上 下
39 / 281
第二章 冒険者ギルド

39 僕の秘密を知っている

しおりを挟む
 


 見上げるほど大きい外壁の門扉。
 僕はぽかんと口を開けるようにして見上げて、数歩先に進んだアランに慌てて駆け寄った。そのままはぐれてしまわないように、上着の裾を掴む。
 アランはちらりと僕を見てから、ふっ、と軽く笑った。

「人が多いから迷子になるなよ」
「う……うん……」

 ドキドキしながら周囲を見渡す。
 馬に乗ったまま悠然と通り抜けていく人もいれば、簡易鎧を着た門番に呼び止められ、何か書類のような物を見せている商人や旅人がいる。
 アランは……その何人かいた門番に、軽く手を上げた。
 門番はアランの顔を見て、「あっ」と短い声を上げる。

「アラン様、お久しぶりです」
「最近顔を見ませんでしたが、遠征に行ってらしたんですか?」
「まぁ、ちょっとな」

 どう見てもアランより年上に見える門番が、まるで目上の人に話しかけるような言葉遣いで声を掛けてきた。そして僕の方に顔を向ける。

「そちらの子は?」
「ああ、これから俺が世話にすることになった」
「お世話⁉」

 数人の門番たちが驚いた声を上げる、アランは僕の背を軽くとんと押した。

「あ、サシャ……です。よろしく、お願いいたします」

 上着の裾から手を離して、ぺこりとご挨拶する。
 門番たちは顔を見合わせた。

「いやぁ、あのアラン様が……驚きです」
「そんなに驚くことじゃねぇだろ。ま、そういう訳でこいつが町の外に出入りすることがあった時は、よろしくな」
「はっ! かしこまりました!」

 ビシッ、と背筋を伸ばして門番たちが僕らを見送る。
 僕はまたアランの上着の裾を掴んで、顔を見上げた。

「知っている人たちなの?」
「ああ、以前、魔物の群れが攻めて来た時に、一緒に戦ってな」

 きっとアランに助けられた人たちなんだ。僕が、いくつかの魔獣や魔物から助けられたように。あのすごい戦い方を間近で見ていたなら、相手が年下だろうと尊敬してしまう。

「すごいねぇ。アラン、カッコイイねぇ」
「何言ってんだ」

 そういうアランは軽く口に手を当てて、道の向こうの方に視線を向けてしまう。目の縁が少し赤くなっている。照れちゃったのかな? 
 どうだすごいだろって、自慢してもいいのに。

 僕も道の向こうに視線を向ける。
 背の高い建物が多い。それだけじゃなく、あちこちに橋が架かっていて、見下ろすと更に下の方にも町があった。
 すごい、町が積み木みたいに上にも下にも伸びている!

「ここは横に広いだけじゃなく、古い町の上に町を積み重ねている所があるからな。初めて訪れた者はよく迷子になってる」
「うん、くらくらしそう」
「道を覚えるまでは、一人で出歩かない方がいいぞ。特に下の階層は治安がよくねぇ」
「盗賊もいる?」
「いるだろうな。そういう奴らが潜むには、絶好の隠れ家だ」

 思わずアランの上着にぴったりと引っ付く。
 アランは僕の肩を抱くようにして、ぽんぽんと叩いた。

「俺から離れなければ、何も怖いことはねぇから」
「うん」
「慣れればいろんな物があって面白い街だ。あちこちの地方や国からも人が集まって、人種の幅も広い。お前みたいな瞳の色の者がいても目立たない」

 ハッとして、僕は周囲を見渡した。
 今まで通って来た村や町と同じように、ここも銀の髪に紫の瞳の人は一人もいない。肌の色はいろいろあるのに、髪はだいたいが茶や赤、黒い人ばかりだ。たまに明るい小麦色や飴色、年配の人の雪のように白い髪を見ると目を引く。
 瞳の色はもっといろいろあるけれど、僕と同じような紫がかった水色の瞳の人はいなかった。

「銀の……髪のままなら、本当に目立っていたね」
「この町に住んでからもアオニ草を見つけたらマメに染めとけよ。瞳のことを聞かれたら……」
「分からない、って言えばいいんだよね。きっととうさまがそうだったんだって。父さまはどこの誰か分からないって」

 この旅で、何度となく教えてもらった言葉を繰り返す。
 アランは少し複雑な表情で僕を見下ろした。

「お前に嫌な嘘を教え込んじまったな」
「え? 嫌じゃないよ。母さまが森のことは秘密にするようにって言ったんだ。秘密を守るための嘘だもの。僕は母さまの約束を守りたい……あ、アランには言っちゃったけど。けれど他の人には絶対秘密」

 アランだけが僕の秘密を知っている。
 僕にとって特別な人だから、きっと母さまも許してくれると思う。
 そう思って見上げる僕に、アランはふっと微笑んだ。

「絶対秘密か。じゃあ、もう一つ秘密を作ってくれるか?」
しおりを挟む
感想 43

あなたにおすすめの小説

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!? 溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。

異世界ぼっち暮らし(神様と一緒!!)

藤雪たすく
BL
愛してくれない家族から旅立ち、希望に満ちた一人暮らしが始まるはずが……異世界で一人暮らしが始まった!? 手違いで人の命を巻き込む神様なんて信じません!!俺が信じる神様はこの世にただ一人……俺の推しは神様です!!

転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!

めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。 ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。 兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。 義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!? このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。 ※タイトル変更(2024/11/27)

しっかり者で、泣き虫で、甘えん坊のユメ。

西友
BL
 こぼれ話し、完結です。  ありがとうございました!  母子家庭で育った璃空(りく)は、年の離れた弟の面倒も見る、しっかり者。  でも、恋人の優斗(ゆうと)の前では、甘えん坊になってしまう。でも、いつまでもこんな幸せな日は続かないと、いつか終わる日が来ると、いつも心の片隅で覚悟はしていた。  だがいざ失ってみると、その辛さ、哀しみは想像を絶するもので……

君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが… 「お前なんて知らないから」

身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~

椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」 私を脅して、別れを決断させた彼の両親。 彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。 私とは住む世界が違った…… 別れを命じられ、私の恋が終わった。 叶わない身分差の恋だったはずが―― ※R-15くらいなので※マークはありません。 ※視点切り替えあり。 ※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

ずっと好きだった獣人のあなたに別れを告げて

木佐木りの
恋愛
女性騎士イヴリンは、騎士団団長で黒豹の獣人アーサーに密かに想いを寄せてきた。しかし獣人には番という運命の相手がいることを知る彼女は想いを伝えることなく、自身の除隊と実家から届いた縁談の話をきっかけに、アーサーとの別れを決意する。 前半は回想多めです。恋愛っぽい話が出てくるのは後半の方です。よくある話&書きたいことだけ詰まっているので設定も話もゆるゆるです(-人-)

処理中です...