても教えてあげない」
「俺のいうことは何でも聞く約束じゃなかったか?」
「教えない!」

 ぷい、と横を向く。
 その先に店の窓から顔を出したお姉さんたちがいた。アランよりちょっと年上ぐらいかな。皆、綺麗に髪を結い上げて、首元が大きく広がった、ひらひらした襟の華やかな服を着ている。
 道を行く僕とアランを目に止めると、一人が大きな声を上げた。

「アラン!」
「やだ、アランじゃない久しぶり!」
「なぁに? ちょっと、どこに行っていたのよー!」

 お姉さんたちの声に振り向いたアランが「よぉ」と声を上げる。

「元気そうだな」
「元気じゃないわよ。アランが会いに来てくれなくて寂しくてぇ」
「ずっと町を出ていたんだ」
「なぁに? 討伐依頼?」

 と言葉を切って、アランの腕にしがみ付くようにしていた僕に顔を向けた。

「やだぁ、なにその子、カワイイ」
「こいつの世話をすることになった、よろしくな」
「えぇぇえ? 何っ、隠し子?」
「あぁ?」

 アランが眉を上げて訊き返す。

「おい、俺は十六だぞ。幾つの時の子だって言うんだ」
「あら、まだそんなに若かったの?」
「じゃあ、さらって来たのかしら?」
「盗賊じゃねぇ、怒るぞ!」

 そう言いながら、アランの声は全然怒っていない。
 通り過ぎる僕たちに、お姉さんたちは笑いながら「また店に来てよねぇ」と手を振って見送る。僕は何が何だか分からずにアランの腕を引っ張った。

「あ、あの人たちは?」
「あぁ……以前、タチの悪い酔っ払いが店で暴れていた時に通りがかってよ。まぁ、追い払ったりなんだりしてから、時々飯を食わせてもらってたんだ」

 そう答える端から、今度は道の向こう側に立っていた、ごつい鎧姿の数人から声を掛けられる。かと思えばこっちの屋台のおばさんから。すれ違う子供たちがアランの姿を見つけて駆け寄ってきた。
 皆、アランの帰りを歓迎している。
 アランは皆に同じように答えて、僕のことを軽く紹介しながら先に進む。

「アランって……人気者だ」

 僕は……すごい所にきてしまったんじゃないだろうか。
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