冒険者に拾われ聖騎士に求められた僕が、本当の願いに気づくまで。

鳴海カイリ

文字の大きさ
上 下
26 / 281
第一章 冒険者に拾われた僕

26 アラン・君のような瞳の者

しおりを挟む
 


 ザハリアーシュは断られると思わなかったのだろう。青い瞳を見開いてから、首をかしげるようにして言い重ねてきた。

「依頼を? それは魔物討伐より優先すべきことか? どういった物だ?」
「希少な動植物の採取だ」
「ならば違約金を上乗せしてもいい」

 先の依頼を蹴ってでも、隊に随伴しないか? ということだろう。

 魔物にもただの迷惑な物から、国一つ軽く亡ぼしてしまう物まで様々だ。
 その中で討伐の依頼がでるものは、大抵人死にが出るような厄介なヤツだ。だからこそ冒険者なら、いや騎士や剣士といった戦うことのできる者なら、何を置いても魔物討伐を優先する。
 同じ迷惑な存在でも、害獣や盗賊退治と魔物討伐とでは、危険度も報酬も桁違いになる。
 それを分かっていながら動植物の採取を優先すると言う俺を、不思議に思うのも無理は無い。

「俺は金より信用を優先したいんだ。魔物退治より緊急性は低いかもしれないが、首を長くして待っている依頼者がいる」
「どうしても、とお願いしても?」
「悪いな。それに俺みたいな流れの冒険者が交じっては、隊の規律が乱れちまう。見た感じ戦力は十分だろう。今回は縁が無かったと思ってくれ」

 絶対に考えを変えないという毅然とした姿に、ザハリアーシュもあきらめたようだ。「そうか、すまなかった」と呟いて、隊の方に視線を向けた。
 俺と立ち話ている様子を見て、兵士を連れた兄、カエターンが騎乗したままこちらに向かって来る。「何かあったのか?」と問う兄に、ザハリアーシュは今のやり取りを簡単に伝えた。

「アーシュ、お前の目利きは信用しているが、此度こたびの討伐は重要な意味を含んでいる。現地で兵を募るのは無し、だ」
「かしこまりました。差し出がましいことを申し訳ありません」
「よい。アーシュの心意気は私も父上も、よく理解している」

 アーシュと親し気に呼ばれたザハリアーシュは、兄に詫びてから俺に顔を向けた。

「信用を第一とするアランにも失礼なことを言った。許せ」
「俺みたいな平民に頭を下げる必要なんかねぇよ」
「いや、人として貴族平民に違いは無い。いつの日か、また会いまみえることがあったなら、正式に依頼をさせてほしい。君のような瞳の者は、きっと良い働きをしてくれる」

 何だか、お貴族の坊ちゃんに気に入れちまったようだ。
 俺は苦笑しながら「また会えたらな」と返して、立ち去る者たちを見送った。思ったより長く立ち話をしていたのか、身体が冷えてしまったようだ。
 小隊が村から出立していく。その様子を見送る俺の後ろに、駆け寄る足音があった。

「アラン!」

 俺の腕に掴まったサシャは、隣に並んで遠くなっていく小隊に視線を向けた。

「貴族の人たち出発したの?」
「ああ、魔物退治に行くそうだ」
「魔物?」

 サシャが首をかしげる。
 俺は違和感を確かめるようにサシャに訊ねた。

「樹々や草花たちは、この辺りに凶悪な魔物がいると知らせているか?」

 俺の言葉にサシャは首をかしげながらも、暮れ行く空の下の草原に視線を向けた。人には聞こえない精霊たちの言葉に耳を傾けているのだろう。
 一つ、二つ……いや、十は数えるだろう間を置いてから、サシャは俺を見上げた。

「えぇっと……人の言うの基準は分からないって。でも、アランが倒せないような魔物はいない」
「魔物が全くいないってわけじゃないだろ?」
「うん。僕ぐらいの大きさの、土を食べて地面の下を空洞だらけにしてしまう魔物は、僕の足で三日ほど歩いたあっちの方に数体いるって」

