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第一章 冒険者に拾われた僕
17 さて、嘘をつこうか
しおりを挟むアランの言葉に首を傾げた。
「嘘を……つく?」
「そうだ。俺には本当のことを話してもらうが、誰にでもお前の秘密をべらべらしゃべるわけにはいかないんだろ? だったら、それに代わる嘘を用意しなくちゃいけない」
僕は瞬きをした。そしてあまりにも当たり前のことに思い至る。
本当のことを言えないなら、嘘でごまかすしかない。
とっさに嘘の名前で答えたのに、それ以上のことまで考えていなかった。いろいろ聞かれたくないのなら、僕はアランが納得するような嘘を用意しなくちゃいけなかったんだ。
「上手く嘘をつくには、お前の本当を聞かなくちゃならない。サシャ、お前はあの森の奥に住んでいた者か?」
ぐ……と声が喉に詰まる。
それでも隠しごとはしないと約束した僕は、小さく頷いた。
「銀の髪はお前だけか? それとも、一緒に暮らしていた者……サシャの両親も同じ髪と瞳の色だったのか?」
髪? 瞳の色? なんでそんなことを聞くのだろう。
「母さまは金の髪で水色の瞳。父さまは銀の髪で紫の目の色だった。村の人たちは、皆……父さまと同じ、銀色の髪と紫の目だったよ」
「村の人? 何人いたんだ」
「……えぇっと、全部で十九人」
「子供も含めてか?」
「うん」
「そいつらは今……」
「皆、盗賊に殺された」
言って、手にしたカップをぎゅっと握る。
アランの瞳が鋭くなる。
「森に火を放った奴らか?」
頷いた。温かいカップを持っているはずなのに、指先が冷たくなっていくような気がする。突然何の前触れもなく襲って来たんだ。結界だってあったはずなのに。
「なるほどな」
アランが小さく呟いた。
「両親も亡くなったのか?」
「僕を……オークの木の洞に隠して、逃げた森の奥で切られたいた。母さまは盗賊が居なくなったら森を出て、誰にも何も言わないで生きていくようにって言ったんだ。だから僕は――」
「本当の名前も言わず、サシャと?」
顔を上げた。
「知っていたの?」
「たぶんそうだろうと思っていただけだ」
そうか……僕の嘘は見透かされていたんだ。
何だか肩の力が抜けていく。
「……アラン、僕の本当の名前は……」
「言わなくていい」
じっと僕を見つめながら、アランは言う。
「昔の名前は捨てたんだろ? お前は森を出てサシャになった。だから俺は、お前をサシャと呼ぶ。それとも昔の名前で呼ばれたいか?」
昔の名前。
ほんの数日前まで呼ばれていた名前は、もう遠い昔のことのように思える。
僕は首を横に振った。
「僕は、サシャだ」
「ならそれでいい。他に身に着けているもの……何か形見になるような物は持っているか?」
「カタミ?」
「村の秘密に繋がるような思い出の品だ」
自分の胸に手を当てて、何か無いかと思い巡らしてみるが何も無い。
母さまが編んでくれた上着も、父さまがくれた狼の牙のお守りも、全てあの燃えた村に置いてきてしまった。
「何も無いよ。今、着ている物以外は何も」
「わかった」
アランは頷いて、干し肉をナイフで千切り僕に手渡す。
そしてひとつ息をついてから、ゆっくりと話し始めた。
「いいか。これから俺が言うことが、サシャの新しい生い立ちだ」
「僕の?」
「まずお前は、俺の甥っ子ということにする。俺に生き別れた姉がいて、その姉の子供がサシャ、お前だ」
「親戚……ということ?」
「そうだ。サシャは賢いな」
ふ、とアランが笑った。
「俺は三つの時に故郷を離れた。貧しさの口減らしとして家族と生き別れたんだ」
「クチベラシって何?」
「少ない食い物を確保するために、役に立たない子供を売ったり捨てたりすることだ」
「ひどい。アラン、捨てられたの?」
「そういう作り話だよ。俺は自分の親を知らない。どこにいるのか、生きているのかもな」
そう、さらりと言って、焚き木に枝を入れた。
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