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第二章 冒険者ギルド
39 僕の秘密を知っている
しおりを挟む見上げるほど大きい外壁の門扉。
僕はぽかんと口を開けるようにして見上げて、数歩先に進んだアランに慌てて駆け寄った。そのままはぐれてしまわないように、上着の裾を掴む。
アランはちらりと僕を見てから、ふっ、と軽く笑った。
「人が多いから迷子になるなよ」
「う……うん……」
ドキドキしながら周囲を見渡す。
馬に乗ったまま悠然と通り抜けていく人もいれば、簡易鎧を着た門番に呼び止められ、何か書類のような物を見せている商人や旅人がいる。
アランは……その何人かいた門番に、軽く手を上げた。
門番はアランの顔を見て、「あっ」と短い声を上げる。
「アラン様、お久しぶりです」
「最近顔を見ませんでしたが、遠征に行ってらしたんですか?」
「まぁ、ちょっとな」
どう見てもアランより年上に見える門番が、まるで目上の人に話しかけるような言葉遣いで声を掛けてきた。そして僕の方に顔を向ける。
「そちらの子は?」
「ああ、これから俺が世話にすることになった」
「お世話⁉」
数人の門番たちが驚いた声を上げる、アランは僕の背を軽くとんと押した。
「あ、サシャ……です。よろしく、お願いいたします」
上着の裾から手を離して、ぺこりとご挨拶する。
門番たちは顔を見合わせた。
「いやぁ、あのアラン様が……驚きです」
「そんなに驚くことじゃねぇだろ。ま、そういう訳でこいつが町の外に出入りすることがあった時は、よろしくな」
「はっ! かしこまりました!」
ビシッ、と背筋を伸ばして門番たちが僕らを見送る。
僕はまたアランの上着の裾を掴んで、顔を見上げた。
「知っている人たちなの?」
「ああ、以前、魔物の群れが攻めて来た時に、一緒に戦ってな」
きっとアランに助けられた人たちなんだ。僕が、いくつかの魔獣や魔物から助けられたように。あのすごい戦い方を間近で見ていたなら、相手が年下だろうと尊敬してしまう。
「すごいねぇ。アラン、カッコイイねぇ」
「何言ってんだ」
そういうアランは軽く口に手を当てて、道の向こうの方に視線を向けてしまう。目の縁が少し赤くなっている。照れちゃったのかな?
どうだすごいだろって、自慢してもいいのに。
僕も道の向こうに視線を向ける。
背の高い建物が多い。それだけじゃなく、あちこちに橋が架かっていて、見下ろすと更に下の方にも町があった。
すごい、町が積み木みたいに上にも下にも伸びている!
「ここは横に広いだけじゃなく、古い町の上に町を積み重ねている所があるからな。初めて訪れた者はよく迷子になってる」
「うん、くらくらしそう」
「道を覚えるまでは、一人で出歩かない方がいいぞ。特に下の階層は治安がよくねぇ」
「盗賊もいる?」
「いるだろうな。そういう奴らが潜むには、絶好の隠れ家だ」
思わずアランの上着にぴったりと引っ付く。
アランは僕の肩を抱くようにして、ぽんぽんと叩いた。
「俺から離れなければ、何も怖いことはねぇから」
「うん」
「慣れればいろんな物があって面白い街だ。あちこちの地方や国からも人が集まって、人種の幅も広い。お前みたいな瞳の色の者がいても目立たない」
ハッとして、僕は周囲を見渡した。
今まで通って来た村や町と同じように、ここも銀の髪に紫の瞳の人は一人もいない。肌の色はいろいろあるのに、髪はだいたいが茶や赤、黒い人ばかりだ。たまに明るい小麦色や飴色、年配の人の雪のように白い髪を見ると目を引く。
瞳の色はもっといろいろあるけれど、僕と同じような紫がかった水色の瞳の人はいなかった。
「銀の……髪のままなら、本当に目立っていたね」
「この町に住んでからもアオニ草を見つけたらマメに染めとけよ。瞳のことを聞かれたら……」
「分からない、って言えばいいんだよね。きっと父さまがそうだったんだって。父さまはどこの誰か分からないって」
この旅で、何度となく教えてもらった言葉を繰り返す。
アランは少し複雑な表情で僕を見下ろした。
「お前に嫌な嘘を教え込んじまったな」
「え? 嫌じゃないよ。母さまが森のことは秘密にするようにって言ったんだ。秘密を守るための嘘だもの。僕は母さまの約束を守りたい……あ、アランには言っちゃったけど。けれど他の人には絶対秘密」
アランだけが僕の秘密を知っている。
僕にとって特別な人だから、きっと母さまも許してくれると思う。
そう思って見上げる僕に、アランはふっと微笑んだ。
「絶対秘密か。じゃあ、もう一つ秘密を作ってくれるか?」
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