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第一章 冒険者に拾われた僕
15 違うという声がある
しおりを挟む突然襲って来た盗賊から逃げて、母さまに森を出なさいと言われた。
アランと出会い、ずっとあの場所にいるわけにはいかないからと、村を目指して歩いてきた。僕はずっと運命に流されてきたんだ。
けれど、今、ここからは違う。
アランと一緒に行くのなら、言うとを聞いて秘密も打ち明けなければならない。
何も言えないのなら、自分一人で生きていかなくちゃいけない。
ここまでの道のりで、僕が暮らしていた森の中と外は、色々なものが大きく違うことを知った。
お金のこと。時間や距離のこと。
貴族や商人や様々な人が、皆それぞれの役目を持って働いていること。
他にもきっと、僕の知らない決まりや仕組みがたくさんあるのだと思う。その一つ一つを、誰もが親切に教えてくれるとは限らない。
アランのように、僕に手を差し伸べてくれる人はいるかもしれないけれど……村を襲って来た盗賊のようなヤツらもきっといる。それを僕は見極めて、生きていくことが出来るのだろうか。
アランを見上げる。
じっと僕を見下ろす顔から、感情を読み取ることはできない。
樹々や草花に聞いても、「この道が正しい」という答えは返って来ない。
精霊たちが教えてくれるのは、危険が近づいているとか空や大地の様子。どこに何があるよ……といたことだけだ。
何が正しくて、何が間違いか、という基準は精霊たちには無い。
それを判断するのは僕なのだから。
「アラン……」
心細くなって名前を呼んだ。
お金だって持っていないし、洗ったとはいえ血だらけの服を着ている。村の人たちがこんな僕を見ればきっと驚くし、何があったのか訊かれるだろう。
訊かれても……僕は、何も答えられない。
一人では無理だ……だから、一緒に行って欲しい。
そう思う僕の中で、「違う」という声がある。
助けて欲しから、という以上に、もっと大切なものがある。
「アラン……もしここで別れたら、二度と、会えない?」
「あぁん?」
アランの眉が変な形に歪んだ。
思ってみなかったことを聞かれた、といった感じだ。それからいつものようにガシガシと頭を掻いてから、「あぁ……まぁ……」と声を漏らした。
「絶対に二度と会えない、と断言はしないが。おそらくもう会うことは無いだろうな。俺はあちこちの町を行き来する冒険者だ。この国は広大で、生き別れた人間を探すのは難しい」
「そんな……」
「それに俺は、また会うことを期待するような別れは好かない」
別れたならそれはもう、二度と出会わない覚悟をする。
アランは全てを捨ててただ前を行く。そういう生き方をしてきたのだと思う。
「嫌だ……」
腕を伸ばしてアランのシャツを握った。
「……もう、二度と会えないとか……嫌だ」
じわ、と目の奥が熱くなって、視界が歪んだ。
続いて熱いものが溢れて来る。頬を伝って流れていく。驚いた顔のアランが、溢れるものににじんで良く見えなくなっていく……。
「サシャ」
「アランがいなくなるの、嫌だよぉ」
「泣くなよ……」
「……な、泣いてない」
ぐい、と手の甲で顔をこする。
けれど何故か分からないけれど、涙が溢れて止まらない。
「泣くほどのことか?」
「泣いてないってば!」
「はいはい」
呆れたような笑い声が漏れた。
僕は「泣いてない」と言いながら、溢れてくるものを止められないでいる。それでも、一度大きく深呼吸してから、アランを真っ直ぐ見上げた。
「僕は、アランと行く」
アランと生きていく。
その道を、自分の意思で選ぶ。
アランが肩の力を抜いた。
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