 モグリモグだ。
 直接人間を襲うことは無いが、穴だらけになった上を歩けば落ちて大怪我をする。家の下に現れたなら、簡単に建物など傾いでしまう。依頼があれば迅速に討伐をしなければならない、危険対象物だ。
 だが……サシャの言う通り、地面の下の魔物は厄介でも倒せないほどではない。
 事前の準備があれば俺一人でもどうにかなる。

「アラン、その魔物を倒しに行くの?」

 草花たちが知らせるよりずっと遠くに、凶悪な魔物がいるのだろうか。
 ふ……と考えて軽く頭をふった。
 俺は冒険者だ。そういうものは魔物討伐を専門とする騎士や剣士に任せておけばいい。今の俺はサシャを連れ、生活の基盤を整えること。それには俺が冒険者になった町まで行く必要がある。

「行かねぇよ。腹も減ったしな」
「うん。あんまり遅いから呼びに来たんだよ!」

 ぎゅ、と俺の腕を抱きしめて、サシャは明るく笑った。
しおりを挟む
感想 43

あなたにおすすめの小説

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。

恋人が出て行った

すずかけあおい
BL
同棲している恋人が書き置きを残して出て行った?話です。 ハッピーエンドです。 〔攻め〕素史(もとし)25歳 〔受け〕千温(ちはる)24歳

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

急に運命の番と言われても。夜会で永遠の愛を誓われ駆け落ちし、数年後ぽい捨てされた母を持つ平民娘は、氷の騎士の甘い求婚を冷たく拒む。

石河 翠
恋愛
ルビーの花屋に、隣国の氷の騎士ディランが現れた。 雪豹の獣人である彼は番の匂いを追いかけていたらしい。ところが花屋に着いたとたんに、手がかりを失ってしまったというのだ。 一時的に鼻が詰まった人間並みの嗅覚になったディランだが、番が見つかるまでは帰らないと言い張る始末。ルビーは彼の世話をする羽目に。 ルビーと喧嘩をしつつ、人間についての理解を深めていくディラン。 その後嗅覚を取り戻したディランは番の正体に歓喜し、公衆の面前で結婚を申し込むが冷たく拒まれる。ルビーが求婚を断ったのには理由があって……。 愛されることが怖い臆病なヒロインと、彼女のためならすべてを捨てる一途でだだ甘なヒーローの恋物語。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(ID25481643)をお借りしています。

僕だけの番

五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。 その中の獣人族にだけ存在する番。 でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。 僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。 それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。 出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。 そのうえ、彼には恋人もいて……。 後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。

成長率マシマシスキルを選んだら無職判定されて追放されました。~スキルマニアに助けられましたが染まらないようにしたいと思います~

m-kawa
ファンタジー
第5回集英社Web小説大賞、奨励賞受賞。書籍化します。 書籍化に伴い、この作品はアルファポリスから削除予定となりますので、あしからずご承知おきください。 【第七部開始】 召喚魔法陣から逃げようとした主人公は、逃げ遅れたせいで召喚に遅刻してしまう。だが他のクラスメイトと違って任意のスキルを選べるようになっていた。しかし選んだ成長率マシマシスキルは自分の得意なものが現れないスキルだったのか、召喚先の国で無職判定をされて追い出されてしまう。 一方で微妙な職業が出てしまい、肩身の狭い思いをしていたヒロインも追い出される主人公の後を追って飛び出してしまった。 だがしかし、追い出された先は平民が住まう街などではなく、危険な魔物が住まう森の中だった! 突如始まったサバイバルに、成長率マシマシスキルは果たして役に立つのか! 魔物に襲われた主人公の運命やいかに! ※小説家になろう様とカクヨム様にも投稿しています。 ※カクヨムにて先行公開中

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...