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第一章 冒険者に拾われた僕
27 自由がいいんだ
しおりを挟む身体を洗ってゆっくりと温かいお湯に浸かって、ふわぁ~と、力が抜けていった。
アランは口も悪くて乱暴なところもあるけれど、すごく頼りになる。
いや、安心する? たくさんの魔物と戦って生き抜いてきた強さがあって、村一番の狩りの名人のようにいろんなものを注意深く見て、考えている。
冒険者という仕事がどういうものか、言葉で説明されたことでしか分からない。だけれどきっとすごく腕が立つんじゃないかな……と思う。
同時にそれは、アランがたくさん傷ついてきて、覚えたものだと知った。
草原で肩やお腹についた傷を見せられた時、怖くて泣きそうになった。そして今、湯屋でアランの背中を見て、哀しくなった。
背中はどれも古い傷ばかりだったけれど、ずっと消えないでいるのだから。
アランを慰めてくれる人って、いるのかな?
怖い夢を見た夜、ぎゅっと抱きしめてくれる人はいるんだろうか?
居ないわけがないと思うけれど……けれど、アランの口からそういう人の話も名前も出てこない。僕が子供だから内緒にしているのかな?
そんなことを考えると、胸の辺りが重く、もやもやしてくる。
今の僕に出来ることは少なくて……むしろ、邪魔みたいに思っていたらどうしよう。
着ていた服を全部処分してもらい、言いつけられた通りに荷物を持って食事をする建物に戻る。お店のおばさんは、「もう少しで出来るからね」と笑って言うから、僕は頷いてちゃんと待っていた。
それなのに……アランはなかなか戻って来ない。
僕を置いてどこかに行っちゃったのかな。
そう思うと落ち着かなくて、外に様子を見に出た。
――アランは、馬に乗った金の髪と青い瞳の人と、話をしていた。
すごく綺麗でキラキラしている、見ただけで、この人は「貴族」っていう偉い人なんだと分かった。
僕より少し年上なぐらい。アランよりは年下だ。けれどこの人が命令をしたら、みんな頭を下げて言いなりになってしまうような、そんな雰囲気の人だった。
そんな人とアランは普通に話をしていた。
むしろアランの方が堂々としていて、最後には馬の上の、青い瞳の人が謝るようなそぶりを見せた。仲間の人と隊に戻っていって村を出ていくまで、僕はアランの側には行けなかった。
なんだかアランがピリピリしているような気がしたから。
怒っている、というのも違うみたいだけれど。
そしてそれは魔物の話があったから……ということが、後の話で分かったけれど。このまま僕を置いて魔物を倒しに行くんじやないかと思った。
アランはいろいろな事を深く考えていて、僕にはその全てを理解することができない。
僕がアランと一緒に居られるためには、何をすればいいだろう。
「サシャは、あいつらを見たか?」
「貴族の人たち? うん、遠くから、ちょっとだけ。髪が金色ですごくキラキラしていたね。着ている物も立派だった」
金色の髪は母さまを思い出して、寂しくなる。
だから僕はアランの腕をぎっゆっと抱きしめた。ずっと外に立っていたから、アランの身体は少し冷たくなっていて、早くあったかいご飯をたくさん食べてほしいと思う。
店に入ると、おばさんが「お待ちどうさま」と、大きな鍋を持って来てくれた。焼きたての蒸しパンも!
鍋の中には肉やら野菜や芋がたくさん入っている。良い匂いの薬草も入っていて、身体が温まりそうだ。すごいご馳走だよ!
アランが「熱いから気を付けろ」と言いながら、小さなスープボウルに取り分けてくれる。
「サシャは、あんな恰好をしてみたいのか?」
「えっ、貴族の? 全然。カッコイイけれどギュッてなってて苦しそう」
「ははは、まぁ、そうだな」
アランか笑う。
それだけで僕の胸はほわほわと温かくなっていった。
「アランはあんな恰好したい?」
「まさか。城勤めの騎士や兵士なんか、規則だ何だと窮屈そうで嫌だね」
「自由がいいんだ」
「ああ。俺を自分の思い通りにさせようとする奴がキライだな」
大きな肉にかぶりつくアランを見て、僕は心の中で「アランは自由が好き」と繰り返した。
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