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第一章 冒険者に拾われた僕
18 仲直りすればいいよ
しおりを挟む「まぁ、そんなふうに親と生き別れた俺はバラーシュ王国で育ち、冒険者になった。そしてこの年になって肉親の情報を得た。そうだな……あの森の遥か向こうには、昔、王国があったらしい……」
んんん、と考える仕草で視線を空に向ける。
「今は魔物の巣窟となっている、亡国モルナールだ。十数年前、カドラドスとは比べものにならないほど強大な邪竜に滅ぼされたと聞いている。サシャとお前の母親――つまり俺の姉は、その亡国の辺境で暮らしていた。周囲には村も町も無い孤立した集落だ。だからサシャは、この国のことを何も知らない」
僕が無知なのは、他国の辺境にいたから……ということだ。
「ちなみに俺の両親――サシャの祖父母は既に亡くなっていて、サシャの父親は誰か分からないということにしておこう」
「父さまが分からない、ということ?」
「そうだ。お前の瞳の色が人とは違うのは、どこの誰かわからない父親の血を継いでいるからということにする。サシャは母から父親の話を何も聞いていない。誰かに訊ねられたら、そう言えばいい」
父さまから受け継いだのは銀の髪だ。
けれどそれはアオニ草で染めて、知られないようにしている。
「俺の姉……サシャの母親の名前だが――」
「オルガ」
「んん? それは本当の母の名前か?」
「違う」
母さまの本当の名前はオティーリエだ。
オルガは村の守り神になっていた大鳥の名前。そんな名前を、作り話の母さまの名前にしてしまってもいいだろうか。
そう心配する僕をよそに、アランはあっさり頷いた。
「ふぅん、まぁ、いいか。じゃあ、オルガにしよう。オルガとお前は集落の隅で貧しい暮らしをしていた。俺は旅人からお前たち親子の噂を聞き、会いに行ったんだ」
「それで僕とアランは出会ったことにするの?」
「そうだ。オルガは病に倒れていて、お前を俺に託して息を引き取った。俺は、俺の詳しい出生を聞くこともできず、看取ることになった」
うん、と頷きアランは続ける。
「なかなか感動的な話だろ? 俺は姉の遺言を果たすため、唯一の肉親を守る誓いをした……という話だ。サシャにしてみれば突然現れた他人に引き取られ、故郷を離れることになった不安もある。俺たちの間が上手くいかなかったとしても、まぁ、理由になるだろう」
「僕とアランは上手くいかないの?」
「あぁ?」
肩眉を上げて僕を見る。
「長く一緒にいれば、相手の嫌なところが我慢できなくなって、喧嘩することもあるだろ? ずっと仲良し、なんてことはねぇよ」
「喧嘩したら仲直りすればいいよ」
アランは乱暴で言葉が悪くて、あれこれ命令する。相手が子供だろうか気にしない。歩くのも速くて、ちっとも待ってくれない。
だからって、嫌いになったかと言えば違う。
夜になると温かい飲み物を用意してくれて、天幕や毛布を譲ってくれた。
今もこうして色々考えてくれている。乱暴でも優しいところもあるんだ……。
じっと見つめると、アランは困ったような顔をして視線を逸らした。
ちょっと目の辺りが赤くなっているのは気のせいかな。
「そうだな、喧嘩をしたら仲直りだ」
「うん」
頷いて、「そういえば」と僕は声を上げる。
「ねぇ、乱暴な言葉づかい、止めてよ」
「はぁ? お前、俺に要求する気かよ」
「お願いだよ。なんだか盗賊みたいで怖いから」
そう言うと、アランはものすごく困った顔になった。
「……俺は、お上品な育ちじゃねぇんだよ」
「でも少しずつ直せるでしょう? 僕だけじゃなくて、他にも怖いって思う人がいるかもしれない。それと……」
「まだあるのか」
今度は嫌そうな顔になった。
「朝起こす時、背中を蹴るのは止めて」
「蹴る以外に起こす方法なんてあるのかよ」
「普通に、声を掛ければいいじゃないか」
「それで起きるのか?」
「起きるよ。アランは蹴られないと起きれないの? もし起きなかったとしても、肩をゆらゆらするだけでいいよ」
少し怒った声で言うと、何か考え事をするように視線を彷徨わせてから「わかったよ」と言い返した。
「それで起きなければ蹴るからな」
「うん」
頷いて、僕は焚き火を挟んで向かい合っていた位置から、アランの隣に移動した。肩を、アランの腕にぴったりと合わせる。
変な物を見るようなアランに、僕は笑って返した。
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