上 下
18 / 281
第一章 冒険者に拾われた僕

18 仲直りすればいいよ

しおりを挟む
 


「まぁ、そんなふうに親と生き別れた俺はバラーシュ王国で育ち、冒険者になった。そしてこの年になって肉親の情報を得た。そうだな……あの森の遥か向こうには、昔、王国があったらしい……」

 んんん、と考える仕草で視線を空に向ける。

「今は魔物の巣窟となっている、亡国モルナールだ。十数年前、カドラドスとは比べものにならないほど強大な邪竜に滅ぼされたと聞いている。サシャとお前の母親――つまり俺の姉は、その亡国の辺境で暮らしていた。周囲には村も町も無い孤立した集落だ。だからサシャは、この国のことを何も知らない」

 僕が無知なのは、他国の辺境にいたから……ということだ。

「ちなみに俺の両親――サシャの祖父母は既に亡くなっていて、サシャの父親は誰か分からないということにしておこう」
「父さまが分からない、ということ?」
「そうだ。お前の瞳の色が人とは違うのは、どこの誰かわからない父親の血を継いでいるからということにする。サシャは母から父親の話を何も聞いていない。誰かに訊ねられたら、そう言えばいい」

 父さまから受け継いだのは銀の髪だ。
 けれどそれはアオニ草で染めて、知られないようにしている。

「俺の姉……サシャの母親の名前だが――」
「オルガ」
「んん? それは本当の母の名前か?」
「違う」

 母さまの本当の名前はオティーリエだ。
 オルガは村の守り神になっていた大鳥の名前。そんな名前を、作り話の母さまの名前にしてしまってもいいだろうか。
 そう心配する僕をよそに、アランはあっさり頷いた。 

「ふぅん、まぁ、いいか。じゃあ、オルガにしよう。オルガとお前は集落の隅で貧しい暮らしをしていた。俺は旅人からお前たち親子の噂を聞き、会いに行ったんだ」
「それで僕とアランは出会ったことにするの?」
「そうだ。オルガはやまいに倒れていて、お前を俺に託して息を引き取った。俺は、俺の詳しい出生を聞くこともできず、看取ることになった」

 うん、と頷きアランは続ける。

「なかなか感動的な話だろ? 俺は姉の遺言を果たすため、唯一の肉親を守る誓いをした……という話だ。サシャにしてみれば突然現れた他人に引き取られ、故郷を離れることになった不安もある。俺たちの間が上手くいかなかったとしても、まぁ、理由になるだろう」
「僕とアランは上手くいかないの?」
「あぁ?」

 肩眉を上げて僕を見る。

「長く一緒にいれば、相手の嫌なところが我慢できなくなって、喧嘩することもあるだろ? ずっと仲良し、なんてことはねぇよ」
「喧嘩したら仲直りすればいいよ」

 アランは乱暴で言葉が悪くて、あれこれ命令する。相手が子供だろうか気にしない。歩くのも速くて、ちっとも待ってくれない。
 だからって、嫌いになったかと言えば違う。
 夜になると温かい飲み物を用意してくれて、天幕や毛布を譲ってくれた。
 今もこうして色々考えてくれている。乱暴でも優しいところもあるんだ……。

 じっと見つめると、アランは困ったような顔をして視線を逸らした。
 ちょっと目の辺りが赤くなっているのは気のせいかな。

「そうだな、喧嘩をしたら仲直りだ」
「うん」

 頷いて、「そういえば」と僕は声を上げる。

「ねぇ、乱暴な言葉づかい、止めてよ」
「はぁ? お前、俺に要求する気かよ」
「お願いだよ。なんだか盗賊みたいで怖いから」

 そう言うと、アランはものすごく困った顔になった。

「……俺は、お上品な育ちじゃねぇんだよ」
「でも少しずつ直せるでしょう? 僕だけじゃなくて、他にも怖いって思う人がいるかもしれない。それと……」
「まだあるのか」

 今度は嫌そうな顔になった。

「朝起こす時、背中を蹴るのは止めて」
「蹴る以外に起こす方法なんてあるのかよ」
「普通に、声を掛ければいいじゃないか」
「それで起きるのか?」
「起きるよ。アランは蹴られないと起きれないの? もし起きなかったとしても、肩をゆらゆらするだけでいいよ」

 少し怒った声で言うと、何か考え事をするように視線を彷徨わせてから「わかったよ」と言い返した。

「それで起きなければ蹴るからな」
「うん」

 頷いて、僕は焚き火を挟んで向かい合っていた位置から、アランの隣に移動した。肩を、アランの腕にぴったりと合わせる。
 変な物を見るようなアランに、僕は笑って返した。
しおりを挟む
感想 43

あなたにおすすめの小説

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!

棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~

椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」 私を脅して、別れを決断させた彼の両親。 彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。 私とは住む世界が違った…… 別れを命じられ、私の恋が終わった。 叶わない身分差の恋だったはずが―― ※R-15くらいなので※マークはありません。 ※視点切り替えあり。 ※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。

獣人の子供が現代社会人の俺の部屋に迷い込んできました。

えっしゃー(エミリオ猫)
BL
突然、ひとり暮らしの俺(会社員)の部屋に、獣人の子供が現れた! どっから来た?!異世界転移?!仕方ないので面倒を見る、連休中の俺。 そしたら、なぜか俺の事をママだとっ?! いやいや女じゃないから!え?女って何って、お前、男しか居ない世界の子供なの?! 会社員男性と、異世界獣人のお話。 ※6話で完結します。さくっと読めます。

兄たちが弟を可愛がりすぎです

クロユキ
BL
俺が風邪で寝ていた目が覚めたら異世界!? メイド、王子って、俺も王子!? おっと、俺の自己紹介忘れてた!俺の、名前は坂田春人高校二年、別世界にウィル王子の身体に入っていたんだ!兄王子に振り回されて、俺大丈夫か?! 涙脆く可愛い系に弱い春人の兄王子達に振り回され護衛騎士に迫って慌てていっもハラハラドキドキたまにはバカな事を言ったりとしている主人公春人の話を楽しんでくれたら嬉しいです。 1日の話しが長い物語です。 誤字脱字には気をつけてはいますが、余り気にしないよ~と言う方がいましたら嬉しいです。

処理中です...